第八話:お次はターザンと来たわ

 なんかもう、好きにしろという感じだった。

 ヘンテコな武器を持った傭兵に、SFチックな乗り物にまたがった軍隊に、超能力者にサイボーグ忍者に、オマケに次は変身ヒーローときたもんだ。


 ここで『魔法少女』まで来たら、お子様から大きなお友達まで大歓喜間違いなしだろう。


「というか、私がそのポジションかな。キラキラしている武器もってマスコット連れてるし」

「体も幼児体型だしな。……だぁっ!?」


 クロウを壁まで蹴っ飛ばして、私は天井の穴から車の上までジャンプした。

 解放感がものすごすぎてクラクラするぐらいだけど、360度まるまる視界がきくっていうのは、やっぱりいいものだ。


「おいっ、危険だぞ!」


 下から相生さんの声が聞こえた。


「バカ言え、神様の道具をせまい中ブン回してるほうがよっぽど危険だっつーの。安心しなよ、オッサン。ガキの面倒見るのは、慣れてっから」


 それに対して答えたのは、私じゃなくて彼……アラタとかいうやつだった。

 あまりに図々しく、ストレートな物言いが逆に痛快だった。


 そんな私たちの上空には、まるでアキアカネのように、無数の飛行物体が迫ってきていた。


「……とはいえ、こっからがラストスパートだ。ハラぁくくれよ」

「くくってなかったらとうの昔にハラかっさばかれて『タマ』とられてる」

「そりゃそうか」


 ひくい声でアラタが笑う。


 だけどお近づきの握手やハグをする前に、敵が襲ってくる。

 ばらまかれた爆弾が落下するよりも、私は上空に『鏡』を放り投げて、エネルギーの障壁を展開した。


 途中でさまたげられた爆弾が、火の花を咲かせる。そこを縫って、アラタの両腕から布が発射された。

 巻き取られた『シルバー・グライド』やヘリコプターが、アラタの腕力に引っ張られて、地面に落下する。私たちの背後で広がる火炎が、地上の敵の追撃を防いでくれた。


 ところがそのヘリやガジェットの乗り手はパワードスーツを着込んだまま、平然とダッシュで、あるいは後続のバイクに相乗りしたり奪ったりして、私たちを追い始めた。

 ……ほんとうに、この場は色んな意味で命が軽すぎる。相手の心配をするのが、バカらしくなるぐらいに。


 そうして追いすがる敵に、アラタこと『トライバルX』は駆けだした。

 車から飛び降りた。いや、車体に命綱を巻き付けたまま、サーカスみたいに軽やかに宙を舞う。突き出した両足によって、バイカーの何人かが突き落とされた。


 だがそんな彼の前に、私たちの何倍もの大きさを持つトレーラーが、真っ向から突っ込んできた。


 アラタはここにも届くぐらいおおきく舌打ちすると、

「いったん運転かえすぞ!」

 と言うがはやいか、自らの命綱の布をほどいた。

「うお、お!?」

 途端に運転手の悲鳴が聞こえ、ドライビングがはげしく乱れる。


 左右に揺さぶられる視界のなか、アラタの包帯姿があのトレーラーに張り付くのが見えた。……彼の手から広がる、あの影絵のような鎖が、その巨体を絡み取るのも。


「な、なんだ!? 運転がきかんッ!」


 という悲鳴にちかい同様の声が、そこから漏れた。

 やがてその超大型車両はおおきく体を横たえて、後続車と大規模な玉突き事故を起こし、身動きがとれなくなった。


 元鞘、というか車にもどってきたとたん、私たちの運転はふたたび安定をはじめた。


 ……マシーンの、支配。

 私がエンジンなら、彼はハンドル兼ブレーキ、アクセルペタルといったところか。


 それがたぶん、けったいな恰好をした彼の、固有の技術らしかった。


 地上の相手をアラタが受け持ってくれるのだから、地上の相手は自然と私、という流れだろう。

 その手にもどした『鏡』を投げつける。

 グライダーを炎上させたけど、グライダーたちは鋼鉄の肉体を活かして、ためらいなく愛機から飛び降りていった。


 手足を拡げ、カエルのような体勢で張り付こうとする。

 『鏡』を引き戻そうとする私の手を、包帯男が押さえた。


「いーや、これでいい。そのまま出しとけ」


 と言うが早いか、彼は右手を突き出し、包帯を射出した。

 そして私の『鏡』を拘束すると、まるでハンマー投げみたいにそれを空中でスイングバイ。私のスロウイングよりはるかに効率的な軌道で、敵をなぎはらった。


「わぁスゴイ。ニューヨークの高層ビル群飛び回ったら画面映えしそう」

「あいにくと、小粋なアメリカンジョークの引き出しは少なくてな」


 私の軽口にも当意即妙のかえしができる分、頭の良さ、というか鋭さがうかがえた。


 単純に、エンジンとハンドルだから、というだけじゃない。

 正直なハナシ、変身変態包帯男になんて好かれたくはないんだけど、なんだろう。彼とはとても、息が合った。

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