第30話 川崎とインベーダーゲームをやる。ただし変化球で

 理系大学生の川崎と一緒にゲームセンターでメダルゲームをやっていたのだが、ふとレトロな筐体が置いてあることに気づいた。


 我輩がゲームセンターでよく見る、ロムを切り替えれば別のゲームに変化できる汎用性の高いものではなく、どうやら古い喫茶店で使っていたテーブルと一体化した筐体らしい。


 レトロゲームに詳しい川崎が説明した。。


「スペ○スインベーダーのテーブル型ですよ。大昔はこれが喫茶店においてあって、当時の学生やサラリーマンが連コインしてたそうです」


 とてつもなくレトロな筐体だけあって、ゲームの仕組みは単純だった。


 無数の敵が画面上部に並んでいるから、砲台を操って撃破していく。ただし敵も弾を吐いて反撃してくるから、回避する必要があった。ステージクリアの条件は敵の全滅だ。しかし敵は時間が経過するごとにプレイヤー側へ下降していく。もし敵に画面を制圧されたらゲームオーバーだった。


 画素の荒さとドット絵があいまって、無数の敵は我輩たちデーモン系に見えるし、プレイヤーキャラの砲台は戦闘機に見えた。


「となると我輩の親類が地球文明にいじめられているようなものか……不吉なドット絵だな……」 

「いやー、今となっては懐かしいですね。暮田さんの前でドラク○とウ○ザードリィをやったら家族が殺されたみたいなリアクションしたの」

「そうだなぁ……我輩、すっかり地球の文化に詳しくなったからなぁ……あの日の瑞々しい気持ちを取り返したくなってきた」


 遠い目をしたら、ひょえひょえひょえと奇怪な笑い声が聞こえた。暗がりから、ぬぅっと老婆が出てくる。魔女のおばばであった。いつぞや我輩とゴブゾウ殿の魂を入れ替えた魔女だ。彼女のレトロな箒とレトロなイン○ーダー筐体は、妙にマッチしていた。


 しかし、ゲームセンターで魔女がなにをやっているのだろうか。


「おばばはねぇ、レトロゲームにハマってるんだよぉ。おばばだから、古いゲームのほうが楽しめるのさ。スペースイ○ベーダーはおすすめさ。やっぱりゲームはシンプルでなきゃ」


 ただ地球で遊んでいるだけのようだ。我輩はおばばにジュースを一杯おごってやった。


「我輩もレトロゲームは好きだが、インベーダーは古すぎて楽しめそうにないな」

「そこで朗報! おばばの魔法で体感型ゲームに早変わり! ふんばらばらばらふんばらばー、ゲームの世界に入ってしまえー!」


 こういうときにかぎって魔法は普通に成功して、我輩と川崎はインベーダーの世界に入って砲台の射手となっていた。


 …………だが画面上部に並んだ無数の敵が、兄上と姪っ子と父上の顔に変換してあった。


「こらおばば! ワザとやっているだろう!」

『ひょえひょえひょえ。たまには魔界成分を堪能したほうがいいぞえ。二等書記官殿、最近地球になじみすぎて、たるんどるんではないか?』

「ふーむ、一理あるな。それで、どうやったらインベ○ダーの世界から抜けられるのだ?」

『一面だけクリアすればいいのさ。そうそう、ちゃんとクレジットをいれるようになぁ。お店の人に悪いからねぇ』


 ちゃっかりしているなぁ……。ごそごそポケットから百円玉を取り出すと、ちゃりんっとクレジット投入。


 味わい深い8ビットサウンドが鳴って、ゲームスタート。兄上たちの顔がぴゅーんぴゅーんと弾を吐いた。


「……なんでゲームの動作だけは原型のままなのだ?」

『ひょえひょえひょえ。レトロゲームなんだから雰囲気を大事にしないといかんぞい』


 本当か? 魔女のおばばの良心を確かめるために、砲台を操って一発撃ってみた。父上の顔に弾丸が当たると『ぶしゃーっ!』っと生々しい破裂音でスイカを割ったみたいに顔が砕けた!


「こらおばば! なんで我輩の縁者を倒すところだけリアルなのだ!」

『それが魔界成分じゃよ。ひょえひょえひょえ! あとお連れの方は上手じゃなぁ』


 川崎は名古屋撃ちと呼ばれるテクニックで兄上や父上を流れるように粉砕していた!


「か、川崎! 我輩、出会って間もないころのリアクションがしたい気分だ!」

「困りますよ! だってクリアしないと出られないんでしょう!?」

「しかし! 親類が生々しく『ぶしゃーっ』と壊されると胸が苦しい!」

「気持ちはわかりますけど、これはゲームですからね」


 ゲームの上手な川崎の手によって、ぶしゃーっとすべての親類が砕かれると――なぜかボスキャラっぽいのが出てきた。


「…………なぁ川崎。イ○ベーダーのROMは、ザコを全滅させたらステージが変化してボスキャラが登場するほどの容量があったのか?」

「いや、そんな容量あるないですよ。これ初期型のテーブル筐体なんですから」

 

 いきなりおばばの悲鳴が聞こえた。


『しょ、しょええええ! 魔王様、なぜここに!』


 ボスキャラをよーく観察したら、ドット絵で表現した魔王殿だった。本物にそこはかとなく似ているが、ちょっとデフォルメされすぎて原型を失っている。たぶん本人が狙ってキャラを崩したんだろう。地球人に真の姿を見せたくないから。


『はっはっはっは! おもしろそうなことしてるな二等書記官! 俺も混ぜろ!』

「魔王殿。魔王殿。さてはお城の事務作業に飽きて逃げてきたんでしょう?」

『うるさい! お前だって仕事サボってゲームセンターにいるじゃないか!』

「それはそうですが、おとなげない人ですねぇ」

『お前にいわれたくないわ!』


 ドット絵の魔王殿が、びゅんびゅんっと特大の弾を撃ってきた! あきらかにゲーム性を無視したサイズだ!


 どかーんっと我輩と川崎の砲台が壊れてしまった。


『ぬわっはっはっは。今日はとことん二等書記官をいじめぬいてやるからな。覚悟しろ』


 どうやらゲームをクリアさせないつもりらしい。これが仕事なら接待プレイでもしてやるのだが、今日はオフの日なんだから適当にあしらっていいだろう。


 我輩と川崎はこそこそ会議した。そもそもプログラム改変でボスキャラとして登場したんだから、真面目にクリアする必要がない。まずは魔王殿を追い払ってしまったほうがいいだろう。


 こちらは裏技を使うことにした。魔法を使って兄上に連絡した。


 ――兄上、兄上、城から抜け出した魔王殿だが、地球のゲームセンターにいるぞ。


 ――なんと! まったく、魔王様の事務作業嫌いにも困ったものだな!


 いきなりゲーム内に本物の兄上の巨大な手が出現して、ドット絵の魔王殿を握った。


『捕まえましたよ、魔王様」

『あ! 一等書記官! こら放せ! よりによって魔王を拘束するなどと無礼者め!』

『いいえ逃がしません。今日中に書類千枚、ちゃんと目を通してもらいますからね』

『ひぃいいいい! 千枚はむりぃいいいい!』


 ぽんっというコミカルな音で魔王殿と兄上が消えた。


 だがゲームがクリアにならない。様子がおかしい。


「おーいおばば。どうしたのだ?」

『ぶくぶくぶく、魔王さま怖い……』


 魔王殿がゲームに登場したショックで失神してしまったらしい。無理もないか。城勤めをしていない人物にとって、魔王殿は魔界を統一した絶対唯一の覇者だから、関わるだけで恐怖してしまうのだ。

 

 しょうがないから我輩がおばばの魔法を解析してみたのだが、どうやら魔法の供給元が失神したせいで、魔力式が壊れてしまったらしい。ゲームのメモリ破壊みたいなものだ。


「ちょ、ちょっと暮田さん。僕たちどうなるんです……?」


 川崎が、ちょっぴり怯えてしまった。


「あいや、ゲームから脱出する方法はあるから安心せよ。ただし条件つきで」


 我輩は、こきこきと手首を鳴らした。


「……なにか問題があるんですね」

「不幸が三日ぐらい訪れるが、我慢できる範疇だ」

「…………わかりました。いつまでも閉じこめられてるわけにはいきませんから」


 川崎も納得したなら、あとは仕事をするだけだ。我輩は全身から魔力を放出すると、おばばの魔法を内側から破壊して、ゲームから脱出した。


 ――なお、我輩と川崎の我慢しなければならないことだが、花江殿のリアクションでわかると思う。


「あのー……暮田さんと川崎さん、なんだか角ばっていませんか?」


 我輩と川崎は、ファミコンレベルのドット絵に姿が切り替わっていて、会話がすべて画面下の別ウインドウに映っていた。


 かわさき【ぼくたち、みっかもげーむのきゃらくたーなんですか? しかもぜんぶひらがなひょうじだと、よみにくいですよ】

 くれた 【ろむのようりょうがちいさいから、つかえることばがすくないのだ。なのにすてーたすがめんは、よういされている】

 かわさき【ちからのつかいどころをまちがえてますね……】 



 ※おまけ。暮田さんのステータス画面です。読みにくいので漢字とカタカナを使用しています。


 暮田伝衛門 種族:グレーターデーモン 職業:魔界時代は二等書記官。地球時代は花江の使い魔。


 力255 知力255 すばやさ255 タフネス255 やる気255……すべてカンストしているが魔界時代限定。地球時代は半分以下。とくにやる気や知力などの精神面に関わる数値が落ちまくっている。


 使用可能な魔法 幻惑系や心を読むなどの精神に作用する魔法は使えないが、攻撃魔法と補助系魔法ならすべて使える。ただし地球時代は自分が魔法を使えることをたまに忘れる。


 得意技 魔界時代は戦闘から労働管理まで幅広くこなしていた。地球時代は格闘ゲームの空中コンボ。


 魔界時代と地球時代に共通していることは、友達が多いこと。

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