第3話 校舎に潜む罠

 翌朝、俺は体への衝撃で目を覚ました。特に頭部を強く打ちつけてしまったらしく、かなり痛い。

「……いってぇ」

 頭をさすり、目を開けると朝日が眩しい。床に目を向けると、朝日を反射している。昨夜そこにはガラスの破片が散らばっていたというのに、俺の使った不可思議な力で傷一つなくなっていた。

 結局、俺はリリアから自分の部屋を追い出され、リビングのソファで寝ることになってしまった。そしてこの様だ。全くわがままなお姫様だ。

 しかし、そうやっていちいち彼女に対して辟易していてはいくら体があっても足りない。だから諦めるしかないのだ。

「はあ……」

 さて、これからどうすべきか。起こしにいこうかと思ったが、また寝込みを襲っていると勘違いされかねない。だったら選択肢はただ一つ。

「朝飯作るか……」

 しばらくしてリリアは寝ぼけまなこをこすりながら降りてきた。亜麻色の髪には寝癖があった。こう見るとどこにでもいる美少女なんだけどな。ちょっとかわいいなと思ってしまった自分を恥じらい、それをかき消すように声をかける。

「よく眠れたようだな」

「まあね……」彼女はそう言って大きなあくびを一つ。その直後。「あっ! 朝ご飯!? いただきまぁーす!!」

 まだ完全には目が覚めてなかったろうに何という食い意地。

「それで、今日はどうすんの?」

 朝食を食べ終えたリリアが訊いてきた。

「夕方から納涼祭があるんだ。だからそれまでは暇っちゃあ暇だけど」

「そ。だったらあんたの学校に連れてってよ。ここの学校がどんなものか知りたいわ」

 俺に拒否権はないことぐらい百も承知だ。俺は「わかった」と言うしかなかった。

 俺たちは昼過ぎに家を出た。目的地は学校なんだが、その前に訪ねるべき場所ができた。絵梨の家だ。ことの経緯はこうだ。

 いつものメンバーとメールをしていると、リリアはどうするのかという話になった。そこで俺は彼女に納涼祭に来るかと訊ねたところ、首を縦に振ったため、それを四人に伝えた。すると、絵梨が浴衣を貸してくれると返信があったので好意に甘えることにしたというわけだ。他の三人も、リリアに会ってみたいという理由で結局全員が絵梨の家に集合ということになった。

「あんたの友達ねえ。どんな人たちか興味があるわ」絵梨の家に向かう途中、電車の中でリリアが言った。「それにしても変わった乗り物ね。何て言うの?」

「電車、だけど」

「デンシャ……。ふうーん」そう言うとリリアは向かいの車窓を見やって一言。「退屈ね」

 わからなくはないが……。

「もっと速いこと移動できないわけ、この星は? アストラとか魔法使って移動するとかさ」

「ちょっ……声が大きいって」

 俺はこいつが普通に話すのを聞いて反射的にまずいと思った。だから慌ててリリアの口を塞いだ。車内にはまばらだが人がいて、魔法がどうのこうのっていう内容を聞かれてしまうのはよくない。しかし、時すでに遅し。何人かに聞かれてしまったようで、冷ややかな視線が痛い。

 それでもリリアはそんなこと気にもせず、俺の手をはがすと、「何すんのよ変態! どうして魔法の話しちゃいけないの!?」

「何でもだめなんだって! いいから静かにしろ! あとで言ってやるから」

 むーっと両頬を膨らますリリア。それからふんっと顔をそらす。どうにかそれで納得してもらえたようだ。

 俺は、気づいたときにはすでにため息を漏らしていた。


「お前の星は魔法が盛んかもしれないけどな、この星に魔法は存在しないんだ。存在するとしてもフィクションの世界だけなんだよ」

 電車から降りた俺たちは、人気の少ない住宅街を歩いていた。それでも俺は一応人目を気にしながら話した。

「ふうん。でも別に話したっていいじゃん」とリリア。

「あのなあ。お前の話し方は自然すぎるんだよ。まあお前にとっちゃあ魔法は当たり前のものかもしれないけどさ」

「大体何でこの星には魔法が存在しないわけ? そんなのでよく生きていけるわね」

「知るかよそんなの」

 全く……このお姫様とは物事の考え方が根本的に違う。つくづく実感した。

 それからしばらく歩くと、絵梨の家に着いた。すでに四人は到着していた。

 そこでようやく初めての顔合わせということになった。俺はこいつの本性を知っているため、なるべくそういうのは慎むようにと前もって言ってあるし、四人にも一応このお姫様がどんな人物か伝えておいた。それでも、リリアが俺の肝を冷やすような振る舞いをしないかと恐れていた。しかし、その心配はなかった。むしろそこまで気に病むことはなかったみたいだ。

 リリアは、それはそれは棘のないバラのような振る舞いをしてみせた。その姿に、俺はぽかんと口を開けるしかできなかった。

「お、おい! 何で⁉ 何で俺だけ不当な扱いなんだよ⁉」

 俺はそう訊かざるを得なかった。

「何でって。あんたとは主従関係じゃない。私が主人で、あんたは僕よ」

「いつからそんな関係になったんだよ!」

「リリアちゃん、こいつのこと、よろしく頼むぜ!」

 横から淳平が割って入った。

「もちろん! まかせなさい」

 リリアは得意げに言って見せた。

「さ、リリアちゃん。部屋に行こっか」と絵梨。

「うん!」

「あんたたちはもう学校行っといたら? お楽しみは取っておいた方がいいんじゃない?」と綾音。

 お楽しみねぇ……。一度リリアを見やる。彼女の服装は母のものだ。なんとか年齢に合いそうなものを貸したつもりだが、やはり無理はある。こいつは顔もよければスタイルもいいから、浴衣姿を見てみたいというのも否定できない。

