第13話

ドキドキ・・・。


なんて言おうかな。

 「ただいま?」それとも「こんにちは?」、それとも両方にするか…。


ちょっと贅沢に北陸新幹線を使って、長野に来た。

そう、あれから俺は英さんが使っていたという参考書を譲り受け、勉強していた。

幾度の長野・横浜の往復で、貯金も残り少なくなっていた俺には天の助けだった。

しかもお金まで。

 「こんなの貰えないよ…」

 「どっちみち、ここに来るんだ。そう言うのなら、働きながら返してくれれば良い」

(気にするんだけど…)と、思っていたら、こう言われた。

 「それに、貰うつもりも無かった家賃を会社経由で貰うのだから。俺の方が恐縮する…」

 「ありがと…」

そして、借用書にサインをと言われ、渡された借用書を見ると、こう書かれていた。

 『 借用書

 私事、日下夏生は、これからずっと死ぬまで笹田英と生きる事を約束します。


  西暦○○○○年△△月××日            印 』


それを見て、俺は何も言えなくなり泣いていた。

暫らく泣いては、俺は英さんに言っていた。

 「これって、金額、どこにも書かれてないよ?」

 「ば、ばかっ・・。ツッコんでくるな…」

ふと見ると、英さんの顔は真っ赤になっていた。

嬉しくなり、言っていた。

 「ありがとう。一生かけても返すからね」

 「ああ。俺の側に、居てくれ…」

俺は、その一言と共に抱きしめられた。

 


まるっきり苦手だった数学が、面白くなってきた。

英さんの家に居た数日間は、主に数学を教えて貰っていた。

公式を紐解くのが楽しくなっていた。そこに、英さんが使っていた参考書を使うと、益々楽しくなっては面白くなってくるのだ。

それは、数学だけに留まらず、他の教科にも及んだ。

元々、文系の俺は数学が分かる様になっては解読力が出てきたらしい。

先生に言われた。

 「1教科だけでも、そういうのが出てくると、全教科の成績は比例され、成績は上がるものだ」


12月の期末も終わり、最終の三者面談。

担任からは一言だった。

 「大丈夫だ。このままイケ。だけど、体調管理だけはしっかりしろよ」

 「はい」

お姉ちゃんも言ってくる。

 「なんか、私も緊張してくる。ねえ、先生。我が校始まって以来の初では?」

 「そうなんだよ、センターでの国立は。ナツ、お前が初なんだ。

良いか?このまま突っ走れっ」

 「はいっ」

 「振り返るなよっ」

 「はいっ!ラスト掛けますっ」


さすが担任、陸部顧問の言葉だわ。

俺の中に、真っ直ぐに突き刺さってくる。


体調管理しつつ、センターを受けに行ってきた。

結果が出るのは卒業式以降だ。

その卒業式では、校長は長ったらしい説教挨拶ではなく、短めだった。

それから4日後、それは郵送で着た。


 「お姉ちゃん、お姉ちゃんっ!」

 「なによっ、今いそが」

 「着たよ。開けるよっ」

 「着たって、何が・・。あ、待って。手を洗ってくる」

二人揃って手を洗っては正座をしては封を開ける。

心臓の音が大きく聞こえる。



 「お・・、おねぇ・・ちゃ、ん」

 「やっ・・、やったー!バンザーイ!ナツ、やったねっ。おめでとうっ!!」

 「う・うわーん…。お姉ちゃん、ありがとっ!」

嬉しくて泣いてる俺に、お姉ちゃんは言ってくる。

 「凄いじゃない、ナツ。スポーツ奨学金の案内に、夜間の部の入学金の書類に、授業料免除の書類に、就職先からの必要書類の案内に・・・」


ちょ、ちょっと、お姉ちゃんっ。

さっきまでは一緒に嬉し泣きしてたのは誰だよっ。


一通り封書の中を確認したのだろう、お姉ちゃんは言ってきた。

 「今夜は御馳走だね。寿司の出前でも取ろうかなっ」

 「だって、お寿司なんて高いよ…」

 「ナツの就職祝いと卒業祝いと入学祝いだよ。

さあ、今夜は寿司だ!んでもって、私の手抜き料理の日だっ!!」

 「ごめんね…」

お姉ちゃんにデコピンされた。

 「ってぇー…」

 「そこ、謝るところじゃないよ」

 「ありがとう。あ、学校とお兄ちゃんに連絡するっ」

そう言うと、俺はお兄ちゃんにメールをして、学校に電話をした。


 『やったー!ナツ、おめでとっ!!そっち行っても、元気で頑張れよっ』

 「はい、頑張りますっ」

 『あ、ちょっと待ってな。校長、校長、やりましたよっ!

-何がだね・・・-

ナツが、ナツが、センターを受けての国立大。合格したって、今、電話で…

-たしか、昼間は仕事で大学は夜間-

そうですよっ!あ、あれ・・ -校長、電話を返して下さいっ-

日下君?』

 「は、はいっ」

 『大学入学おめでとう。そっちに行っても体調には気を付けて頑張れよ』

 「ありがとうございます」

 『君のブラコン兄さんは、ブラコンから卒業する切っ掛けになるだろうな』

 「そうでしょうね…」

 『それじゃ、達者でやれよ』

 「ありがとうございます。校長先生も、お元気で」

うんうん…、と言って電話は切れた。


その間に、お兄ちゃんから返信が着てた。

 『さすがナツ、俺の弟だ!今夜は寿司だろうな~

それなら、俺はケーキを買って帰るから。おめでとー!!(はぁとマーク)』



その大学を受ける動機は不純な俺だけど、でも、実力で合格したんだ。

そりゃ、部活の成績も引っ提げて行ったのだけど。

それでも、嬉しい。


おっと、忘れてはいけない、もう一人。

英さんだ。

合格通知書を写メってメールした。

少し経つと、返信が着た。

 『おめでとう!!こっちに来る日が決まったら、知らせてね』



そんなこんなで、長野に来た。




ピンポーン、ピンポーン…。


少し待つと、玄関が開く。

 「いらっしゃい」

 「こんにちは。これからお世話になります」

 「こちらこそ、よろしく。荷物、部屋に入れて置いたよ」

 「ありがとうございます」



これから、長野での生活が始まる。





















 -完-

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合宿、それは自分への挑戦 福山ともゑ @asami_f

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