第87話 ポケモンゴォオオオオオオオオ!

 夏は暑い! でも我輩と園市は昼間の公園でポケモンG●をやっていた。


「最近、プレイヤーの数がめっきり減りっちゃいましたねー」


 元勇者で高校生の園市は、アイスを食べながらスマートフォンの画面をタッチしていた。なおアイスの銘柄はコーラ味のガリガリくんだ。


「旬のソシャゲはコアなプレイヤーしか残らないものだ。それでもポケモンG●の残存率は優秀だぞ」


 我輩もアイスを食べながら画面をスライドしていた。我輩のアイスの銘柄はチョコミントである。最近はどのメーカーでもいいからチョコミントがお気に入りであった。


「暮田さんは結婚してもゲームばっかりっすね」

「ガンプラと漫画も続けているぞ。時々ガンプラを人質にとられて焦ることもあるが」

「…………なんか幸せそーっすね」

「うむ。ところでポケモンG●のレイドイベントだが、アメリカはシカゴであるそうだ。どうする?」


 レイドイベント。ソシャゲのプレイヤーたちが一つの目標に向かってまい進する企画だ。だいだいのソシャゲでは大型ボスを倒すとか、特定の期間内に資金を集めるなど、大きな目標を達成するために協力を試みる。


 ポケモンG●の場合だと、仲間を集めてジムのボスキャラクターと戦えるな。それの規模を大きくしたやつを、現実世界のイベントとして開催する。ポケモンG●がスマーフォンのAR機能(拡張現実)を使ったゲームだから違和感はなかった。


「いきたいっす! やっぱこういうゲームは仲間が多いほうが楽しいっすから!」


 園市がガッツポーズを取った。食べ終わったガリガリくんの棒をトロフィーみたいに掲げて。


「よし、チケットを入手したら、我輩の翼で飛んでいくか」


 ――イベント当日。我輩と園市は、アメリカはシカゴにやってきた。


 シカゴはビジネス街として有名なだけあって、ビル群が山のようにそびえ立っていた。あとは野球やバスケットボールなどのプロスポーツチームも数多く在籍するだけあって、スポーティーな見た目の人が多い。海沿いの街らしい潮風と相まって、活動的な雰囲気が漂っていた。


 地元の人たちが、我輩のグレーターデーモンな姿を見て、あれこれいった。


「あいつなんだ」「へんな格好ね」「悪魔っぽいわ」


 だから我輩は魔法で言語を翻訳すると「ポケモンサイコー!」と牛島サイコーみたいなノリで伝えた。彼らは納得した。『なんだポケモンG●のイベントに参加するギークがコスプレしてるのか』と。なおギークとはアメリカ版のオタクだ。


 オタクサイコー!


「しかし暮田さん、アメリカも暑いっすねー」


 園市は大粒の汗を流していた。ヒューマンなので熱中症対策が大事だな。


「水と塩分で熱中症予防、あとは力のつく食べ物の摂取で夏バテ予防だ」


 野菜たっぷりのホットドッグとキンキンに冷えたスポーツドリンクを園市に買い与えた。


「あざーっす! アメリカのホットドッグ、うまいっすね! やっぱ本場の味って感じがするっす」

「うむ。シンプルイズベストを体現した味だ」

「ところで暮田さん、結婚してから以前よりも面倒見がよくなりましたね。まさか熱中症ばかりか夏バテまで心配してくれるなんて」

「妻が二人もいるとな、いろいろ大変なのだ」


 ほんのちょっとでも片方を優遇しすぎてしまうと、もう片方は不平等だと怒る。だから細かいところに気がつくようになった。いうなれば結婚生活とは『親しい仲にも礼儀あり』の繰り返しなのだ。


「苦労してるんすね……結婚も幸せだけとはかぎらないっすか」


 園市は我輩の薬指にはめられた指輪をおそるおそる見つめた。


「それでも楽しい苦労だ。一人より二人のほうが賑やかだし、我輩なんて三人だからな。さて先を急ごう。ポケモンマスターらしき人たちが集まってきたから」


 ポケモンマスターらしき人たち――外見からして、こういうイベントが好きな人たちだ。オタクっぽいというより、野外でゲームをするのが好きな人たちだ。きっと子供のころは携帯ゲーム機を野外に持ち出してポケモンをやっていたんだろう。