 俺がリリアを見つめて思考を巡らしていたのが原因だろう、リリアが睨んできた。俺は苦笑をするしかなく、そんな俺を見たリリアは「早く行きましょ」と絵梨と綾音に言ってそそくさと家の中に入っていった。

「じゃ、そういうことだからまた学校で!」

 絵梨と綾音も続いて家の中へと消えていった。残された俺たち男子三人は……。

「学校行くか……」

 俺がそう言うと、聡太が返してきた。

「今行ったって校内には入れないよ」

「じゃあどっかで時間つぶすか……」

 こうして俺たちは納涼祭が始まるまで時間をつぶすことになった。


 空が茜色に染まり、ヒグラシの鳴き声が聞こえ始める頃。学校に近づくにつれ、足音と喧騒が大きくなっていく。

「絶対あの子は宇宙人なんかじゃないって!」

 校門へと続く坂道を上っている最中、聡太が言った。

「声が大きいって」

 興奮したように聡太が言うから、俺はひやりとして辺りを見回す。

 あれから俺たちは日が暮れかかるまで時間をつぶしたわけだが、聡太は始終そんなことばかり言っていた。やはりこいつにとっては信じがたいことなんだと改めて感じた。

「宇宙人ってのは頭が大きくて手足が異様に長いやつのことを言うんだよ――」

「あれ、お前宇宙人信じてなかったんじゃねーの?」と淳平の鋭い指摘。

 その瞬間、メガネの奥で聡太の目が大きく見開かれた。

「あっ……それはその……」言葉に詰まる聡太。「世間一般に想像する宇宙人像を言っただけで僕は全く信じてませんから!」

 くいっとメガネのフレームを上げる仕草はどこかよそよそしくて、聡太が狼狽しているのがよくわかる。

 そんな聡太の動作を見て、淳平と俺はくすりと破顔した。

「でもさ、聡太の言うこともわかる気がする」突然、淳平がそう切り出した。「あんなかわいい子が宇宙人だなんて確かにびっくりするよな」

「何言ってんだよ、リア充のくせに」と聡太。

「なっ、う、うっせーよ!」

 今度は淳平が赤くなった。

 そう。こいつは絵に描いたような高校生活を送っているのだ。運動もできれば勉強もそこそこできる。そして彼女持ち。俺自身こいつに対してどれほど嫉妬の念を抱いたかわからない。

「お、賑わってるな!」

 あからさまに話を逸らした淳平。聡太は横目で淳平を睨んだ。しかし、数秒睨めつけると元のたれ目に戻った。

 まだ完全に日は落ちていないが、それでも学校はすでにお祭りムードを漂わせていた。どこからか香ばしい香りが鼻腔をくすぐる。小さな子どもたちはこの非日常的な空間に興奮しているのだろう、黄色い声を上げてはしゃいでいた。

「絵梨たちはもう来てるのかな」聡太が携帯を取り出しながら言った。「あ、メール来てる。どうやらまだ時間かかるみたいだね」

「女子ってほんと準備に時間かかるよなー」

 俺がそう言うと二人とも頷いた。

「どうする? 何か見て回るか?」と淳平が訊く。

「そうだねえ……。どうする星吾」

「んー俺はリリア見てなくちゃいけないからなあ。絵梨と綾音にあいつを任せるのは気が引けるからさ」

「とか言ってー。ほんとは二人っきりになりたいんだろー?」

 と、淳平が肩を小突いて言ってきた。

「なっ、何言ってんだよ! そんなんじゃねーよ!」

 どういうわけか、俺は咄嗟に反応した。なぜ躍起になって否定したのか、自分でもよくわからない。

「くくっ、顔赤くなってんぜ」

「ほっとけ。俺、迎えに行ってくるからまたあとで。じゃな!」

「あ、おい! 星吾!」

 いたたまれなくなった俺は逃げるようにその場から立ち去った。あいつらの姿が見えなくなったところで、俺は立ち止った。

「何やってんだよ、俺……」

 俺はあいつのことをどう思っているんだろう。ふと、そんなことが脳裏をよぎった。出会ってまだ一日しか経っていないというのに、あいつは俺の生活、いや、人生を大いに狂わせてくれた。たった一日で、だ。しかもおまけに運命共同体とはよく言ったものだ。あんなわがままお姫様と過ごしていたらいつぶっ倒れるか知れたもんじゃない。けど……。あいつも大変なんだ。それはわかっている。俺を頼りに目の前に現れたわけじゃないってこともわかっている。でも、出会ってしまったんだ。何かしてやれることはあるんじゃないか。俺はそう思っている。ただ、それだけ。それ以上の感情は、彼女に対して抱いてない。

 そう結論づけた俺は、校門目指して再び歩を進めることにした――が。その必要はなかった。

 顔を上げると、遠くの方にいてもその存在感はすさまじいものだった。

 向こうも俺に気づいたらしく、リリアの両隣にいた絵梨と綾音はともにはけていった。去り際に二人そろって親指なんか立てやがって。

 いつの間にか空は淡い紺に染められていた。屋台の明かりが辺りを明々と照らす。人混みを吹き行く風は少し温かい。

 結構な距離があるというのに、俺たちは見つめ合ったまま動かないでいた。

 驚いたことに、あのリリアが恥じらいを見せ、ややうつむき加減で佇んでいた。ブロンドの髪はうしろで一つにまとめられ、花飾りが可憐さを引き出している。桃色の浴衣は彼女によく似合っていると、そう感じた。リリアってこんなにかわいかったっけ。俺は彼女の普段の姿を思い出そうとした。

