我輩は暮田伝衛門(グレーターデーモン)である ~魔界から召喚された魔族の我輩が、いかに活躍し、いかに尊敬されたか(みなさん嘘ですからね。暮田さんは働かないで遊んでばっかりですよby地球人の花江陽子)~
第31話 エンドレスチャレンジ 社長の伝助、ドラムをドコドコ叩く
第31話 エンドレスチャレンジ 社長の伝助、ドラムをドコドコ叩く
珍しく帰ってきた伝助が、いつもの爽やかな笑顔でクッキーを我輩に差し出した。
「暮田さん。うちの新商品を試食してくれないか」
「断る」
「なんでだよ!」
「お前と関わると会社ぐるみの大騒動に巻きこまれるからだ」
こやつの経営する【D&G】は加工食品の大手なのだが、社長である伝助が気分屋なのでトラブルを起こしやすいのだ。有能であることが、そのまま完璧超人とはかぎらないことの証明みたいな社長だった。
「前回は失敗した。それは認めよう。でも経営はエンドレスチャレンジなんだよ」
「どこかの通信会社のキャッチコピーをパクったな」
「というか某ビジュアル系バンドが好きなんだ」
伝助は頭上で腕を交差してXを描いた。某ビジュアル系バンドの通称であり、恒例のポージングでもある。
「歌詞は絶対に口にするなよ。著作権が襲ってくるぞ」
「もちろんわかってるさ。僕は社長だからね」
といいながらサングラスと首のコルセットを装着した。どうやら某ビジュアル系バンドのリーダーと同じやつを購入してきたらしい。ミーハーなやつだ。
「というわけで暮田さん。エンドレスチャレンジでクッキーを食べてみよう」
「まだ諦めてなかったのか」
「だってエンドレスだもの。暮田さんが食べてくれるまでチャレンジするよ」
もしかしてただのファン根性でエンドレスチャレンジと物まねしたいだけではないだろうか。しかしあまりの押しの強さに根負けして、我輩はパリパリと新商品のクッキーを食べた。
「普通のバタークッキーではないか……」
「いいリアクションだね。僕はとってもうれしいよ」
「これのどこが新商品なのだ?」
「クッキーにおまけがつくからだよ」
ずしんっと某ビジュアル系バンドとのコラボ商品が出てきた。想定価格はクッキーなのに5000円。全部そろえようとすると20000円は軽くこえるだろう。
あきらかにクッキーの価格よりおまけの価格が上回っていた。
「おい伝助。これはクッキーなのか……?」
「コンビニのクジ商品だとキャラクタ業界の独壇場でしょう? だからうちの利点を活かすとしたら、やっぱりお菓子のおまけだよ」
「これは食べ物に対する冒涜ではないのか」
「とんでもない。雑誌にブランド物のバッグをつけて書店に並べるんだから、今の時代じゃ定番なわけさ」
「……失敗する気がする」
「たとえ失敗してもエンドレスチャレンジ」
「お前そのセリフを言いたいだけだろう」
伝助はまた腕でXを描いた。もはやミーハー根性を隠すつもりがないようだ。
我輩が、そろそろ逃げてもいいんじゃないかと思い始めたところで、伝助が車のキーを取り出した。
「よし暮田さん。さっそく新商品の売れ行きを観察しにいこうじゃないか」
なぜか【D&G】で運用する営業車を我輩が運転することになった。免許は取得してあるからいいようなものを、本業の運転手ではないから都内の道は難易度が高かった。道が狭いのに交通量が多いのだ。あきらかに初心者と田舎モノお断りの仕様である。
「というか、お前のところの専属運転手はどうしたのだ?」
「食べ物を粗末にするようなコラボ商品許すまじって怒っちゃってさ」
「当然の感覚だな」
「そうかなぁ? 昭和のころから仮面ラ○ダーチップスとか、ビックリマンチョコとかあったんだよ。まぁビック○マンチョコは運転手さんが批判するような問題が起きてニュースにもなったんだけど」
「おまけが目的だから、あまった食べ物を捨てたのだな」
「そうそう。子供だから制御がきかなくて、おまけを手に入れたらお菓子を道路に捨てちゃうんだ」
「なんてもったいないことを」
「たしかにもったいない。でもうちのコラボ商品は購買層が大人だから問題は起きないよ」
ところが、逆の現象が起きた。順番に説明すると、まず商品は売れた。ファンが多いし、購買層が大人だから財力もあるからだ。しかしファン商品だから、クッキーごと神棚やショウケースに飾ってしまって、誰も食べなかったのだ。
「うむむむむ…………加工食品会社の社長としては複雑な気持ちだなぁ……」
伝助が腕組みをして真剣に悩んだ。
「お菓子が食べられないのでは、本末転倒だな」
我輩は遠い目をした。すでに失敗の雰囲気が漂っていた。
「うーん、もったいないことはされてないんだけど、クッキーは食べてほしいんだよ。定番の味といえどおいしいんだから」
「今度は食べさせるための工夫をしてみてはどうだろうか」
「そうだなぁ。クッキーを食べたらおまけを追加するとか?」
これは大成功した。クッキーを食べることでおまけが追加されるから、二つセットで購入して片方だけ開封して、もう片方を神棚に飾るようになったのだ。緊急生産で在庫を追加しても、すべてが売り切れる大盛況だった。
「やったよ暮田さん! やっぱりエンドレスチャレンジは大事だね!」
伝助は腕をXに交差してから、ドラムをドコドコ叩きはじめた。こいつミーハーすぎるだろう。それにドラムの音がやけに大きい。そろそろ本格的に調子に乗ってきたようだ。
「伝助よ。そろそろ潮時だぞ。調子に乗るとコケるぞ、いつものように」
「そんなことないよ! ここが攻め時さ! エンドレスチャレンジ!」
やっぱり伝助は伝助だった。もはや止める気が起きなかった。
案の定、コラボ商品を連発した結果、ほかでもないファンたちの財力が底をついてしまい、しかも他の企業の人気一番クジともタイミングが重なり、大量に売れ残ってしまった。
さらに緊急生産を乱発したせいでおまけの品質がガタ落ちになっていたから、ファンたちから【D&G】のコラボ商品はクオリティが低いと悪評が行き渡ってしまった。
大失敗である。本体であるクッキーはおまけから切り離されてバラ売りとなり、投売り価格となってスーパーマーケットに並んだ。
そう、投売り価格だから適当に食い散らかす人が出てくるようになり、コラボ商品の失敗とあわせてニュースに取り上げられてしまった。
例の食べ物を粗末にするなという運転手が――実は伝助の祖父が大激怒して、日本刀を持って大暴れした。
血相を変えた伝助は我輩の部屋まで逃げてくると、小声でいった。
「え、エンドレスチャレンジだよ。次の商品でね」
「伝助よ。おじいさんに斬られたほうが世のため人のためではないか?」
「な、なんてことをいうんだい……! うちのおじいさん、居合いの有段者なんだよ……! 本当に怖いんだよ……!」
ずばっと我輩の部屋の引き戸が斜めに斬られた。ずるりと戸板がズレると、ナマハゲのような顔をした老人が日本刀を構える姿が見えた。
「食べ物を粗末にする悪い子はいねぇが!」
「ひぃいいいい! お許しをぉおおお!」
伝助は窓から素足のまま逃げていった。あいつはいつになったら学習するんだろうか。
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