 スマートフォンで近隣の情報を検索してみたら、どうやらアメリカ以外から集まったプレイヤーのほうが多いらしい。世界中で人気アプリだな、ポケモンG●。


 我輩と園市も彼らの流れに混ざって会場に到着した。シカゴでは有名な公園だ。噴水と美術館目当ての観光客も集まっているから、人種のごった煮となっていた。


 ゲーム好きが集まった会場だから、ゲーム熱が溶鉱炉みたいに高まっていた。もしや我輩はゲームを題材にした主人公たちみたいに、壮大な駆け引きや奇跡を巻き起こして周囲のプレイヤーたちに尊敬される展開になるんだろうか。


 しかし邪魔するものがいた。


「ひょえひょえひょえ……おばばがいれば全部台無し!」


 魔女のおばばが魔法の箒でアメリカの大地へ降下した。いつもの紫色のローブにはUSAの星条旗が縫い付けてあった。ミーハーなやつである。


「まさかわざわざアメリカまで邪魔しにくるとは、おばばめ……」


 我輩は、あきれ果てていた。


「おばばとゲームといえば、これまでも楽しいイタズラが展開されてきたんだから、読者の期待を裏切ってはいけないのさ。というわけで、ポケモンG●の世界へいってらっしゃーいっっっ!」


 我輩と園市は、おばばのイタズラ魔法でポケモンG●の世界へ飛ばされてしまった。


「ちょ、ちょっと暮田さん。俺たち画面のなかみたいっすよ。外にプレイヤーたちの顔が見える」


 なんと公園のプレイヤーたちの顔が、我輩たちの頭上に映っていた。しかも彼らの声が聞こえてきた。


『グレーターデーモンっぽいポケモンだ!』『もしかしてイベント限定のレアなポケモンじゃないか!?』『捕まえろ!』


 ぽんぽんぽーんっとモンスターボールが飛んできた! これがポケモンたちの気分か!


「園市! 我輩が囮になるから、モンスターボールで捕まる前に逃げろ!」

「ひぃえええええええ! ゲットされたら他の人のスマートフォンで飼われちゃうんですかね!」

「可愛げがなかったら、飴玉に変換されておしまいかもしれん」

「ひどい!」

「とにかく逃げるのだ!」


 園市を逃がすために、我輩は飛行タイプのポケモンっぽく振舞った。翼をはためかせて、ひゅんひゅんと空を飛ぶ。我輩の機動性ならモンスターボールを避けて避けて避けまくれた。


 だがポケモンマスターたちも熱気がこもってきた。狩りの本能だろうか。元気に逃げるやつほど追いかけたくなるという。


 しかし我輩には、帰りを待つ妻が二人もいるのだ。


「捕まってたまるか! というかおばばめ、せっかく我輩が主人公らしい主人公をやるはずだったのに、余計なことを」

「ひょえひょえひょえ、おばばだって参戦するよー、今日はそのために登場したんだよー」


 おばばがゲーム内に入るなり、箒を振り回して自己アピールした。よくみたらいつもより化粧が濃い。これではピエロだ。


「……まさか自分からゲームのなかに入ってくるとは」

「おばばもねぇ、たまには人気者になりたいんだよ。だったら流行中のゲームに登場すれば、すぐに人気者に!」


 だが外のプレイヤーたちがこんなことをいった。


『このしわくちゃのポケモンはいらない』『っていうかポケモンか?』『バグだな。運営に連絡しよう』


 おばばがキレた。


「こぉらー! おばばをバグ扱いするなぁ! おばばだって一生懸命生きてるんだぞい!」


 おばばはポケモンみたいにぴょんぴょん跳ねながら怒ると、あっさりとイタズラ魔法を解除。我輩とおばばは元の世界に戻った。


 おばばは、箒の柄尻をガンガン床に叩きつけた。


「まったく、最近の若いやつは礼儀がなっとらん! もっと老人に優しくせんかい!」

「イタズラばっかりやるお前がいうな。…………ところで園市は?」

「あ、忘れた」

「ダメだろぉおおおおおおおおお!」


 ――ちなみに園市だが、アメリカの美人女子大生にゲットされて、たいそう可愛がられていた。


 なんだか腹が立つから、しばらく救出しないことにした。自業自得みたいなものだな。

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