第38話 PPAPに便乗する。ただし素直にはやらない!

 元勇者で高校生の園市が【リンゴ】と【油性ペン】を我輩の部屋に持ってきた。なにを思ったのか奇妙なリズムにあわせて、ぶすっとリンゴに油性ペンを突き刺す。見覚えがあった。


「番組でもCMでもあらゆる場所で見るようになったな。おかしな格好をした中年男性が、リズミカルに踊って、二つの言葉を合体させる。しかしどうして売れたんだろうか? リズムがよかったのか。語感がよかったのか」


 我輩はペンの刺さったリンゴを食べた。捨てるともったいないからな。


 園市はペンを布巾で拭くと、一発ギャグの解析をはじめた。


「二つのキーワードを合体させると面白いんすかね? たとえば、右手にお金を持って、左手に大学入試を持って、ぶすっと合体させると裏口入学とか」

「ネタが黒すぎるぞ園市。なにを参考にした」

「ツービートっす。お笑いDVDで見たんすけど」

「つまり例のネタをツービートの不謹慎ネタで加工するたくらみか」


 テレビ局の番組プロデューサーとお笑いコンビ悪魔とデブを結成していたときに色々勉強したので、我輩は漫才に詳しくなっていた。


「汚れ芸以外も鍛えておかないと、芸の横幅が狭くなっちゃうんで、言葉を使った一芸も開発しようかと思ったんすよ。やっぱ即興が大事っすよ。街に出ましょう」


 我輩と園市は、気のおもむくままに快晴の東京を散策する。目的を持って歩くと即興にならないので、すべて行き当たりばったりだ。


 やがて特徴的な二つの要素が並んだのは、交番前の【人妻】と【警官】だった。まずは我輩から合体させた。


「人妻と警官を合体させて不倫……だと安直か?」

「不倫の果ての共謀殺人なんてどうっすか。警官なら証拠隠滅も楽っすよ」

「黒すぎる……」

「不謹慎ネタなんてしょうがないっす。次いきましょう」


 次に到着したのは歌舞伎町だった。街からして危険要素の宝庫なのに【ベンツに乗ったヤクザ】と【街角に立つ“けばけばしい女”】が目の前に並んでいた。


「園市。これをネタにすると不謹慎以前に作風が壊れるぞ」

「強引に合体させて作風を壊さないようにしてみますか。ベンツの装甲で武装した女がヤクザになるとか」

「パワードスーツかな?」

「けばけばしいベンツがヤクザになるとか」

「トランスフォーマーかな?」

「ヤクザなベンツがけばけばしい女になるとか」

「ラノベかな? ……そろそろ逃げるのが苦しくなってきたから、次にいこう」


 お次はイベントスペースで開催される小規模なコスプレイベントであった。某ソシャゲの艦隊なコレクションのコスプレ合わせをする会場であった。しかもマニアックなことに男性のコスプレイヤーしかいない。


 つまり女装レイヤーばかりなのである。そんな会場には【島風くん】と【連装砲ちゃん】が目立っていた。艦隊なコレクションを知らない人のために外見を説明しておくと【島風くん】は露出の激しい女装っ子、【連装砲ちゃん】は二本の角を持った筋肉質の男性である。


「園市。完全に“合体”というキーワードが別の意味になる組み合わせだな」

「BLは管理人さんの大好物であって、こちらの守備範囲から外れてるっす」

「しかしBLを回避するように合体させることで芸が磨かれるのではないか?」

「なら…………二本の角を持った島風くんが筋肉ムキムキになって露出する」

「微妙にBLを回避できなかったな」

「島風くんが単独で危険ワードっすよ」

「次にいこう次に。きっとうまくいくさ」


 最後に到着したのは、国会議事堂だった。いわずとしれた永田町に存在する国政の議場である。屈強な警備員がずらりと並んでいて、黒塗りの防弾車両が政治家を運んでいく。


「……園市。どの要素を合体させても危険だな」

「むしろ読者が政治ネタ嫌って読み飛ばすほうが危険っす」

「そっちか」

「それっす」

「わかった。だったら安全策でもう片方には政治に関わらない建物を持ってこようか」

「東京タワーなんてどうっすか? スカイツリーだと新しすぎるんで」


【国会議事堂】と【東京タワー】を合体させるわけか。合体、合体、“合体”ってまさか腐女子の人々がよくやる無機物を掛け算するやつか?


「まずいぞ園市。さきほどの話題が尾を引いて、国会議事堂と東京タワーのどちらが攻めか受けか考えてしまう」

「ちなみに自分は東京タワーが攻めだと思います。棒状で長くて太くてとんがってるんで」

「……そろそろ色々な人が怒るからやめよう。ちゃんとBLから離れて合体させよう」

「そうっすね。東京タワーは電波塔なんで、電波な国会議員」

「よしなさい」

「国会議員はみんな電波」

「よしなさい」

「宇宙と交信する国会議員」

「いいかげんにしなさい!」


 いくら伝説のツッコミを引用しても危険なネタは危険であり、誰かにジロっとにらまれた気がして、我々はぴゅーんっと逃げ出した。


 そろそろ昼飯時なので長屋に戻ると、管理人の花江殿が【ぼけーっ】と【天然素材のウール】を手洗いしていた。


 我輩と園市は、とっさに二つのキーワードを合体させた。


「「天然ボケ」」


 ガンガンっと二人してナギナタで殴られたのはいうまでもない。

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