第3話

「面白い人…?」

シャウラは呟いた。

詳細な募集要項を読む。

[面白い人募集。我こそは面白いと思う者。年齢経歴は不問。面接あり。定員4名。3月27日午前10時、ティオールビル地下1F集合。]

なんだこれ?主催者の欄と活動内容が空白。

「パソコンならもう少しちゃんと出てくるのか?」

と、なんとなくこの紙に惹かれるシャウラ。

パソコンの前に座り、取り敢えずキーワード検索をする。

「えっと、面白い人っと」

と打ってエンターキーをおす。


検索結果は0件です。


「あれ?キーワードが悪かったかな?」

と、今度はギルドの絞り込みをかける。

「面接はありっと、経歴は不問で、レベルは…レベル?」

「シャウラ君。」

シャウラが頭に?を浮かべていると、それを察したようにナミが声を掛けてくる。

「おわっ、ナミさん」

少しびっくりするシャウラ。

「困り事?」

「えっと、ナミさんは心が読めるんですか?」

と思った事をそのまま聞いてみる。

「ん?読めないよ、心なんて。シャウラ君が冗談言うなんて珍しいね」

「いえ、タイミングがよかったので…」

「ふふ、少し仲良くなれた証拠かな」

と嬉しいそうに笑う。

「で、どうしたの?」

「あ、はい。このレベルっていうのは何ですか?」

「あぁ、説明するの忘れてた!ごめんね」

「いえ」

「で、このレベルっていうのはね、シャウラ君さっきのカードかして」

「はい。」

とポケットからさっき貰ったカードを出す。

「このカードの裏の、ここ。ここに書かれているアルファベットがレベル。」

シャウラのカードにはFの文字があった。

「シャウラ君は今Fね。このアルファベットはSが一番上でその下にA~F。クエストをクリアしたり、何か功績を残したらレベルが上がるわ。」

「へぇ、なるほど」

俺は今一番下か。

「ギルドメンバー募集の募集制限の中にはレベル〇以上っていうのがあって、そのレベル以上じゃないと入れないギルドもあるわ。他に何か分からないことはない?」

「はい、レベルについてはわかりました。もう1ついいですか?」

「ん?どうしたの?」

と可愛く首をかしげるナミ。

「さっき掲示板で見つけたギルドをパソコンで調べようとしたんですが、見つからなくて…」

「え、そんな筈はないわよ?どのギルド?」

と、掲示板の方に歩いていく。

シャウラもナミの後ろについて掲示板の前へ戻る。

「このギルドです」

とさっきの紙を指さす。

「ん?うちではこんなギルドは募集していない筈よ?」

と紙を剥がす。

「あ、これ承認印がないわね。誰が貼ったんだろ」

剥がした紙を見てナミは呟く。

「ごめんねシャウラ君。このギルドは募集してないわ。他のを探してみて」

「あ、はい」

と返事をしたが、シャウラの心はもうさっきのギルドを釘付けだった。

「取り敢えず、他のギルドもみるか。うーん、どのギルドも面接ありかぁ」

と他のいくつかのギルドに目星をつける。

ギルド番号を書いてフロントに提出しに行く。

「はい、確かに受け取ったよ。最初の面接は3月30日にここの会議室ね。忘れないように。」

とナミが笑う。

「はい、ありがとうございます」

「じゃあまた来てね。気を付けて」

そう言ってヒラヒラと手を振る。

シャウラも曖昧に手を振り返す。


カランカランと居酒屋のドアを出て、外の空気を吸う。

さっきまでの緊張がいっきに解れた。

「ふぅ、今日は帰るか。」

と駅に向かって歩き出す。

「あ、本屋行かねぇと」

「なぁ兄ちゃん。」

突然声をかけられる。

「はい?」

「そのカード俺にくれよ」

とニヤニヤと気色悪い笑顔を見せながら金髪ピアスの男が寄ってくる。

「は?カード?」

「おうよ、さっき貰ったカードだよ、あるんだろ?」

あぁ、アレか、とお尻のポケットからカードを出す。

すると、ピッとカードがシャウラの手から消える。

「ちょ、返して下さい!」

「あ?くれるんだろー?」

またニタニタと笑う。

「あげませんよ!自分のを登録したらいいじゃないすか!」

「無理だよ。じゃあな」

