第28話 君の名はゴジラなガルパン

 プロの漫画家になったゴブリン族のゴブゾウ殿が、久々に我輩の部屋をたずねてきた。


「暮田さん……拙者、ネタが切れたでござる……」


 緑色の皮膚が真っ青になるぐらい疲れ果てていた。やはりプロにもなるとネタ切れは深刻な悩みになるのだろう。


「やはり締め切りは厳しいのか?」


 我輩は、ゴブゾウ殿の好物である、みかんを用意した。


「週刊誌は狂っているでござる。物語を考えて絵をつけてを一週間のサイクルでやるなどと……悪い経営者をこらしめる漫画を描いている拙者が長時間労働で苦労するなんて本末転倒でござろう。編集部を滅ぼしたほうが世のため人のためと思ってきたでござるよ」

 

 親の敵みたいにみかんをむさぼりながら、ずらずらと愚痴るぐらいストレスがたまっているようだ。ネタ切れも原因だろうが、ずっと部屋に閉じこもっているのも原因だ。


「あいわかった。我輩もネタ探しに協力しよう」

「ありがたい! さっそくネタでござるが、地球と魔界のネタをミックスさせて流行に便乗したほうがいいでござる」

「流行ときたなら手始めにゴジ○っぽい生き物がよさそうだな。魔界で探そう。きっと一匹ぐらいいるはずだ」


 ゴ○ラっぽい生き物。あくまで“っぽい”だけで本物じゃない。どんな生き物かといえば、でっかい恐竜みたいな怪獣だ。ずしんずしんと二足歩行で歩いて、でっかい口から熱の光線を吐く。何度倒されてもシリーズごとに復活する。大人の事情かもしれないが、とてつもない生命力の持ち主というわけだ。


 さっそく魔界で“っぽい”やつを探してみると、海辺で発見した。しゅごおおおおっと高波に向かって光線を吐いていた。うーん、かっこいい。さすが魔界、怪獣ならなんでもそろうというわけだ。


「暮田さん。○ジラっぽい生き物を発見したのはいいでござるが、これからなにを?」

「ゴ○ラっぽい生き物が一発ギャグなんてどうだ? 人気投票爆上げ間違いなしだな」


 親切にもゴジ○っぽいやつが、ぎゃおおおおんっと変な顔とポージングをしてくれた。だが――。


「いまいちだな」

「いまいちでござる」


 しゅごおおおおっと怒りの熱光線――我輩とゴブゾウ殿はこんがり焦げてしまった! しかもゴ○ラっぽい生き物はぷんすか怒って海へ帰ってしまった。


「うーむ、悪いことをしてしまったな」

「怒らせるつもりはなかったでござる」


 我輩とゴブゾウ殿は、ぷすぷす焦げたまま反省すると、次のネタを探すことにした。


 ゴジ○っぽい生き物のお次は、ガル○ンっぽい学校だ。


 繰り返すが、あくまで“っぽい”だけで本物じゃない。戦車道を志す女子高生たちが戦車を使ってチームで競うわけだが、萌えミリタリの皮をかぶったスポ根である。なお戦車の中で紅茶を飲む子が一番かわいいのだ。この“っぽい”学校を魔界で探そうと思ったが、やっぱりアニメーションは地球が本場だろう。


 さっそく地球へ戻ると、戦車道を志していそうな女子高を探した。なんと北海道の僻地で発見した。すごいなぁ北海道。さすが面積が日本一だけある。


「暮田さん。ガルパ○っぽい女子高を発見したのはいいでござるが、これからなにを?」

「汗水流して戦車道する女の子たちのワンカットだろう。人気投票爆上げ間違いなしだな」


 参考文献として女子高を写真撮影しようとしたら、ガルパンっぽい戦車の砲塔がこちらを向いた。


「関係者以外立ち入り禁止よ、この変態ども!」


 ちゅどおおおおんっと戦車砲で撃たれた! おまけに警察を呼ばれてしまって、我輩とゴブゾウ殿はあえなく逮捕。取調室に連行となった。


「うーむ、また警察に捕まってしまったな」

「おかげで取調室のシーンがリアルに描けるでござる」


 こってりしぼられた我輩とゴブゾウ殿は、これも記念だと自分たちで注文したカツ丼の食べかすを口につけたまま、取調室を出た。


 お次で最後のネタ探しだ。君の名○、っぽい入れ替わり現象に遭遇してみようということになった。

 

