第42話 なんで成田山新勝寺って必殺技みたいな響きがあるのだ?

 ゴブリン族の漫画家であるゴブゾウ殿が我輩の部屋へ遊びにきた。掲載紙が来週は休刊なので、オフの日というわけだ。こたつでみかんを食べながら雑談していたら、テレビで成田山新勝寺について特集していた。


 突然、ゴブゾウ殿がポンっと手を叩いた。


「暮田さん。成田山新勝寺って必殺技の名前っぽくないでござらぬか?」

「本当だ……」

「過酸化水素水!」

「完全に水系統の必殺技だな」

「というわけで、なにげない言葉から必殺技を探しましょうぞ」


 ぽちぽちとスマートフォンでネット検索しながら、それっぽい言葉を捜していく。先手はゴブゾウ殿だった。


「佐野厄除け大師!」

「火の系統の必殺技だな」


 続いて我輩。


「接点復活剤!」

「金属がピカピカになりそうでござる」


 最後にゴブゾウがもう一度。


「王様の耳はロバの耳!」

「幻惑系かな?」


 ふーむ、思ったよりも必殺技は日常に潜んでいるらしいな。好奇心が沸いてきた。他の部屋も探したら、たくさん必殺技が見つかるかもしれない。


 最初は花江殿の部屋でもある管理人室だ。そういえば本邦初公開だな。うら若き乙女(二十代後半)の部屋ともなればドキドキするだろう? ところがBL同人誌や乙女ゲーム関連商品でぎっしり埋まっていて足の踏み場もないのだ。ロマンのかけらもないな。


 それでも女性の部屋だから、なにに使うかよくわからない道具が化粧台に置いてあった。たぶん化粧品なんだろう。そのうち一つが特徴的な名前だったので必殺技風に叫んだ。



「オーガニックよもぎ蒸しパッド!」

「光線系の必殺技でござるな。しかしなんの道具でござるかこれ」

「さぁ? 化粧品ではないのか?」


 なお持ち主である花江殿だが、管理人室の入り口で、指先が真っ白になるほどナギナタを握り締めて怒りに震えていた。いつもと違って羞恥心をふくんだ怒りらしく耳まで真っ赤だ。ちょっとかわいい。


「いきなり部屋に押しかけてきたと思ったら、なんて恥ずかしいことしてるんですかっ!」


 ギタギタに斬られた! 殴りではなく斬撃だ! なぜかいつもより怒りが激しい! 我輩とゴブゾウ殿、リアルに命の危機を感じた!


「ま、待ってくれ花江殿、なんでそこまで怒る!?」

「生理用品で遊ぶなんて最低ですっ!」

「えっ、これ生理用品!? す、すまぬ。我輩がさつな男ゆえこれがなんの道具かもわからなくて――」

「いいからはやく出ていきなさーいっ!」


 まさに必殺技のようなナギナタさばきで、花江殿は我輩とゴブゾウ殿を管理人室から叩き出したのであった。


 我輩とゴブゾウ殿は、切り傷に魔界産の薬草を当てながら反省した。


「一件目から失敗したな……」

「知識不足でござったな……」


 続けて理系の大学生である川崎の部屋をたずねた。スポーツ用品から漫画まで若い男性が好むアイテムがゴチャっと置いてあった。さきほど女性特有のアイテムで痛い目にあったばかりだから、ほっとする。


 ここなら必殺技にしても問題ないアイテムがわんさかある。やはり男のロマンで必殺技っぽい名前となったらコレだろう。


「シャア専用リックドム!」

「通常の三倍の威力でござるな」

「うむ。しかも小説版限定のレアなモビルスーツだ」


 最近は地球の歴史の教養としてガンダムをたしなむようになったので詳しくなっていた。シャア専用リックドムの持ち主である川崎もガンダム談義に加わって、気づいたら一時間近く浪費していた。


「いかんいかん。貴重なゴブゾウ殿の休みがガンダム談義で終わってしまうところだった」

「ガンダムは時間泥棒でござる」


 最後にめったに帰ってこない伝助の部屋をあさっていく。やつは留守だからやりたい放題だ。罪悪感はいっさいない。だって伝助だし。しかし、ごちゃごちゃした部屋だな。めったに帰ってこないだけあって倉庫みたいな役割になってしまっているようだ。


「く、暮田さん……これはもしかして……?」


 狼狽するゴブゾウ殿が発見したもの。それはアタッシュケースに詰めこまれた“白い粉”のパケだった。


「…………必殺技以前に、商品名を叫ぶだけでまずいやつだな」


 我輩は衝撃的な犯罪の証拠に目を細めるしかなかった。


「色々な意味で必殺でござるな」

「うむ。人生が必殺されてしまう」


 犯罪を見過ごすわけにもいかないので警察に通報した。すぐさま伝助は逮捕されて、人生が必殺されてしまった。警官が伝助をパトカーに連行していく風景が、ニュースの映像としてお茶の間に流れていた。


『暮田さん! なに僕の部屋あさってるんだよ! っていうかそれ『強力ホットケーキパウダーEX!』っていう我が社の新商品だから! そもそもマスコミも容疑者段階で実名報道するんじゃない!』


 誤認逮捕というわけだ。でも我輩はいっさい悪くない。警察が悪い。うんうん。


「しかし白い粉はホットケーキの素だったらしい。幼児向け番組の必殺技っぽい商品名だったな」

「漢字とカタカナと英字を組み合わせると最強に見えるでござるな」


 ――なお誤認逮捕から釈放された伝助だが、怒り心頭の花江殿と一緒にこんな団体を結成した。


【暮田とゴブゾウの私生活を暴いて必殺技っぽいものを探す会】


 我輩とゴブゾウ殿は縄でぐるぐる巻きにされると、長屋の庭で見せしめの刑となった。花江殿と伝助が、我輩とゴブゾウ殿の部屋をあさって、恥ずかしいアイテムを並べていく。


「【最強連射機コンボくん】格闘ゲーマーにあるまじき必殺技ですね」

「【トレース用光学台パクるくん】漫画家にあるまじき必殺技だね」


 みんなも、他人の生活を暴くと、こうやって復讐されてしまうから気をつけるようにな……。

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