我輩は暮田伝衛門(グレーターデーモン)である ~魔界から召喚された魔族の我輩が、いかに活躍し、いかに尊敬されたか(みなさん嘘ですからね。暮田さんは働かないで遊んでばっかりですよby地球人の花江陽子)~
第41話 迷子の迷子の子猫ちゃん、あなたのフェロモンどこからですか?
第41話 迷子の迷子の子猫ちゃん、あなたのフェロモンどこからですか?
「暮田さーん! てぇーへんっすよ、てぇーへん! でぇーへんだにゃーん!」
どんがらがっしゃーんっと引き戸を前転で破壊しながら我輩の部屋に乱入したのは、元勇者で高校生の園市だった。
「なんだい園市、猫みたいな語尾をつけながらやぶからぼうに」
我輩は、慌てる園市にオレンジジュースを一口飲ませた。
「猫っすよ。迷子の迷子の子猫ちゃん探しっす。飼い主は小学生の女の子、美春ちゃん。彼女が飼ってる白猫のユキちゃんが行方不明みたいっす」
授業用のノートに描かれた猫の似顔絵を受け取った。
だが子供が描いた絵だから、特徴がさっぱりつかめない。ぐにゃぐにゃした線が猫っぽい生き物を表現しただけである。せめて行方不明の個体を明白に示す特徴でも強調してあればいいのだが、それもない。
「園市、もっと鮮明なやつはないか? というか写真はないか?」
「残念ながら動物の写真を撮る習慣を持っていないご家庭でした。でも首輪がついていて、雪だるまマークがついてることだけはわかってるっす」
雪だるまマークの首輪を目印に探すしかなさそうだ。
「ところで園市、なんで猫耳と肉球グローブをいそいそと装備しているのだ?」
「迷子なのはメス猫だっていうから、オス猫の格好したらフェロモンに誘われて出てくるかなって」
「…………馬車におちんちんびろーんってやったときから変わっていないのだな」
「やだなぁ暮田さん。今だったら一発ギャグもつけるっすよ。おちんちんマーックス!」
しゃきーんっと股間に肉球グローブつきの両手をそえると、相撲のシコを踏んで猫耳を揺らした。わけがわからない。いや一発ギャグなんてわけのわからないポーズをするのが主流かもしれないが……。
とにかく我輩は、一発ギャグ中の園市の手を股間から引き剥がした。
「シモネタに走りすぎると作風が壊れるから、もっとマイルドなやつにしてくれ」
「おてぃんてぃんまーっくす?」
「発音変えただけではないか!」
「おちんこマキシマム!」
「もういいわかった。猫探しへ出発するぞ」
こういう案件は動物と会話できたほうが楽なことを経験から学んでいたので、魔界のおばばから【翻訳入れ歯】を借りてきた。見た目はなんの変哲もない入れ歯だ。しかし素材が優れていて、歯茎は樹齢1万年のオーク木、歯は魔法金属アダマンチウムである。こいつがあればダイヤモンドだって噛み砕けるぞ。まぁ幸い歯と顎には困っていないから、咀嚼の補助に使うことはないが。
こいつをかぷっと口に装着すると、ご近所さんが飼っている柴犬に話しかけてみた。
「あーあー、我輩の言葉がわかるか?」
「わかるが、日向ぼっこの邪魔をしないでくれ」
柴犬は大あくびをすると、昼寝をしようと前足を枕にした。
「これはお忙しいところを失礼した。だがせめて人助けと思って、眠る前に情報をいただきたい。実は迷子の子猫を探している。白猫のユキちゃんだ。首輪に雪だるまのマークがあるそうな」
「あー、そういや見かけたな。雷の音に驚いて外に飛び出したら、帰り道がわからなくなったとかいってたぞ」
たしかに動物は雷の音が苦手だな。聴覚が優れているから、人間よりも大きな音に感じているからだろうか。
「それで、そのあとユキちゃんはどこへいったかご存知か?」
「どこか遠くへいってしまった。あとのことは鳥のほうが詳しいだろうな」
お次は近くの電線で羽を休めるスズメに詳しい事情をたずねてみた。
「もしもしスズメ殿。迷子の子猫を知らないか?」
「あの子は水を求めて近くの川にいったんだ。子猫はカラスの餌だから早く見つけてあげたほうがいいよー」
不吉な注釈が混じっていたが、有力情報を手に入れた。
我輩と園市は、子猫がカラスの餌になっていませんようにと祈りながら近くの川辺へ向かった。
古びた川辺には、まばらに雑草が生えていた。そこの日当たり良好な斜面に、ずらーっと野良猫が集まっていた。足の踏み場もないほどの猫、猫、猫。しかも性別の比率が極端で、ほぼオス猫だ。
そんな集団の中央に、白い子猫がいた。首輪には雪だるまのマーク。迷子のユキちゃんである。オス猫たちはユキちゃんに向かって、こんなことをいっていた。
「ユキちゃん可愛い」「ユキちゃんは野良たちのマドンナだからな」「ユキちゃんのためなら死ねる」
なんと迷子の迷子の子猫ちゃん、逆ハーレムを形成していた!
鼻の下を伸ばしたオス猫たちが次々と餌を持ってくるから満腹だし、外敵のカラスが近づいてくると彼らが袋叩きにしてくれるのだ。
そんな必死なオス猫たちに向けて、迷子のユキちゃん、にゃぁ~んっと子猫にあるまじき妖艶な声で鳴いているではないか。魔性の女に年齢は関係ないというわけか。まったく恐ろしいものだな。
「園市。お前のフェロモン作戦、ある意味で正解だったな」
我輩が軽く引いていると、園市は猫耳と肉球グローブを外してしまった。
「なんというか……正解だからこそ、迷子の子猫のイメージぶっ壊れちゃったっすねぇ……」
「しかしどうやって飼い主に報告したものか。お宅の子猫ちゃんは逆ハーレムを満喫しているから帰ってこないと正直に伝えるのか」
「完全に飼い主の小学生に悪影響を与えますね」
「とにかく、子猫ちゃんの生存だけは報告して、あとの判断は本人に任せよう」
我輩と園市は、迷子の子猫ちゃんの飼い主宅へ報告しにいった。
すると一軒家の正門前に、ずらーっと小学生がいた。足の踏み場もないほどのランドセル、ランドセル、ランドセル。しかも性別の比率が極端で、ほぼ男子だ。
そんな集団の中央に、飼い主の女の子である美春ちゃんがいた。大人びた子だった。化粧までしている。…………まぁどっかで見たような展開なのだが、男子たちはこんなことをいっていた。
「美春ちゃん可愛い」「美春ちゃんは学校のマドンナだからな」「美春ちゃんのためなら死ねる」
飼い主まで逆ハーレムを形成していた!
男子たちは給食でデザートが出ると彼女に貢いでしまうし、先生がうるさいことをいってきたらスクラムを組んで抵抗する。
そんな必死な男子たちに向けて、美春ちゃんは小学生にあるまじき妖艶な声で誘惑していた。あと数年もすれば異性関連でトラブルを起こすこと間違いなしである。
きっと飼っている動物は、飼い主に似るんだろう。
――なお迷子の子猫ちゃんのその後であるが、事実を伝えると飼い主の美春ちゃんは喜んで迎えにいった。あなたもわたしと同じでモテるのね、偉いのねと。
あぁ、将来が怖いなぁ。せめてモテてもいいから、凄惨なトラブルは起こさないでくれよ。
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