第7話 『精一杯の強がり』
内容がまったく頭に入ってこなかった授業が終わり、ようやく放課後になった。
一応説明を加えておくと、内容が入ってこなかったのはアイテムを手放したからではなく、藤堂先輩がどのようにして男子生徒を廃人にしたかを考え、今までプレイしてきたギャルゲーやラノベのヤンデレ系、黒髪ロング系ヒロインの取りそうな行動を洗い出し、脳内でシミュレーションしていたのだ。
ヤンデレ系ヒロインというのは往々にして主人公を束縛したがったり、他の女と話しているだけで嫉妬して、下手をすれば殺すところまで至ったりと、結構攻略難易度は高いのが特徴だ。あとこれは余談だが、ヤンデレがメインヒロインの作品ってほとんどないよね。二次嫁のヤンデレは主人公に一筋なのに、なんで他のヒロインを口説こうとして苦しめるんだろうな。まぁ、それは今や運命と言わざるを得ないくらい王道な展開になってるけどさ。
とにかく、ヤンデレヒロイン攻略ではないが、細心の注意を払うに越したことはないだろう。俺だって身の回りで誰かが殺傷されるのはごめんだし。
と、そんな益体もないことを考えていると、一人の女子生徒が現れた。
夕陽を吸い込んでなお漆黒を保つ黒髪に、両肘を掴む形で腕を組んでいるせいで押し上げられる豊満な胸。そして、同じ黒髪ロングキャラでありながら、葵とは一線を画す風格の魅力的な美女がこちらに向かって歩いてくる。
つい最近偶然出会い、言葉を交わし、そして再会を予見していた彼女の名は、藤堂梨紗。
前にも説明したからイチイチ説明する必要はないと思うが、一応情景描写とかも物語の主人公兼語り部であるところの俺の役割なので、きちんと明記しておく。
「待たせたわね」
「いえ、俺も今来たところです」
「そう。ならよかったわ。それで、用件というのは、やはりコ・ク・ハ・クというやつかしら?」
告白を強調して試すような視線を向けるのに対し、俺は決意を秘めた瞳で応える。
「いいえ、違います」
「あらそう……。残念ね」
本気なのか冗談なのか、肩をすくめてみせた藤堂先輩を無視して本題に入る。
「あなたにはぜひ俺の作る部活に入ってほしいんです」
「ふぅん? それで?」
「それで、とは?」
「何の部活を作るのかしら?」
「アニメ研究部です」
「なぜ私なのかしら? この学校の創部規則によれば、三人以上いればいいんでしょう?」
試すような、挑戦的な視線を向けてくるのに対し、俺もまた怖気づくことなく淡々と告げる。
「あなたが俺を主人公としたラブコメのヒロインに適任だからですよ」
「それは私を口説いているのかしら?」
「確かにそうかもしれません。でも、そうじゃないかもしれない」
「はっきりしないのね」
「そうですね。俺の身の回りには確かにお人好しで美人なクラスメイトと、傍若無人で理不尽だけど、やっぱり顔立ちの整っている後輩がいるので、いきなり個別ルートに入るわけにもいかないんですよ」
「……ふふっ。臆することなく真正面から挑もうとするその態度、嫌いじゃないわ」
「ありがとうございます」
「これまで私に告白してきた男どもは皆度胸と根性が生半可だったけれど、あなたなら期待できそうね」
そう言って、いっそう挑戦的な笑みを浮かべ、俺を挑発してくる。
「私の遊びに耐えられたら入部してあげてもいいわ」
それに対して俺は、迷わず「分かりました」と返事をする。
たとえ精神的に抉られようと、肉体的に苦しめられようと、俺には神の約束がある。ここで引く理由などまったくない。むしろ俺の方から意欲的に攻める。
「それで、俺はどうすればいいんですかね?」
「そうやってやせ我慢していられるのも今のうち。あなたもすぐに他の連中と同じ運命を辿るわ。だから、せいぜい骨のあるところをアピールすることね」
「先輩みたいなサディスト系美人ヒロイン、俺は嫌いじゃないですよ」
「口では何とでも言えるわ。態度で示してもらいましょう」
先輩は「今すぐ支度して昇降口で待ってなさい」という指示を残すと、そそくさと去っていった。
俺も後を追うように校舎へと戻り、急いで鞄を取って階段を駆け下りる。
すると、ほどなくして先輩も現れた。
「それじゃ、今から私の家に向かうわ。今夜は寝かさないから」
「どうぞお手柔らかに」
「善処しましょう。さあ、ついてきなさい。あなたに地獄を見せてあげるわ」
先導するように歩き始める。俺もそれに続く。
彼女の家に着くまで会話を交わすことはなく、ただただ歩を進める足音だけが周囲にこだましていた。
王道すぎて面白いラブコメ 近衛雄吾 @nekoyanagi0315
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