 と、リリアが突然こちらに向かって歩き始めた。何か緊張する……。俺は彼女から目が離せないでいた。

 やがて縮まる距離。そして――。

「どう……かな。星吾……くん」

 なおも恥ずかしがってこちらの様子を窺がうように上目遣いで見てくるリリア。っていうか今こいつくん付けした!? どういうつもりなんだ。まるで人が変わったみたいだ。

「あ、うん……。い、いいんじゃないか?」

 俺はどもりそうになるのをなんとかおさえて言った。

「そっか。ねえ、星吾くん……」

「は、はい」

 頬を赤らめたまま改まったふうに言うから、俺も何事かと覚悟してしまう。

「……キス……してほしいの」

「は?」

 聞き間違いだろうか。いま……キスしてって……。

「だから……その……キス……して」

「…………っ⁉」

 こいつ、本気か!? さらにこちらへと肉薄してくるリリア。その潤んだ瞳で見上げられると目が離せなくなる。

 ああ、よくない。何緊張してるんだ。胸の鼓動が無駄に聞こえてくる。

 キスするのか……? 俺が……リリアに。

 そんな場面が浮かびかけたそのとき。

「くっ……。ふふっ。あははははは!!」

 出し抜けにリリアが声を上げて笑い出した。

「ふふっ。ちょっとしたドッキリよ。もし私がおしとやかーにしたらあんたどうすんのかなって。みんなで話したのよ。調子に乗ってあんなこと言っちゃったけどまさかこんなに上手くいくとはね」

 …………。はめられたってわけか。まんまと相手の手の平の上で踊らされてたってことかよ。一気に恥ずかしさが込み上げてくる。何だよ。本気になってたのは俺の方だけだったってことかよ。

「お……お前なあ……」

 恥ずかしさと怒りがない交ぜになって声が震える。

「…………」

 続きを言おうとするけど、先のことを思い出し、さらに恥ずかしさが込み上げてくる。

「もう知らねえ!!」

 怒鳴る代わりに勢いよく踵を返して一人人混みの中を突き進んだ。

「あ、ちょっと!」

 うしろから呼ばれるけど、無視を決め込む。もう知らねえよ。


「ねえねえ! あれもう一回やろうよ!!」

 完全に闇が落ちてしばらく。俺たちは屋台を一通り回ったんだが、リリアがもう一回回ろうって言い出したから、仕方なく回っていた。……また的当てかよ。

「お前さっき全部外したじゃん」

「うっさいわね。あんなのウォーミングアップよ。今度はパーフェクト狙ってあげるからしっかり見ておきなさい!」

 そう言って指拳銃を作り、バンバンと俺に向かって撃つ素振りをするリリア。その距離からでも急所がはずれているような気がするんですけど。

「ああーだめだ! もうあんたやって!」

「ははっ。またウォーミングアップかよ」

「うっさい。とっととやんなさいよ。あんたもどうせ当てっこないんだから」

「へっ。見てろよ」

 割り箸で作ったゴム鉄砲に玉となる輪ゴムをひっかける。狙いを定めて……撃つ!

「あはは。あんたも下手ねー」

「くっそ……まだまだあっ!!」


「俺の勝ちだな」

 俺は隣を歩くリリアを、勝ち誇った顔で見ながら言ってやった。

「ふん。たったの一点差じゃない」

 がぶっと綿菓子を勢いよく頬張るリリア。俺が勝ったんだからおごってもらいたいところだが、それができないのが残念だ。

「あ、ねえねえ! リンゴ飴買ってよ」

「もう金なくなったっての」

「じゃあ取りに帰って」

「無理言うなよ」

 そう言うと、リリアは無言の圧力をかけてきた。目を合わせると負ける。俺は視線を泳がせた。

 と、ポケットに入れていた携帯が小刻みに振動し始めた。グッドタイミング。淳平からだ。

「さすが、ナイスタイミングだ」

 俺がいきなりそう言うから、電話の主は困惑した声を上げた。

「いや、何でもない。で、どうかした?」

『ああ、肝試しすることになったからお前たちも来いよ』

「肝試し……」

 俺が呟いた直後。リリアの目がキラキラと輝きを増した。

「やる! やるー!!」

 淳平にも聞こえるようにして叫ぶリリア。耳が痛いっての。子どもみたいにはしゃぐから、俺は保護者のように落ち着かせる。まあ、リンゴ飴から意識が逸れたことは救いだな。

「わかった、行くよ。今どこ?」


「おー来た来た。おーい!」

 暗がりではっきりとは見えないが、駐車場に淳平たちが集まっているのがわかった。俺を見るなり絵梨と綾音は、いたずらな笑みを浮かべる。そしてリリアは親指をピンと立てて合図する。こいつらのおかげで酷い目に会った。俺が二人に向かって鋭い目をすると、二人そろって苦笑いをした。女子って怖い。つくづくそう思う。

「まあまあ、そう睨まない。あたしたちのおかげで大分仲良くなれたんじゃない?」と綾音

「「全然!」」

 何でこういうときにハモるんだよ。そしてお互い同時に顔を見合わせ、ふいっと逸らす。完全にシンクロしてやがる……。

「やっぱ二人は仲良しだねぇー」

 絵梨が嬉しそうに言う。

 聡太はいまだリリアが宇宙人だとは信じられず、ちらちらと様子を窺がっている。……なんかキョドってんぞ。

「さて、いきなりだけど肝試しをしようと思う!」

 座り込んでいた淳平が急に立ち上がって言い出した。

「肝試しなんて……。言っとくけど、僕は幽霊の類なんか信じちゃいないからね」

 体をふんぞり返して聡太が言った。

「あ、もしかして怖いのかなあー」

 綾音がそんな聡太を茶化す。

「そ、そんなわけないだろ! 行くならさっさと行きましょうよです」

 みんな笑うだけで口には出さなかったが、聡太は本当にわかりやすいやつだ。

「それで、どこに行くの?」とリリア。

「学校の中だよ、もちろん」

 その言葉を聞いた途端、リリアの表情がパアっと華やいだ。

「つったってどこから入るんだよ。学校の中は肝試し禁止だから警備員がいるだろ?」

 俺がそう訊ねると、

「ふっふっふ。ちゃんと入り口は確保しておいたぜ」淳平は指をパチンと鳴らした。「こっちだ」

 案内されたのは中庭。そして淳平がとある教室の窓に手をかけると――

 音もなく開いた。

「準備してるときにこっそり開けておいたんだ」得意げに言う淳平。そこまでしなくてもよくないか、と俺は呆れ気味に苦笑する。「よし、まずは俺が入って安全を確認する」

 人がいないのを確認して、淳平が教室に侵入する。そして中の安全を確認し終えると入ってくるようにと合図があった。絵梨、綾音、聡太があとに続く。そして、リリアが侵入しようと窓枠に足を置いたとき。急にこちらを振り返り、ひと睨み。

「覗くんじゃないわよ」

「見ねーよ」

「ふん」

 リリアが侵入したのち、俺も素早く教室に入り込む。教室に足をつけたその瞬間のことだった。背後に視線を感じ俺は咄嗟にしゃがんだ。皆にもそうするように伝える。

「どうしたんだ、星吾?」

「いま、誰かに見られたかも」

「何やってんのよ。ドジねえ」リリアがそっと窓の外を覗く。「誰もいないじゃない」

「星吾の見間違いでしょ。あ、僕たちを脅かそうってんじゃないだろうね?」

「んなことしねーよ。それにしても……おっかしいな。確かに誰かいたような気がしたんだけど……」

「まあいいや。まだ肝試しは始まっちゃいねーぜ。これからが本当の肝試しだ!」

 何か嫌な感じを覚えつつも、肝試しがスタートした。


「一階は舞台で演奏したりする人の控え室になってるから探索は二階からだな」

 少しだけ開いた教室の扉。その隙間からそとを確認しながら淳平が言った。

「よし、今だ!」

 淳平の声に従って俺たちは一気に二階へと駆け上がる。

 無事、気づかれずに二階に上がることができた俺たちはそこで少し安堵する。

 淳平が懐中電灯を四本取り出し、うち一本を俺とリリアに、そして絵梨、綾音に一本、それから聡太に渡した。

「俺が先頭を行く。星吾とリリアちゃんは二人並んで俺のうしろについて来てくれ」

「わかったわ」

「そのうしろに絵梨と綾音。聡太は一番うしろで安全確認頼むな」

「ひ、一人で!?」

「お前幽霊信じないんだろ? 別にいいじゃん。何、もしかして、怖いの?」

「なっななななな何言ってんだよ。怖いわけあるかですよ!? ぼ、僕が言いたいのは安全確認するなら三人でやった方が効率がいいってことなんですよ!!」

 聡太は手に持った懐中電灯を粉砕する勢いで握りしめながら言った。

「あーわかったわかった。じゃあ三人でいいから、よろしくな。ったく、怖いなら怖いって言えばいいのに」

 淳平の最後の言葉は聡太には聞こえていなかったらしく、「ウ、ウン。まかせて……」

と鼻息を荒くしていた。

「夜の学校って予想以上に雰囲気あるわね……」

 五人の足音が廊下に響く中、綾音が少し震え気味な声で言った。

「そうだなあ。もしかしたらほんとに出るかもな、お化け」

 先頭を行く淳平が前を見たまま答える。

 肝試しというだけあって、俺たちの歩行速度はゆっくりとしている。俺たちは過ぎ行く教室を懐中電灯で照らしながら進んで行く。時折吹き込んでくる風が、教室の窓をカタカタと揺らす。たったそれだけのことなのに、誰かの囁きのように聞こえる。壁に設置された消火栓の赤いランプも、夜に見るとこれほどまでに怪しいとは思わなかった。

 夜の学校は、いつも過ごしている学校とは全く違う異質な空間のように思えてきた。

「あんたたちの学校ってこんなに恐ろしいところだったなんて。私なら不登校になってるところだわ」

 リリアが身を縮ませながら言った。リリアにも恐怖という感情があるんだな。新発見だ。

「夜だからねえ。私もこんなに怖いとは思わなかった」と絵梨。

「まだまだ肝試しは始まったばっかだぞ。大丈夫か」

 淳平はいたって平気な様子だ。振り返って言ってきた。

「何のこと! 私ならまだまだいけるわよ」

 リリアは恐怖に打ち勝とうと自分に喝を入れた。

「さすが、リリアちゃんだ」

 ニヘヘ、と笑みを漏らすリリア。本当に大丈夫か?

「ねえ、リリアちゃんの学校ってどんなところ? あっ、でもお姫様だから学校には行かなくていいのかな」と綾音が訊ねた。

「そんなことないよ。私も学校行ってる。そうねぇ、とにかく無駄に広いって感じかな。ところで――」リリアは絵梨と綾音の間を見て言った。「彼は大丈夫なの?」

絵梨と綾音の間、血の気の失せた聡太がそこにいた。

 ……もう、手遅れだ。


「ここは……音楽室だね」

「学校の怪談と言えば音楽室だもんね」

「うん」

 俺たちは窓の外から教室の中を覗いていた。懐中電灯に照らされた過去の偉人たちは、いつにも増して威厳を放っているように思える。まるで、今にも飛び出して曲を演奏しそうな……。おっと、柄にもないことを考えてしまった。変な思考を振り落すべく頭をぶるぶると振る。俺自身、幽霊だのUFOだの、オカルトと称されるものへの興味は淡泊だったはず。それなのに。隣で好奇の目を輝かせているお姫様の所為で、俺の考えは大きく変わってしまった。そういうのも、もしかしたらいるんじゃないか……と。現にこいつは宇宙からの来訪者だ。幽霊だって存在してもおかしくはないだろう。そんなことを考えていると……。

「ねえ、今なんか聞こえなかった?」突然綾音がそんなことを言い出した。

「えっ、ちょっと怖いこと言い出さないでよ」

 絵梨がか細い声で反応した。

「いや、俺も聞こえた……」淳平がやや驚いた表情をした。

 聡太を除いて、俺たちはお互い顔を見合わせた。そしてもう一度視線を教室の中へ――。

 教室の中央、ピアノが置かれたその横に青白い光が炎のようにゆらゆらと揺らめきながら中空を漂っていた。一つだけだった不気味な光は、呼ばれるようにしてすうーっと現れ、最終的には四つに増えた。

「な……何だよ……あれ……」

 俺は震えそうになる声を何とかごまかそうとした。まさか本当に視てしまうとは……。驚きを隠せない。

「ひ、火の玉かな……」と淳平。

「わあっ!」

 突然聡太が声を張り上げた。俺たちはその声に驚き、一斉に聡太を見た。教室の中のものを視て完全に気を失ってしまったようだ。

「ひっ!」綾音が短い悲鳴を上げた。「あれ、やばくない?」

 俺たちは綾音の視線を辿って教室の中を見た。揺らめいていた火の玉が徐々に大きくなっている。それらはやがて人の形へと姿を変え――。

「こ、ここから逃げよう! きっと聡太の声に気づいたんだ」

 俺は危機感を覚え、全身が寒気だったのがはっきりとわかった。淳平と俺は聡太を担いで走り出す。とにかく音楽室から離れなければ。

 うしろを振り返ると、リリアが音楽室を見つめながら走っていた。

「おい、リリア! あんま見んなって。急がねーとヤバいぞ!」

「あ、うん」

 それからしばらく走り続け、俺たちは乱れた呼吸を整えるべく座り込んだ。

 ここは特別棟の二階廊下。音楽室からは結構な距離がある。

「ま、まさか……。本当に出るなんて……」

 綾音は胸に手をあて、落ち着きを取り戻そうとしていた。

「ねえもう帰ろうよ……」

 絵梨の声は震えきっていた。

「そうだな。こいつもこんなだし。そとに出よう」

 俺がそう言うと淳平はすんなりと頷いた。

「大丈夫か、リリア」

「え、ええ」リリアは怖がっているようには見えなかった。それどころかむしろ――

「それよりも何か引っかかることがあるわ」

「何?」

「あの青い光、転移魔法に近いわ」

 リリアのその言葉は、先ほどとは異なる嫌な予感をもたらした。

「それって……」

 俺の言わんとすることを察し、リリアは短く答える。

「ええ、おそらくは」

「また傀儡をよこしてきやがったのか……」

「いや、多分今回は傀儡じゃないわね。いよいよ黒幕のお出ましかもしれないわ」

「ってことは傀儡よりも強いってことだよな……?」

「……ええ」

 まずいな。ここで戦闘をするのは気が引ける。学校を壊すわけにはいかないし、そもそも絵梨たちを巻き添えにするわけにはいかない。まず俺たちが優先すべきことは、友人の安全だった。

「だったらこいつらを安全なところに避難させないと――」

 俺がそう言いながら周りを見回してようやく気がついた。

「絵梨たちは!?」

 しまった。絵梨、綾音、淳平、聡太の四人が忽然と姿を消していた。光がないこともあるが、話に夢中で周りが見えていなかった。

 リリアも焦りを見せ、辺りをきょろきょろと見回す。

「あっ! あれ!」

 リリアが何かを見つけたようだ。リリアの指差す方向を見やる。連絡通路へと消えていく黒い影。奴らだ。俺は敵を視界に捉えるなり、駆け出した。連絡通路に出ると、黒い影が空中を上の階へと上っていくのが見えた。

「くそっ!!」

 追いかけ、手すりから上体を乗り出し、上を見る。敵は右方向へと消えていった。

「あっちなら……」

 引き返し、リリアを抱く。リリアを走らせるよりもこの方が逆に速い。

「ちょ、ちょっと!!」

「上の階だ! 大人しくしてろ!!」

 魔法の力を借りて大きく跳躍する。十数段ある階段を踊り場までひとっ飛び。そしてもう一度跳ぶ。

 どうやらかろうじて間に合ったようだ。敵がとある教室に入っていくのを捉えることができた。俺はリリアを下ろす。

「ふう。どうやって助け出す」

 俺は自分に言い聞かせるように、リリアに助けを求めるように言った。

「そうね……。とりあえずは中の様子を確認しないことには手だてが見つかりそうもないわね」

「そうだよな……。よし、じゃあ行くぞ」

 俺たちは足音を立てないよう教室に忍び寄った。扉付近に近づくと、そこで一度呼吸を整える。

「俺が中の様子を確認するから、じっとしとけよ」

 リリアは無言で首肯した。

 教室の窓に近づく。そっと、音を立てないように覗くと――

 いた。教室の後方、絵梨たちの前に一人、うしろに三人が負のオーラを放っていた。

 さてどうする……。絵梨たちが人質に取られている以上、迂闊に動くことはできない。そうなれば相手の一方的な攻撃を受けるだけだ。一体どうすれば……。

 そのとき、突然声がした。

「そこにいるのはわかっているぞ。もう出てきたらどうだ?」

 …………⁉ バレてる⁉ どうして。まさか魔法の力か。

「くっ……」

 俺が歯噛みすると、今度は荒々しい声が飛んできた。

「さっさと入って来いよ、大河星吾ォ!!」

 次の瞬間。教室の扉が吹き飛んだ。そのまま廊下の窓を突き破り、そとへ落下。下の方から小さな衝撃音が届いた。

 今は周りのことは気にしていられない。他の誰かに見つかってしまえばそれまでだ。そう割り切るしかない。今は目の前の敵に集中しなくては……。

 リリアが不安げな目で見つめてくる。俺は心配させまいと強く頷く。本当は俺だってお前にすがりたいけど、そんな顔されたらできないだろう。一応俺だって男なんだから、お姫様の一人くらい守れないと示しがつかない。一つ深呼吸し、覚悟を決める。

 教室に入ると、黒マントの男たちがクククと冷たい笑みを漏らす。

「星吾……」

 弱々しい声で名前を呼ぶ淳平。絵梨と綾音はむせび泣いていた。

「まさか異星の民が魔法を使うとはな。俺たちも驚かされたよ」先頭に立っている男が低い声で言った。「大河星吾。お前は俺たちにとっての脅威となった。ならばそれを取り除かなければならない。ってのはわかるよなァ……」

 俺は答えずに相手の言葉を待った。

「俺たちにも常識はある。取引をしようじゃないか。こいつらを解放する代わりに、姫とスタールを返してもらおう」

 うしろにいたリリアが左腕をきゅっと掴む。

「どうだ? 悪い話ではないだろう。さあ、お前の答えを聞かせてもらおうか」

 場に沈黙が流れる。聞こえるのは絵梨と綾音の泣く声だけ。

 絵梨たちとリリア、全員を助ける方法は何かないのか……。その場に立ち尽くし、頭を回転させる。

「おい、何か言ったらどうだ?」

 先頭の男が苛立たしさを露わにして言った。解決策を見つけ出す時間すら与えられていないようだ。とりあえず俺は言葉を発する。

「スタールだけじゃ……だめか……?」

「だめだな。姫も渡してもらおう」

 俺の言葉を遮る形で言いきってきた。険しい顔をしたって状況が好転するわけでもない。俺は……どうすることもできないのか……。

 と、視界の左下に、何かを捉えた。見ると、ためらいがちに差し出された手の中にあったのはスタールだった。神秘的なさまで、光り輝いている。俺はリリアの顔を見る。

「あんたの友だちがこんな状況じゃ……こうするしかないでしょ……。あの子たちを巻き込むわけにはいかないわ」

「なっ……何言ってんだよ! 何か方法はあるはずだ!」

 しかし、リリアは静かに首を振るだけだった。俺だって今のリリアと同じ考えだ。打つ手なし。それでも、最善の方法を見つけようと模索していたのに……。

「もう、ここまでのようね……」

「リリア……」

 リリアは本当に自ら進んで捕まりにいくつもりなのか。今日初めて出会った、こいつらのために。

 リリアの目に迷いを見つけることはできなかった。こいつは本気だ。しっかりと相手を見据え、腹をくくっている。

 くそ……。本当にこれでいいのか。そう考えたとき、自分の醜さに嫌気がさした。

 俺は、少しほっとしている。絵梨たちが助かるのなら、それでいいじゃないか。スタールなんて渡してしまえばいい。リリアだって、この星を離れて好きにすればいい。そんな邪念が俺の中に渦巻いていたなんてほとほと呆れる。

 俺は、本当にそうなってほしいと思っているのか。リリアがこの星を離れてしまったら、待つのは幸せな暮らしではないことは容易に想像できる。こいつには、いつだって笑っていてほしい。涙に濡れた顔なんてしてほしくない。

 こいつは、偶然でも俺を見つけて頼ってきたんだ。それはもう、そういう運命だったのかもしれない。リリアが幸せになるための。不幸に導くのではなく。幸せになるための。だったらリリアの選択が間違っていなかったと証明できるのは、選ばれた俺しかいないだろう。

 リリアが敵に向かって歩き出そうとする。だが、俺は左腕を伸ばしてその先を閉ざす。

 リリアが「えっ?」と短く声を漏らし、敵が驚いた素振りを見せる。

「何の真似だ」

 しかし、その動揺もすぐに消え失せ、冷たい声が届いてくる。

「俺はこいつと契約を結んだんだ。俺たちは運命共同体。リリアの代わりに俺がお前らの世界に行く」

 そう言ってリリアの手からスタールを奪った。

 リリアは目を大きく見開いていたが、そこには驚愕というよりも何かを訴えようとしている、そんな気色があった。どうせろくでもないことを言い出すに違いない。だから俺はこいつが話し出す前に言ってやった。

「大丈夫だって。すぐに帰ってくっから」

「…………」

 安心させようと言ったつもりだったけど、あまり効果がないみたいだ。困ったな……。

 と、突然リリアの視線が俺の背後へと移った。そしてはっと息を呑む。俺も慌てて振り返る。すると――。

「運命共同体ねえ……。そうか……。ならちょうどいい。……お前らまとめて始末してやるよォ!」

 黒マントの男が俺たち目がけて飛び込んできた。懐からギラリと冷ややかな光を放ったのは短剣だった。俺は少したじろいでしまったが、反射的に手を前に突き出す。

 すると、透明な板が発生し、敵を隔てる。だが、男はそんなことお構いなしとでも言いたげにそのまま剣を突き立てる。キィンと鋭い音がして敵の手から短剣が弾かれ、宙を舞った。男は無駄な動作なく後退する。

「ほう……。やはりなかなかやるようだな」

「くっ……」

 反撃したいところだが、人質を取られている以上手出しできない。

「ではこれはどうだ?」

 男がうしろの仲間三人にやれ、と合図する。すると男たちは一斉にこちらに手を向け、そこから光の弾を発射してくる。俺はもう一度バリアを張り、攻撃を防ぐ。ドドド、と激しい音と閃光、そして衝撃が手から全身へと伝わってくる。