「ちょ――」


ドガーーン


地響きがした。

目の前にニヤニヤ笑顔の金髪ピアスが安らかに寝ている。

「へ?」

間抜けな声を出して寝ている男を見ているシャウラ。

「気を付けろって言われなかったか?」

シャウラの斜め後ろから聞き覚えのある声がした。

「よう、坊主。」

立っていたのは居酒屋のおっちゃんだった。

パンパンと手をはたいている。

「あ、えっと、ありがとうございます」

「そんなことより、気を付けろ。この辺りはこのカード目当ての連中がウロウロしてるぞ。」

とシャウラに白いカードを手渡す。

「ありがとうございます。あの、このカード目当てって?」

「は?説明されなかったのか?ギルド紹介所は誰かからの紹介状がないと登録出来ないんだよ。」

「そうなんですか」

「そ、だからそのカードには少々プレミアが付いていてな、高く売れるって訳だ。」

「それで、このカードを狙っている人がこの辺りには多いんですか」

「おう、理解がはやいな坊主。」

「ありがとうございます」

「まぁ、そう言う事だから気をつけな。」

「はい」

「じゃあな、また来いよ」

ニカッと笑うおっちゃん。

「はい!」

シャウラも負けじと笑う。

さっきの金髪ピアスは気付いたら居なくなっていた。


3月27日

起きないと、と言いながらもそもそと布団の中で動く物体がいた。

紛れもなくシャウラだった。

下からはトントンと料理をする音が香しい香りとともに聞こえてくる。

「ふぁぁ」

と大きな欠伸を携えながら香りに釣られるように階段をおりる。

いつものようにダイニングに座ってテレビを付ける。

「あぁ、シャウラ。おはよう」

テレビの音に気付いた母親が挨拶をする。

「おはよ」

とまだまだ眠そうに目をかく。

「今日、面接だったっけ?」

「うん」

「じゃ、遅れずに行くんだよ」

「うん」

眠そうなシャウラに母親は苦笑いで返す。

次のニュースです。本日開催される首脳会談では―――

今日のキャスターは淡々とニュースを読み上げる。

「はい、ごはん出来たよ」

そう言ってシャウラの前にプレートとお茶碗を置く。

「いただきます」


ご飯を食べ終わり、面接の準備を始める。

「えっと、財布、携帯、履歴書、あとこれと、これを入れて、よし、こんなもんかな。」

ビルの名前と集合時間を再確認して家を出る。

「いってきます」


集合場所であるティオールビルはシャウラの家からそれなりに離れている。

電車で2時間といった所だろうか。

もちろん市外で、シャウラには土地勘の無いところだ。

取り敢えずと思い駅周辺地図を探す。

「あの」

すれ違いざまの少女に話しかけられる。

「はい?」

耳こそ隠れているものの、少女の瞳は明らかにエルフとわかるそれだった。

「ティオールビルってどっちですか?」

質問はまさにシャウラの思っていたことだった。

「実は俺もティオールビルを探してて…」

「あ、そうなんですか。」

分かりやすくシュンとなる少女。

「地図見たらわかるかも」

とシャウラは駅周辺地図を指さす。

「アタシ地図苦手だから…」

まぁ確かに地図が分かるなら人に聞いたりしないよなと独り合点しながら

「じゃあ俺がみるから」

と地図に近づく。

ティオールビルは駅を出て高架を渡ったところだった。

「あっちだな」

少女とビルの方向に歩いていく。

「ねぇ、君も面接?」

いきなり少女がそう尋ねてきた。

「おう、ギルドの面接」

「やっぱり、アタシもなの」

「そうなのか?」

「うん、そうじゃなきゃこんな所に来ないよ」

何か暗いもの秘めているような声で少女は呟く。

「そうだな、森精種にとって人類種の土地の空気は淀んでいるらしいしな」

「へぇ、結構学があるんだ。」

「まぁ、な」

「確かにここの空気は少し淀んでるように感じるけど、それは問題じゃないの」

「ほぅじゃあ何が問題だと?」

「まぁ、アタシが期待しすぎただけなんだけど、森精種の土地を出れば魔法は使いたい放題だと思っていたの」

「え、それはどういう――」

