第13話
あれから、何日経ったのか、もうわからなかった。早く森に戻らないと“みんな”が心配してしまう。自分が捕まっていると知られたらもっと大変なことになってしまう。
1日でも早くこの監獄から抜け出さなければならないと、少女はずっと考えていた。しかし、いい考えなど思い浮かばない。正当に説得することも考えたが、あのシアンが受け入れてくれるなどと考えるだけで無駄であった。
(……人が学ぶというのはこういうことなのかしら?)
などと、気をぬくと違う方に考えを持っていかれてしまう。はっとして頭を左右に強くぶんぶんと振る。
(とにかく、少しでも外に出たいと訴えなければ。早く“みんな”に会わないと……っ)
焦れば焦るほど考えがごちゃごちゃになっていってしまうが、それを気づくことができないのが現実であった。
(そういえば、今日は誰も来てない……)
ここに閉じ込められてからというもの、アーサーはあの一件以来姿を見ていないが、フレイの方は欠かさずにここに来てくれていた。なんでもない話をしてくれたり、少女のことを心配してくれたりとまるで兄のような感じであった。
そのことをフレイに伝えると、
『あー……アーサーがいたからじゃないか? 一応アーサーよりも年上だし』
と言っていた。
少女には正直兄というような存在の感覚はわからないが、きっと自分を心配してくれる“みんな”と同じと考えた。
「それよりも、ここの穢れを早くなんとかしてもらわないと、私が壊れちゃいそう……」
そう呟いた時、扉がガチャリと音を立てた。
「……っ!?」
驚いて後ろを振り向くと、そこにはここ最近姿を見せてくれていなかったアーサーがいた。何か言いたげな表情を見る限り、今のつぶやきを聞かれたと考えてもよさそうだと思う。
少し居心地が悪くなって少女はふいとアーサーから視線を逸らした。
「……今の言葉、どういう意味だ?」
「……言葉の通りとしか言えませんが」
「壊れるって、何?」
「私がです」
「ここから、いなくなるってことなのか?」
「そこまでは、私にもわかりません。ですが」
一旦言葉を止める。
「ですが、なんだ?」
「……フレイさんから聞きましたが、
「え?」
「
「……オレには関係のないことだし、興味もない」
「……そう、ですか」
その言葉を聞いた瞬間、少女は自分が安心したことに気づいた。しかし、これはアーサーは興味がないということであって他の人はどうなのかわからない。
「一つ、言えることがあるとすれば、
「どういう、ことだ……?」
「言えるのは、ここまでです。わたしもまだまだ消えたくないですし、“みんな”も私がそうなることをまだ望んでないから」
言葉に、アーサーが困惑する。消えたくないとか、みんなとか、何を言っているのかわからない。手を伸ばそうとした。しかしその時、扉をノックする音が響いた。
「はい」
返事をした少女はそのままアーサーの横を通り過ぎトビラまで歩いていく。長い髪がふわりと揺れ、自分をくすぐった。
「あれ、アーサー。ここに居たんだな」
「……フレイ」
あの暴言を吐いてから、どうしても居心地悪くて仕方がないアーサーはどうしてもフレイから一歩引いてしまう。あの後もきちんと謝りに行ったし、フレイの方も気にしていないから気にするなと言ってくれたが、それができるほどアーサーは器用な人間ではなかった。
沈黙が辺りを包んだ。
「……ま、考えていることがわからなくはないが、このままでいいとお前が言うならこのままでいいよ。オレは」
フレイはあっさりとそう言った。
「上に立つ者として、お前の言葉遣いが間違いだったとは思っていない。むしろ、今までの方が歪だったと言ってもいい。だからこそ、オレは――私はあなたを責めることはしません」
「……っ!!」
「伝えてあるはずです。私はあくまで臣下であり、あなたの目であり、耳であり、手であり、足であり、そしてあなたの盾であると」
「フレイ……ッ!」
「あなたは高貴な身分に生まれたのです。それは、変えようのない事実。そこからは逃げられないのです。自覚してください。あなたは国王の血を引いているのだと」
「……それでも……正当ではない……」
「側室から生まれたことがきになると? そんなもの、気にしなくてもいいのです。正妃から生まれたとしても、国王の血はアーサー様、あなたと同じ半分しかない。何も気になさることはありません」
言葉を返せなかった。
それは、ただ驚いたから。フレイからそんな言葉を聞くとは思っていなかった。まさか、正妃から生まれたとあの三人と同じ立場にいると、フレイから聞かされることになるとは思わなかったのだ。
たしかに、正当性を重視するのであるならばアーサーは他の三人よりも一歩後ろにいる。それは、あの三人は正妃から生まれたからだ。それに対して自分は側室から生まれた。だからこそ、同じスタートラインには最初から立てていない。しかし、フレイの考えは違ったのだ。
彼は、正当性にこだわっていない。彼がこだわっているのは、王の血を継いでいるかいないかだった。たしかにそこだけを見るなら、アーサーはほかの三人となんら変わりがない。同じスタートラインに立っているのだと、彼は言っているのだ。
その言葉に、アーサーはただただ驚いていた。
雪結晶花〜ネージュフルール〜 妃沙 @hanamizuki0001
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。雪結晶花〜ネージュフルール〜の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます