食の朗読

つばきとよたろう

第1話 やわらか苺大福

 大福餅をもらった。それも苺の入った。苺大福だった。白い餅は見るからに、もっちりとして触るだけで、形がほぐれそうなほど柔らかかった。普通の大福餅より嵩がある。苺が入るために、餅が縦に張っているのだ。幾ら白い餅を眺めていても、中身の様子までは想像できない。確かに餡の所は、餅の薄皮から少し透けて見えた。きっと甘い餡の味と、その口当たりの滑らかな餅とが、合わさって美味いのだろう。見ているだけで、舌が潤ってくる。

「どれどれ、頂きますか!」

 この苺大福は初めて食べるから、少し警戒したのだ。あるいは勿体無くて、大胆にできなかったのか。苺大福は一つだから、一気に食べれば、あっと言う間に無くなってしまう。ゆっくり味わって、食べたいと言う気持ちが、少々臆病にさせたのだろう。口を小さく開いて、恐る恐る白く粉の吹いた丸い苺大福にかぶり付いた。

「んっ、あれ?」

 苺大福を考えていたから、苺の甘酸っぱい果汁が溢れ出て来るのを思い描いていたのだ。しかし、運悪く苺は中心から逸れていた。この大福は苺が小粒なのか、それとも餅と餡の部分が大きめなのだ。これでは、ただの大福餅じゃないか。それでも、餅は面白いように伸びた。

「おお、伸びる伸びる。餅が柔らかくて、こんなに伸びーる」

 この演出が面白い。お菓子に、まるでおもちゃの要素が加わったようだ。食べ物で遊んではダメと言うが、食べながら遊べるのは、何とも嬉しい。びょーんと、どこまでも白い餅は伸びる。餅の伸びた先が、段々細くなるが、切れそうで、なかなか切れない。目で見て、その餅の柔らかさが体感できる。美しくは無い。どちらかと言うと不格好だ。その動作は喜劇的で、本当にびょーんと音が聞こえてきそうだった。

 それが伸びるたびに、餅の中の漆黒の餡が透けて見えてきた。

「うむ、うむ」

 餅独特の触感と、餡の甘味が口内で広がってくる。面白い触感だった。噛めば噛むほど餅が餡とよく馴染んだ。歯が喜んでいるような弾力が心地よい。それが、いつまでも続くようだった。やがて餅その物の甘みを感じるように思える。また別の甘みが見つかった。餅と餡の組み合わせは、実に美味い。甘い餡に、餅のもちもちとした触感が美味いのだ。しかし、まだ苺と出会っていない。これからが本番だ。

 今度は外しようが無い。ゆっくりと狙いを定めて、苺にかぶり付いた。

「うんうん、よしよし」

 思った通りだった。ちょうど苺の中心をかじった瞬間、唸ってしまった。瑞々しい苺の果汁が滴り、口の中を程よく満たした。すぐに餅の柔らかいのと、餡の甘いのが追い掛けて来て、苺は汁になって素早く溶けるように無くなるが、餡はゆっくりとその濃厚な甘味を、口内に漂わせながら消えていく、餅は長く口の中に留まって、仄かに苺の酸味と餡の甘味とが混じり合った、弾力のある触感を得ることができた。

「おっ!」

 断面は見事に餅、餡、苺の三層、いやよく見ると餅の白、餡子の黒、苺の表面の赤と、中心部分の白、これは餅の白とは、全然違った澄んだような白さだった。これで四層になっている。かじり取った断面は、色鮮やかで綺麗だった。食べてようやく現れる美しさは、何とも嬉しい。餅と餡と、苺が三位一体となった。今日はちょい足しと言うのがあるが、大福餅に甘酸っぱさが加わると、全く違った味わいが生まれる。それに、酸味は食欲を増殖させると言う。より美味しさも増すようだ。苺には、あと少し甘味が欲しいときがある。それを餡が補っている。大福餅には無い瑞々しさを、苺が醸し出している。これは立派なデザートと言ってもいいだろう。和菓子がデザートに生まれ変わった瞬間なのだ。

 もう味は確かめた。後はこの味をゆっくり堪能するばかりだ。残りも半分になってしまった。ここは一口で行くか、二口で行くか。また苺大福にかぶり付いて、断面を確かめる。

「うん、うん」

 苺も餡も、餅もしっかり見える。苺の甘酸っぱい汁が、口の中に溢れ出て来る。じゅわーと染み出て来る。餡の甘味と、餅のもちもちした触感もすぐに合わさって、実に程よい甘さを感じた。噛めば噛むほど、もう一口頬張りたくなるのだ。

「うーん、甘酸っぱくて、甘くて美味い!」

 最後の一口までじっくり噛み締め、味わって食べたいのである。ああ、すっかり苺大福は無くなってしまった。さっきまでの口内の味わいが、まるで夢のようであった。

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