 三度目になるが、あくまで“っぽい”現象であって、本物ではない。思春期の男女の肉体が入れ替わって、恋愛しながら彗星落下に関与しながら、ラストまで疾走するわけだ。老若男女幅広く楽しめる名作だな。先日兄上と見たのだが、地球の文化はよくわからんといわれてしまった。まったく魔界の文化ばかり触れているから視野が狭くなるのだ、兄上は。


 兄上の批判はさておき、魔界には特殊な魔法を使える人材が豊富だから、肉体の魂を入れ替えるぐらい造作もないだろう。


「だが待ってほしい。あれは若い男女が入れ替わるからおもしろいのであって、我輩とゴブゾウ殿が入れ替わっても読者を選ぶだろう」

「そうでござるな。漫画新人賞を予選落ちする暮田さんが週刊の漫画かけると思えないし」

「ぐはっ……! 我輩の古傷を広げないでくれ……」

「本当に申し訳ないでござる」

「ふふ……とにかく、我輩と花江殿が入れ替わるのが王道だな?」

「いかにも。読者投票ナンバーワン間違いなしでござるよ」


 というわけで魔界で有名な魔女のおばばをスカウトした。ひょえひょえひょえと、怪しい笑みを浮かべている。紫色のローブも使い古した箒も魔女っぽくて頼りがいがあった。これなら入れ替わりもうまくいくだろう。


 さっそく魔女のおばばを連れて、地球へ戻った。


 花江殿は洗濯物を取りこんでいた。隙だらけだ。これなら、どんな初心者だって魔法を外さないだろう。


 魔女のおばばは箒を構えて自慢の呪文を唱えた。


「ふんばらばらうんばらばら、そーれ魂が入れ替わってしまえ! あ、入れ歯外れたひゃい」


 びゅーんっと魔法が反対側へ飛んでいって、我輩とゴブゾウ殿が入れ替わってしまった!


「グレーターデーモンとゴブリンが入れ替わっても人気投票は地の底へ落ちるだけだ!」


 我輩はゴブゾウ殿の肉体で叫んだ。なんて小さい身体だろうか。


「暮田さんでは漫画が書けないでござる!」


 ゴブゾウ殿が我輩の肉体で叫んだ。なんだか大きな身体をもてあましているようだ。


 とにかく我輩は、ゴブゾウ殿の肉体で、おばばに懇願した。


「おばば、いますぐ元に戻してくれ!」

「いますぐは無理だけどねぇ、一週間たてば自然にもどるぞい」


 するとゴブゾウ殿が我輩の肉体で失神しかけた。


「い、一週間でござるか!? 来週の締め切り完全アウトではござらぬか!」

「二人で協力して解決せぇ。それが入れ替わりの王道であろうよ」


 しかたなく我輩の部屋に眠っていた漫画道具を引っ張り出すと、一時的に同居して漫画の仕事をこなしていくことになった。


 だが花江殿が魔法による入れ替わりを理解できるはずもなく、容赦なくナギナタが飛んできた。もちろん攻撃対象は、我輩の肉体を扱うゴブゾウ殿に。


「暮田さんっ! 漫画なんて書いてないで仕事してくださいっ!」

「拙者仕事しているでござる! これが仕事でござる!」

「またわけのわからない言い訳を考えてっ! えいっえいっ」

「ああ痛い、これはひどい、あまりに無慈悲……暮田さんはいつも苦労しているのだなぁ……」


 ぼこすかとナギナタで殴られてしまうゴブゾウ殿。ちなみに我輩の肉体だからあんまり傷つけないでおくれ。


 そして我輩だが、担当編集に文句をいわれていた。


「なんで絵が下手になってるんですか!」

「うるさいわ! 我輩を予選落ちさせた分際で! 魔法で焼き殺すぞ!」

「言い訳しないでください、あなたもうプロでしょう!?」

「だから落とされたといってるだろうが、電波みたいなことをいうでない!」

「…………あれ、この部屋のやりとり面白くないですか?」


 こうして今週の連載分には我輩の部屋でのドタバタ劇が、微妙に崩れた絵で掲載することになった。世間では『伝説の電波回』と評判になり、なぜか読者投票で一位になった。


 ――後日、元に戻った我輩とゴブゾウ殿のところへ担当編集がやってきた。


「あの、もう一度入れ替わって、先日のアレ掲載してくれませんか!」

「「二度とやるものか!」」

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