第8話

「ああ、自己紹介が遅れたね。俺はアオって言うんだ」

笑顔を崩さない彼はそう名乗った。そして音も無く僅かに近づくと、少女はその笑みに違和感を覚えた。

……これは、なんだろう。

勘など到底鋭くはなく、ただ違和感がある程度にしか感じることができない。脚がジリジリと焼けるように痛み出してきた。

「名前、聞いてもいい?」

そこまで言われてやっと自分は名乗ってすらないことに気がついた。

「あ、あぁ、えっと、はい、き、岸城(きしろ)……」

「キシロ?」

「琴愛(ことえ)です……」

「コトエ? それどっち? どっちが名前なの?」

かたかたと首を傾げるアオ。目も白黒させて不思議そうな顔をしている。

「え、っと、……琴愛。コトエで大丈夫です」

その様子がおかしくてつい頬が緩んでしまう。

「そっか、じゃあ琴愛。君は何処の出身?」

え、と言葉に詰まり聞き返そうとするも直ぐに遮られてしまう。

「エルタータ? クーライ? ……いや、そもそもなんで追われていたのか聞くべき?」

「あっ……! そ、そうだ、あの、あれ、何なんですか?! 狼が二足歩行でっ……!」

コトエはあのオカシな言語を話していた化物たちの尋ねようとして、結局自分の言語のボキャブラリーが乏しいことに気がついてそれ以上話が続けられなかった。

「ん? あー……狼男(ウルフマン)達のことかな? でもアイツらどこの街にでもいるし、珍しくないでしょ……。記憶喪失とか? なら楽なんだけど」

後半はこちらの質問に答えているというよりは声が小さくなって独り言のような感じだ。

「うーん。で? 追いかけられてたのは?」

「知りません! 食べられちゃうかと思いました!!」

全力で涙目に訴えるコトエ。しかし彼は胡散臭そうにこちらを見ている。


__胡散臭く見たいのはこっちだよクソが。顔と優しさが無かったら毒吐いてたぞ。


決して顔には出さぬよう、飽くまで心の中にとどめた。


何故私がこんな目に。ふざけんな。


とにかく心の中でひょっとしたら聞こえるのではないかというくらいに何度も何度も毒を吐く。

「……知らないよ……」

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影から始まる嘘吐きライフル お菓子なテディベア @StrangeTeddy

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