第2話 失敗 ホットケーキ

 ホットケーキを焼いた。誰でも作れる簡単おやつと言えば、これだろう。と言って粉も適当に混ぜて作って、膨れも悪かった。あまり混ぜない方がいいのか、それともしっかり混ぜた方がいいのかよく分からず、まあ納豆ではないのだから、混ぜれば混ぜるほどいいと言うわけでもないだろう。因みに、納豆は全く混ぜないのが好みなのだ。納豆独特のあの何とも言えない味と、豆の触感を味わうには混ぜない方がいいからだ。

 しかし、フライパンに蓋をして生地を蒸し焼きにし、ひっくり返してみると、表面がこんがり焼けて美味しそうだった。焼き色がついた方を上にすると、その上からヘラで四等分に割っていく。さくさくと香ばしい心地よい音がした。実に美味そうな音だった。表面はぱりぱりの煎餅のようになっているのだ。すぐに蓋をしてまた蒸し焼きにする。せっかくの煎餅が、しんなりとしてしまうのは惜しい気がするが。この方が一息に熱が加わって、中までしっかり火が通るのだった。

 フライパンも少し小さめだったが、皿も小皿だったので、四等分した大きさが、ちょうど収まるくらいだった。それに、食べるときはそのくらいの大きさに切り分けないといけないから、切るときの手間を省くためにそうするのだ。もちろんそれで膨れた所が押しつぶされ、味が落ちてしまうが、その時はあまり気にしなかった。粉の混ぜ方が均等でないから、膨れが悪いのだと心配していたが、焼けてみると、意外によく焼けて美味そうだった。

 作っている間が、一番美味しそうに思える。またフライパンに生地を流して、もう二回目からは大分要領を覚えて、手際も良い。それに、フライパンもよく温まって、熱が均等に伝わっている。膨れ方も心なしか良くなったように思える。また蒸し焼きして、生地の表面に気泡の穴が見えてきたら、ひっくり返す。この時が一番楽しくもあり、心配でもある。焼き目はどうなっているのか、上手くひっくり返せるのか。くるっとひっくり返して、三回転半! くるくるくる。これなら、オリンピックの競技にしてもいいだろう。まあ実際はそんな事はしないのだが、また蓋をして蒸し焼きにする。今度はその湯気が蓋について、それがフライパンの底に垂れると、ジューと音がする。すると、ちょうど裏面もよく焼けている。次々に順調にホットケーキは焼けていく。また蒸し焼きにして、ひっくり返す段になり、仕舞ったと思った。思わぬ事態に遭遇したのだ。生地をひっくり返そうとすると、フライパンとしっかり密着して離れない。強引にヘラをねじ込んでみると、こ、これは、すっかり表面を焦がしてしまった。食べられないと言うほどでは無いが、どう見ても失敗である。見るからに苦そうな物ができてしまった。少し火が強すぎたようだ。しかも、調子に乗ってその分は多めに生地を使って作っていたから、大きめのホットケーキを焦がしてしまった。もう生地も残り少ないあと一枚、焼けるくらいだろう。今度は火力を下げて焼いたが、それは明らかにこんがりと焼けなかった。奇麗な表面をしているのだが、最初ほど美味そうには思えなかった。まあそれも良いのだ。

 これで、生地は全て焼き上がったのだが、まだ味見はしていないから、食べるときのお楽しみになってしまった。それから、飲み物は何がいいだろう。ミルクか、ココアか、それとも紅茶か、ミルク紅茶と言う手もある。コーヒーは飲まないし、牛乳はダメだから、私はコーヒーに入れる粉のミルクに少し砂糖を入れて、飲んでいる。

 さてさて、出来上がったホットケーキを食べるときがやって来た。どれどれ一つ頂いてみますか。作っているときも楽しいのだが、やはり食べる瞬間が一番嬉しい。この時のために苦労して作ってきたのだ。切り口はヘラで荒く切ってしまったから、やはり少し押しつぶされていて、ふわふわとした感じが無くなっていた。その切り口の目も少し荒く、つぶつぶになって見えた。混ぜ方が均等では無かったのだろう。それで、しっかり膨らまなかったのだ。まあそれでも食べてみないと味は分からない。

 いよいよホットケーキにかぶり付いた。ん? あれ、想像していたのと違っている。全然、甘味が無い。

 このホットケーキの粉は、幾度か使ったことがあったはずだった。が、味を確かめなかったから、まるで甘くなかった。ホットケーキの粉は、いつも市販の物を使って、水か牛乳と、卵なんかを混ぜてフライパンで焼けば、簡単にできる物だった。偏にホットケーキの粉と言っても、当然メーカーによって、その原料は微妙に違っていた。そのまま焼いて食べても、甘味があって美味しい物もあれば、砂糖がほとんど入っていない、自分で加えなければならない物もある。その時は焼いた後に食べてみて、ようやくその事に気付いてがっかりしてしまったのだ。

 とほほ、何だか今までもの苦労が、全て水の泡になってしまったようだった。別に食べれないわけでは無いが、甘さが無いのは何か物足りなさを感じた。砂糖か、蜂蜜か、シロップを掛けたいところだ。個人的には、濃厚な蜂蜜をたっぷり掛けるのが好みだった。黄金色の蜂蜜が輝いて見える。ホットケーキをはふはふいいながら噛み絞めたときに、染み込んだ蜂蜜が、じゅわーと染み出して来る。舌が痺れるくらいの甘味を感じる。そう言った口の中が、びっくりするくらいの甘ったるい奴を食べてみたいのだった。蜂蜜は置いてないし、まあミルクを甘くしてあるから、これで甘味を補給しながら食べればいい。しかし、この焦げた奴はちょっと苦いなあ。それもまたいい思い出である。次は上手く焼こうと反省ばかりであった。

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食の朗読 つばきとよたろう @tubaki10

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