 このままじゃ圧される……。

 光弾がバリアにあたって弾けるたびに教室を強く照らす。そのときに見える絵梨たちの怯えきった表情を見ると、一刻も早く助けなければと危機感が増す。

 俺は両手に力を込める。しかし、やはり相手が有利だった。俺は着実に圧されていた。

 と、不意に肩に手が置かれるのを感じた。振り返らなくてもわかる。リリアだ。

 普段の態度は大きいけど、手は小さいんだな。何だか意外だ。でも、それに劣らない安心感が確かにあった。これなら防ぎきれるかもしれない。

 それは俺の思い過ごしなどではなかった。依然として戦局は劣勢のままだが、敵の攻撃に圧されることはなくなっていた。しかし――。

 敵もそれにすぐ気づいた。マントで顔は見えないが、ことが上手く進んでいないらしく、苛立っているのが声でわかった。

「おい! 火力を上げろ!」

 直後、光弾の威力が変わった。一発一発が重い。均衡を保っていたが、再度圧され始める。

「くっそ……」

 歯を食いしばり、攻撃を耐えようとする。リリアの手にも力が入ったのがわかった。リリアの力があれば何とかなるかもしれない。そう思ったが……。

 ピシっとバリアに皹が入った。すると次々に亀裂が走り始める。ここまでなのか……。もう、終わってしまうのか……。

 敵の顔を確認する。すると、刹那だけ相手の口許を見ることができた。奴は、勝利の笑みを浮かべていた。負けるはずがない。数秒後には目的の品を持ち帰り、あとは野望を成し遂げるだけ。約束された未来のある者の顔が、こんなに醜いものだとは思ってもみなかった。

 こんな奴に……俺は負けるっていうのか……。こんなんじゃ……死んでも死にきれねえ……。

 とは言うものの、もう勝負は決まっていた。

「終わりだ……」

 抑揚のない声で呟くように言い、俺にそれを否応なく悟らせる。

 パリンと硬質なものが壊れる音が響いた。俺はその反動で体勢を崩し、リリア諸共地面に倒れ込んだ。そこに、無慈悲にも数多の光弾が降り注ぎ――。

 俺はリリアをかばってそのときが来るのを覚悟した。が――。

 またしても何かが割れる音がした。そして強い衝撃の代わりに、微妙な温かさを感じた。

「何ィ……。だ、誰だ貴様はァ!!」

 敵の声に目を開けると、そこにはリリアの他に絵梨たちもいた。一体どういうことだ。状況が把握できない。

 と、俺は誰かに腕を掴まれ、強く引っ張られた。すると、妙な温かさが消えたことに気づいた。振り返ると、ドーム状に薄緑色のバリアが張られているのがわかった。なるほど、俺はあの中にいたわけか。と納得したのも束の間、それでは一体誰がバリアを作ったのかという疑問が浮かんでくる。

 リリアはすでに魔法が使えない。俺だって魔法を破られたから、あんなもの作れるはずがない。となると……。

 俺を引っ張った主、そいつを見る。

 前方の敵と同じく、そいつは黒いマントを深々とかぶっていた。まさか敵のうち一人が寝返ったのか。そう思い、数を確認してみるが、やはり敵数は四人のままだった。

 部屋を見渡すと窓が割れていた。それに、敵の捕虜となっていた絵梨たちは、俺が視界を閉ざした間に瞬間移動し、いまは俺の背後にリリアといる。そこで俺はある程度理解した。

 謎の黒マントは、新たな闖入者だ。状況から察するに、立場的には俺たちの味方だろう。それでもなぜ急に俺たちを助けに来てくれたのか、俺はとんと見当がつかなかった。

 と、黒マントの味方は俺に近づき、耳元で囁いた。

「力を貸してくれ」

 男っぽさのある女性の声だった。

 俺は顔を見ようとしたが、すぐに離れたため確認できなかった。

 力を貸せって言われてもどうすればいいんだよ。

 と、俺の心中を察するかのように黒マントの女は付け加えた。

「少し時間を稼ぐだけでいい。あとは私が始末する」

 時間稼ぎ……。それくらいなら何かできそうだ。

 俺は、わかったとだけ伝えると一度目を閉じた。そして開く。

「一体誰だか知らねーが、俺たちの邪魔をするってんならお前にも消えてもらうぞ!!」

 再びリーダー格の男が飛び出した。俺も女の前に飛び出し応戦する。

 男は地を蹴り、小さく跳躍した。先ほどは防戦一方だったが、ここからは違う。俺は素早く目を落とし、あることを確認した。それが終わると俺は敵との距離を詰めた。

 男が拳を振り上げる。俺は低姿勢のまま男の動作を眼で追う。いまだ! 俺は男の攻撃をギリギリのところでかわし、地面に落ちていたガラスの破片を手に取った。そして、そのまま男の懐にそれを突き刺す。

 俺にできることはこれくらいしかない。魔法を使ったところで大した効果が見込めないことはわかっている。だったら、魔法を使わずして相手の注意を俺に向ければいいだけの話。この割れた窓ガラスはいい具合に先が尖っていて役に立ってくれた。

 感覚的にあまり深くは刺さっていないようだったが、男は「ぐおっ」と声を上げ、少しよろめいた。

 だが、それは単純に俺の攻撃が予想外だったことに対する驚きにすぎなかった。マントの闇で見えないが、それでも怒りをみなぎらせていると確信できる動きで俺を見た。その刹那、俺は危ないものを感じたが、敵の方が速かった。

「この……クソガキがあああああっ!!」

 右腕を真横に払ってきた。俺は反射的に防御姿勢を取ったが、無駄だった。その威力からして腕を魔法で強化したことは容易に理解できた。俺はいとも簡単に吹っ飛ばされ、壁に激突した。

「ぐあっ!!」

 ゴッと鈍い音がしたかと思うと、急に視界がぐにゃりと湾曲した。どうやら頭を強く打ったみたいだ。上手く頭が回転しない……。どうやって反撃すればいいのか……何も思いつかない……。腕も思うように動かない……。何てやつだ……。

