クロネコ時間
@HA-NA
クロネコ時間
「あと……っ…5分っっ!」
レイとハヤテは全速力で自宅へ向かって走っていた。
街外れの丘から自宅までは、どんなに早く走っても10分はかかる。
丘を転げるように駆け下り、街へと続く砂利道で足を取られないように気をつけながら、二人はお互いを支えて走った。
転んでいる暇は無い。
「ハ……ハヤテっ!街中へ入ったらっ。どのっ道を……行くっ!?」
「真っ直ぐ、石畳の道を家へ向かって走るのが一番早い。脇道が必ずしも近道とは限らない」
街中へと入る前に、すでに息も絶え絶えなレイとは違って、ハヤテは冷静に状況分析をしていた。
ふと視線を落としたハヤテは腕に絡めたチェーンの時計を見て「まずい」と一言だけ呟いた。
レイはそれに気づいていたが、答えられる程の余裕が無かった。
「レイ。黒猫時間まであと2分しかない。俺のばあちゃんの家で黒猫時間をやり過ごす」
そう言うとハヤテはレイの手を取って、今さっき通り過ぎた古い小屋へと引き返した。
小屋の窓はしっかりと閉められ、カーテンも引かれている。
もちろん玄関も固く施錠されていた。
ハヤテはお構い無しに『ドンドン!!』と玄関の扉を乱暴に叩き
「ばあちゃん!レイとハヤテだよ!開けて」
と扉に向かって叫んだ。
扉はすぐに開き、二人は小屋の中へと転がり込んだ。
目の前の老婆は間違いなくハヤテの祖母で、彼女は二人の姿を見て自らの髪の毛を三本ずつ、計六本抜いた。
「あんたたち……」
老婆はそう言いながら三本の髪の毛を器用に一本に編んで、それを二束作ると、一束ずつレイとハヤテそれぞれの小指に結わえた。
「此処にいる間は、これを絶対に外すんじゃないよ」
老婆のその言葉に二人は揃って首を縦に振り、ようやくホッと息を吐いた。
「家に連絡しときな。無事に届くかはわからないけどね」
言葉と同時にポンッと放り渡された二枚の細長い紙切れを二人はそれぞれ受け取ると「丘の麓のばあちゃん家にいる」とだけ書いて、陽の昇る方角の窓の鍵穴から外へと押し出した。
レイが書いた紙はレイの家へ。
ハヤテが書いた紙はハヤテの家へ向かって石畳の街中を飛んで行った。
途中で黒猫が興味を持ったら、それを掴んで食べてしまうだろう。
そうしたらメッセージが届かないというだけの話なのだが。
万が一にも息子達を心配した両親が ”黒猫時間 ” に屋外へ出たら、その紙切れ同様、食べられてしまう。
クロネコ時間 @HA-NA
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