一話完結オムニバス 二番の歌詞
――通りゃんせ 通りゃんせ
ここはどこの細道じゃ
天神様の細道じゃ
どうぞ通してくだしゃんせ
ご用のないもの通しゃせぬ
このこの七つのお祝いにお札をさげに参ります
どうぞ通してくだしゃんせ
いきはよいよい 帰りは怖い
怖いながらも
通りゃんせ 通りゃんせ
「僕さ、通りゃんせって歌、小さい頃からほんっとに怖いんだよね」
「何さ、藪から棒に」
「藪から棒にって、それこそ何だよ。藪に棒があっても、特段違和感ないだろよ」
「あなたって、ほんと、理屈っぽいわよね、そういうところ……」
「俺は理屈っぽいけど……いや、理屈じゃないんだって、この怖さ……だって、お祝いに行って帰るだけだよ。何で怖いんだと思う?」
「知らないわよ、ただの童謡でしょ? それこそ理屈でもなく、何かの覚え違いのまま広まっただけじゃないの?」
「――身も蓋もないな」
「何よ、身も蓋もないって、お腹減りすぎて、鍋の中の身どころか蓋も食べちゃったのかしら?」
「そんなに美味しい鍋の蓋があったら、いちもにもなく駆けつけますよ」
「ああ、腹が立つ、
「君、面白いこと言うね、そう言うところ大好きだよ」
「え? そう? そうかしら……」
「――風が出てきたね……そう、七つの子供が一緒なんだよね、一緒にいるのはきっと、お母さんだよ、君みたいに賢くて優しいお母さんだと思うね」
「ふんふん、それで? お母さんと子供がどうなるの?」
「あら? 以外と簡単だね」
「簡単かしら? まだ何にも分からないわ」
「いや、機嫌直すのに苦労するかと――まあ、気にしないで……でね、お母さんと子供は天神様へお参りに行く、でも、天神様への細道は、用がないと通ってはいけない」
「そうね、歌詞をそのまま受け取ればそうなるわよね――痛っ、ちょっと足踏まないでよ」
「ごめんごめん、でも、天神様って、どこにあるんだろう、だってね、大きなお宮なら、細道じゃなくって、太道だと思うんだよ、やっぱり」
「確かに……細道って言われると、村はずれの寂しい神社ってイメージよね」
「はずれにあるのなら、他に行くところもないんじゃないかと思うんだ。村はずれの小さなお宮のその先に何があるっていうんだい? 山だか海だか、何にせよ行き止まりなんじゃないかと思うんだよね。『天神様の』細道って言うぐらいだし――わっ、びっくりした、鳥かよ」
「鳥ぐらいで驚かないで、もうすぐ懐中電灯の電池も切れるわよ、そんなことで大丈夫? でも、確かに……きっと、神社までで行き止まりだと思うわ」
「だろ? でね、村はずれの小さなお宮へ続く行き止まりの細い道を、わざわざ通せんぼしている人がいるわけよ、誰それ?」
「そうね、通る人はお宮に用事がある人だけのはずよね? 行き止り何だから……なのに、お札を下げに行くからって言えば通してくれるってのも変な話よね」
「だろ? だんだん怖さが分かってきた?」
「……まだね」
「君ね、女は素直さが一番だよ」
「悪かったわね素直じゃなくて、男は誰だって自分の思い通りになる女が一番なのよね」
「君を思い通りに出来るなんて思ってやしないさ、ただ……天神様の言う通り――になら、なるかもしれないね」
「あ、それ懐かしい、カキノタネ、カキノタネ……って続くんだよね」
「僕の地元じゃ、ノリワカメ、ノリワカメ……だったけどね」
「ノリワカメ……どこ出身よ? まあ、いいわ、また天神様なのね、天神様って何者なの?」
「分からないけど、天の神様だから、カミナリ様とかかな?」
「そうね、ちょっとイメージじゃないけど、天気の神様っぽいわよね、言われてみると」
「でよ、カミナリ様のお宮へ続く、細くて狭い、行き止りの道に、待ち伏せしてるやつって一体何者? 何が目的なのさ、お宮にはそんなに見せられないものがあるの? 危険な物があるの?」
「天気の神様ならさ、こうも考えられない?」
「何だよ君は、話の腰を折るねぇ、せっかくのってきたのにさぁ」
「いいじゃない、だから、天気の神様だから、雨が降るから気をつけろ――って言ってるわけ」
「つまり?」
「つまり、『いきはよいよい』を漢字で書くと『行きは良い宵』行く宵の内は天気も良いけど、帰りは荒れるよ、天気が――と言っているの」
「なるほどね、宵は、日暮れから零時ぐらいを言うんだっけ? 午前零時を過ぎた頃には雨が降ってくるから気を付けなさいと……それはあるかもしれないね。一説としては面白いよ、でも、神社に着く前に天気を知ってる人――雷様に会っちゃダメでしょ」
「ダメか、てへっ」
「……てへ? ああ、なんか疲れたな、結構歩いたよね? ええっと、雷様って言えば菅原道真公だよね、自分を
「そうなんだ、学問の神様のイメージしかないなあ」
「……でね、話を戻すよ、祟りのあったお宮へ続く、細くて狭くて行き止りの、日もくれてしまった真っ暗な宵の内に、お祝いだからと言って通ろうとする、一見すると親子にも見える二人連れを、宵の内はいいけれど、それを過ぎると、
「あんたが怖いわ!」
「あ、もうこんな時間、くだらない話で時間とっちゃったね、そろそろ帰らないと」
「え? あらホント、もう、零時過ぎてるじゃない、やることやって、さっさと帰りましょう」
――通りゃんせ 通りゃんせ
「――ふう、やっと終わった……それにしても真っ暗ね、懐中電灯が切れちゃったけど、携帯の電池もあんまり使いたくないわ」
「そりゃ、結構はずれの方だからね、明かりがないのは当然さ、あ、雨が降ってきた、こりゃ荒れるな……急ごう」
「そうね、この細い道、舗装もされてないから泥だらけになっちゃうわ」
――ここはどこの細道じゃ
天神様のかえりみち
「あれ? 鳥居の先に明かりが見えるよ、小さいけれど、ほんのり明るい……誰かいるのかな……」
――よくぞ通ってきたものじゃ
ご用のないもの通しゃせぬ
「こんな深夜に出歩いている人なんてね……」
――このこの七つのお祝いを参った帰りでございます
どうぞ通してくだしゃんせ
「人……人じゃない? あれは一体――」
行きは良い宵 帰りはできぬ
怖い ねのとき
うしのとき あのよいき
通りゃんせ――二番の歌詞 柳佐 凪 @YanagisaNagi
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