第74話 冗談殺し(ルビ:パロディ・キャンセラー)

 地球には授業参観という制度があるみたいだな。元勇者で高校生の園市も本日が授業参観であり、我輩が保護者として馳せ参じていた。


 園市の通学する高校は変わり者が多いから、授業内容も一芸の発表会だった。校庭にパイプ椅子を並べて生徒と保護者が並んで着席していた。


「暮田さん……俺、キャラが薄いと困るんで、今の流行をパクってみることにしたっす。いぇええええええええええい!」


 園市の格好だが、スポーティーな服に、白いバンダナであった。誰のパクリかといえば、太陽の光を英語にすると意味が通じると思う。うん、ギリギリだな。しかも一発屋をパクるため、おそらく半年後にはネタそのものが通じない可能性が高い。


「再読に耐えない内容とわかっていても、時事ネタ気味の一発ギャグをパクるのか園市」

「なにをいってるんすか。以前PPAPをネタにしたじゃないっすか」

「PPAP? なんの暗号だ?」

「流行の賞味期限ってのは短くてはかないっすねぇ……いええええええええええい!」


 雑なパクリはやめろと思ったが、授業参観さえ乗り切ればいいわけだから、よしとするか。


 しかし問題は別のところにあった。他の生徒が披露していく一芸なのだが、乗馬に、ビリヤードに、格闘技に、音楽に…………想像していたより真面目な内容だった。


 我輩は隣の園市に小声で質問した。


「てっきり、園市みたいにはっちゃけたやつが動物園みたいに大騒ぎする催しごとだと思っていたのだが?」

「はっちゃけてるのは俺ぐらいで、他のみんなは比較的真面目な変わり者っすよ」

「…………そんな空気のなかでお前は『いぇーええええい』ってやるつもりなのか?」

「はい」


 正気か。どう考えても勢いだけの一発ギャグで勝負したら滑るだろう。


 だが順番がやってきてしまった。園市はハチマキを巻きなおすと、気合十分で壇上へ出た。


「空前絶後の超絶元気なお笑い芸人志望! 笑いを愛し笑いに愛され――」

「パクリはやめてください」


 と冷酷なダメ出しをしたのは担任だった。彼女は三十代の女性であった。顔といい体型といい誰かにそっくりであり、まるで機械のように眉一つ動かさない。どうやらなにがあってもパクリ芸は一芸とみなさないようだ。


 万事休すかと思われた園市だが、まるで悪事のバレた悪役みたいに「くくく、ふふふ、はーはっはっはっは!」と高笑いすると、いきなり全裸になった。


「俺は汚れ芸人志望の園市っす! 文句があるやつはチンチンにいえ!」


 きゃーっとクラスメイトの女子たちが悲鳴をあげて両手で顔を覆ったが、なぜか指の隙間から園市のアレを観察していた。うーむ、きっと好奇心旺盛なお年頃なんだろうなぁ。


 だが担任は、無表情でフライパンを持ってくると、園市の股間を殴打!


「あ――――っっっっっっ?!?!?」


 園市は股間をおさえてのたうちまわった!


 な、なんて担任だ。情け容赦ないなんてレベルじゃないぞ。あれじゃあ汚れのお笑い芸人なんてみんな登場シーンで潰されてしまうではないか。


 しかし園市は負けていなかった。


「よ、汚れ芸は…………俺の魂なんすよっっ!」


 口の端からカニみたいに泡を吹きながら渾身の気合で立ち上がると、お尻の穴にチョークの粉をつめた。


「くらえ、おならバズーカ――っ!」


 ぶぉおおおおおおおおっと臭いオナラと一緒に白いチョークの粉が飛び出して担任の顔面を直撃――したように見えた。


 だが担任は、折りたたみ傘で防御していた。


 あ、我輩、先の展開が読めた。


 ぶすり! やっぱり担任は園市のお尻の穴に折りたたみ傘を刺した!


「あ――――っっっっっ!?!?!?」


 これはひどい……っていうか園市、本当に痛そうだなぁ……。


 しかし園市はまだ負けていない。不屈の闘志で立ち上がると、我輩の手をつかんだ。


「く、暮田さん…………最後にダブルサンシャインで大逆転っすよ」

「できるのか、そんな荒業が!?」

「ピン芸人の技を二人漫才風味にアレンジすればパクリじゃないっす!」


 しかし担任が氷のように冷たい無表情でフライパン二刀流になると「パクリはやめてください」といいながら、なぜか園市と我輩の股間を殴打した!


「あ――――っっっっっ!?!?!?」

「なんで我輩のまで叩くのだ――――っっっっ!?!?!?」


 痛い、痛い、痛い…………いいかね女子諸君…………男性の大事なアレはとってもデリケートであり、打撃されると、大変なことになるのだ、大変なことに……大変なんだよわかるかな?


 あぁ、ようやく痛みが落ち着いてきた……しかしなんて授業参観だ、我輩まで攻撃するなんて。もしやと思って授業参観のパンフレットを読むと、隅っこに注意事項が書いてあった。


『お子様が雑な一芸を披露した場合、親御さんも連帯責任です』


 そういうことは早くいってくれ!


 しかし連帯責任となったら、我輩のお笑い魂が燃え上がった。きっと園市の敗因は、いきなり脱いだことだ。全裸よりパンツ一丁のほうがお笑いダメージが入ることだってある。


 我輩がお手本をみせてやる。まずはブリーフをはいた。


「おパンツビィイイイイイイイイイイ――――ムっっっっ!」


 と叫びながら魔法の縄で担任の手足に絡めると、フライパンによるツッコミを封じてやった。これで情け容赦ない汚れ芸潰しはできないな!


「いまだ、園市、合体攻撃だ!」

「合点承知!」


 我輩と園市は同時にブリーフをはいた。


「タイミングをあわせろ。1・2・3・おパンツエクステンション!」

「シュ――――トぉおおおお――――!!」


 我輩と園市は同時にブリーフを脱ぐと担任に投げつけた!


 だが担任は魔法の縄を自力で破壊すると、フライパンを野球のバットみたいに操って、かっきーんっと跳ね返した!


 跳ね返ってきたブリーフは我輩と園市の顔面に直撃――あぁ! これはつらい! いくら自分のはいたブリーフとはいえ顔面はきつい!


 落ちこんでいる我輩と園市に、担任が一枚のプリントを渡した。


『一芸の完成度が低いので補習決定』


 なんて女だ。ことごとく芸を潰したばかりか追い討ちまでかけるなんて。我輩よりも悪魔ではないか。


 からりと教室のドアが開くと、なぜか長屋の管理人である花江殿が顔を出していた。


「姉さん、うちの暮田さんは授業妨害していませんか?」


 花江殿と、担任は、顔がそっくりであった。なるほどなぁ、この極悪な担任は、花江殿のお姉さんだったのか……だから我輩にも厳しいのか……。


 ――こうして我輩と園市は、放課後の教室で【一芸を磨くために必要な反省文】を書くことになってしまったとさ。

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