第八話:落城

 レーンが下がったままの料金所を突破して、私たちの車は先を急ぐ。

 たしかETCの挿入口にカードは刺さっていたけど、料金計算はされてないんだろうな、となんとなく考えてしまう。


 そんな物思いにふける間もなく、前方に立ちふさがる異様な人影が見えた。

 ……いや、それは確かに二足歩行していたけれど、はたして『人影』と呼べるかどうかは、あやしかった。


 三メートル以上はある巨体。それに負けず劣らずの胴回り。

 重い足どりで一歩進み出るたびに、あちこちにとりつけられたケーブルやチューブがうごめく。


 鋼鉄で着ぶくれした彼は、スピーカーを通じて、大音声で叫んだ。


「我が名は『銀の騎士団』、第一挺身隊の筆頭組頭! 『シルバー・アーミー』! 前回を猛省し、名乗りは省略する!」


 とかなんとか言いつつ、その前口上はひたすら長い。

 というか、以前病院で 襲撃してきたときと、ほぼおんなじ口上じゃないのか。


 ただ違う点は、以前よりも着込んだ装甲が、物々しくなっているということか。

 そして、その周辺には、膨大なエネルギーが、空間を歪ませるほどに充満していた。


「グラビティ・エンジン……始動。各機関部とのリンクを確認……超質量過密化……開始」


 まるで魔法の呪文のように用語をつぶやくと、仁王立ちした彼の脚部が地面にめり込んだ。

 相当の重量と負荷がかかっているはずなのに、ガスマスク姿の本人は平然としている。


「ユニット、固定、完了! 重力場の安定を確認! これでここには、三百トン以上のプレッシャーがかかることになった! そしてこの力場では、いかなる異能、いかなる技術も無力と化すッ」


 その足元から発生したヒビはどんどん広がっていき、道路そのものを大きく揺さぶった。さすがの私の動力と、ここまで安定をたもってきたアラタのコントロールでさえふらつくというのに、『シルバー・アーミー』は一歩たりともたじろぎはしなかった。


「おい、よせっやめろ!」

 車内からあわてたようなクロウの声が聞こえるけれど、それが通じるはずもない。


「これより、我は不落の堅城! さぁ、抜けるものならば抜いてみせるがいい!」


 高らかに豪語した巨大な装甲兵は、手にしたメイスのようなものを大上段に振り上げ、そして……




 抜けた。

 重みに耐えかねた地面が。

 落ちた。

 その中心に立っていた彼が。



「うおおおォォォォ…………!?」



 野太い断末魔が、落下とともに小さくなっていく。

 やがて数十メートル下から響いた衝撃音とともに、完全に聞こえなくなった。


「……だから言ったのに」


 なんとも言えない微妙な空気のなか、クロウが発したぼやき。

 返事こそしなかったものの、私たちはしずかに頷いたのだった。

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