「ここね」

シャウラの言葉を遮ってエルフの少女が到着を知らせる。

「着いたか」

ビルの正面玄関の自動ドアをくぐる。

「いらっしゃいませ」

とわざとらしい笑顔を貼り付けて受付嬢が話しかけてかる。

「本日はどのような御用で?」

「あ、ギルドの面接を受けに」

「面接ですね、ではそちらのエレベーターで地下1階へお降りください。」

と丁寧にエレベーターを示す。

「ありがとうございます」

シャウラと少女はエレベーターに乗り込む。

「ドキドキするね」

と少女。

「そうだな」

とシャウラ。

エレベーターを降りるとそこにはたくさんの人が廊下に並べられた椅子に座っていた。

老若男女問わず色黒でムキムキのひとから色白でガリガリの人まで、とにかくいろんな人が集まっていた。

「どうぞ」

とエレベーターの降り口で立っていたお姉さんに番号札を渡される。

シャウラな108番だった。


ポーンポーンと10回連続で鐘がなった。

10時だ。

ガチャっと会議室のドアが開いた。

「今日は集まってくれてありがとう。今から面接を始める。定員は4名だ。揃い次第、面接は終了となるので悪しからず。」

会議室から出てきたおじさんがそう言って、また中へ入っていった。

「では、1番の方中へどうぞ」

とさっきまで番号札を渡していたお姉さんが案内を開始する。

「108番か」

ちゃんと順番回って来るんだろうなぁと少し不安になる。どんな質問されるんだろうか。出てきた人に聞くか?などと考える。

「次の方、どうぞ」

次々に会議室に入っていく。

誰も出てこない。

皆受かったのか?いや、違うな。質問の傾向がバレないように帰り道は分けているのか。

シャウラはそう思い、余計なことを考えるのを辞めた。


「107番の方どうぞ」

呼ばれて少女が立ち上がる。

「頑張れよ」

シャウラは少女にそう声を掛ける。

「うん、合格して来るよ」

少女は自信満々にそう言って会議室に入っていく。

少女が入って2分ほどたった頃

「次、108番の方どうぞ」

と呼ばれる。

「はい」

と、軽く返事をして、失礼します、と会議室へ入る。

中にはさっきのおじさんと、もう一人厳ついお兄さんがいた。

履歴書をおじさんに渡す。

「どうぞ、座って。」

「ありがとうございます」

そう言ってシャウラはパイプ椅子に腰掛ける。

「じゃあ、自己紹介をどうぞ」

「はい、シャウラ=プロイレンスです。16歳です。この3月にヒバリ学園大学校を卒業しました。」

「ほう、ヒバリ学園大学校ねぇ。ん?この履歴書、種族が空欄だけど?」

「はい」

「何か事情がありそうだね。君の種族は?」

「人類種です。でも――」





「なるほど、面白いねぇ君。

合格だ。」

「…っ!ありがとうございます!」

感極まって大声で挨拶をするシャウラ。

「じゃああっちの扉から出て待っててね」

「はいっ!」


示された扉を出ると、そこは講義室のような場所だった。

とても広い空間にシャウラの他に3人の人がバラバラに座っている。

獣人種の男と、人類種であろう少女、そして、森精種の少女。

その森精種の少女はシャウラを認識すると

「やっほー、君受かったんだ」

と、声を掛けてくる。

「おう、アンタも受かったんだな」

ヒラヒラと手を振る。

「当然。合格して来るって言ったでしょ?」

「あぁ、確かに言ってたな」

シャウラは苦笑いしながら少女よ隣に腰を下ろす。

ガチャっと講義室のドアが開いて

「合格おめでとう。君たち4人は今日から仲間だ」

と拍手しながらさっきのおじさんが入ってくる。

「君たちにはこのゲームをしてもらう」

そう言うと、バンっと部屋の証明が落ち、正面の壁にゲームタイトルが映る。


『完全感覚GOLDEN』

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金色の箱庭 琥珀めい @kohaku_1998_

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