 俺はうっすらと目を開け、どうにか焦点を合わせようとする。視界にはリリアが必死で何かを叫んでいたが、意識が遠退き始めていて聞き取れない。でも……。

 あいつを守らなくちゃ……。

 俺は脳に強く訴えかける。もう少し頑張ってくれと。壁に背中を預けたまま両腕を敵に向ける。

 何でもいい。何か攻撃できる技を……。

 そう念じると、広げた手の辺りに小さな火球が出現した。テニスボール大の大きさだが、とにかく時間を稼がないと。俺は敵四人に向けて火球二つを放った。しかし――。

 火球はふわふわと敵に向かっていくだけだった。敵はそれに気づいたが、別段気にするふうもなく、手でさっと払うにとどまった。

 もう……だめなのか。終わってしまうのか。

 俺がそう悟ると、敵たちも同じ考えだったようだ。

「何だよお前……。まだかまってほしいってのかよ。そうか。だったらまずは……お前から始末してやるよォ!!」

 敵が一斉に飛び出してくる。と同時に俺は目を瞑った。

 …………何かがおかしい。敵は確かに俺を攻撃しようとしていた。だが、何も変化はなかった。相変わらず意識は途切れそうだし、腕も動かない。俺は閉じていた目をうっすらと開けた。

「こ……これは……」

 消え入りそうな声で俺は言った。

 目の前の敵は、俺に攻撃をしようと足を踏み出していたが、そこで停止していた。いや、動けないでいたと言った方が正しいか。どうにか体を動かそうとふるふると震えているのがわかった。

 ようやく俺の時間稼ぎは終わったようだ。俺は敵から目をはずし、女を見る。女は片膝をついて十指を地面に触れさせていた。そこから光の線が一直線に伸び、敵を囲うように途中で円形になっていた。RPGによくある、魔法陣と呼ばれる魔法だろう。

 ふう、とため息を吐き女は立ち上がった。

「何とか間に合った……」

「き……貴様ァ。さっきから何も手を出してこないと思っていたらこのためかァ!!」

 男が顔だけを女に向けて叫んだ。

「この状況におかれてもまだ吠えるか」女は冷たく言い放った。「形勢は逆転した。お前が誰なのかほとんど見当はついている」

「何を言うか。そうやってかまをかけようとしていることは目に見えている」

「さあ、それはどうかな」

 女はそう言うと、ゆっくりと男に近づいていった。手を伸ばし、男のマントを取り払おうとする。

「…………っ!?」

 その手がマントに触れようとしたとき。うしろの敵が、縛られている体をどうにか動かし、魔法陣から抜け出した。どうやら後方の敵は魔法陣の範囲すれすれの位置にいたようだ。

「ちっ、浅かったか」

 女がそれに気づくと同時に、自由の身となったうしろの敵が女に攻撃をしかけた。女はそれを軽くいなすと、飛び退く。

 女は懐から何かを取り出し、それを床に叩きつけた。すると、一瞬にして辺りが白い煙に包まれた。俺は目を凝らして女と敵の姿を捉えようとする。しかし、煙が濃いために何がどうなっているのか全くわからない。

 突然、左の方、つまり敵のいる辺りから閃光が起きた。二度、三度瞬き、弾けるような音。そして――。

 一際大きな音がしたかと思うと、空間を飲み込んでいた白い煙が薄らいでいった――視界が晴れると、そこに敵の姿はなかった。代わりに、大きく口を開いた壁からびゅうびゅうと風が吹き込んできて、カーテンを大きく揺らしていた。

 逃げた。それは明白だった。

 俺は気づかないうちに大きく息を吐き出していた。顔を右へと動かし、視界にリリアを捉える。あいつがあんな顔するなんてな……。やっぱり信じられない。

 リリアが無事でいることを確認すると、俺は目を閉じた。すると、俺の意識はすぐに闇の中を彷徨い始めたのだった。


 意識を取り戻したのは、遠くの方で消防車がサイレンを鳴らしているのが聞こえたときだった。

 俺は誰かに背負われていた。自分の足が地についていないこと、にもかかわらず辺りの景色がゆっくりと過ぎていくことからそれを理解した。では誰が、という謎は頭を見ればわかった。

 うしろからでもわかるほど目深にかぶったフードは、敵じゃなければあの女しかいない。

「あの……」

 見ず知らずの人に迷惑をかけるわけにはいかない。ましてや女に背負われては男としてのメンツが潰れてしまう。俺は自分で歩こうと背後から声をかけた。

「大丈夫です。そのまま安静にしていてください」

 …………? どういうことだ?

 あのときはこんなにかしこまっていなかったはずなのに。

 俺の心中を察するかのように、女は口を開いた。

「姫様から聞きました。赤の他人だったあなたは姫様を助けて下さったそうですね。本当にありがとうございます」

「いや、そんな……」

 俺はリリアを見ようとしたが、姿を捉えることができなかった。怪訝に思い、前方を見やると、少し先をリリアが歩いていた。

「姫様の性格はもうご存じで?」

「まあ……」

「そうですか。姫様は国王様にたいそう甘やかされて育ちました。ですから少々わがままなところがありますが、根は本当にお優しい方なんです。どうかわかってあげてください」

 俺は先の戦闘を思い出した。リリアと出会って二日。それだけなのに、確かにあいつの人柄というものをたくさん知れた気がする。それが特に何を意味するというわけではないが、今の女の言葉を聞いてもっとあいつを知りたいと思う自分がいることに気づいた。

「姫様は先の一件であなとご友人に迷惑をかけたと思っているようです。でもあの人は素直じゃありませんからね……。なかなか謝れなくてああやって距離を置いているんですよ」

 俺は再びリリアを見やった。確かにいつもと違って少し落ち込んでいるような。俺はリリアの後ろ姿に、儚さを見ていた。

 そこで俺はふと女の言葉を思い出した。

「そうだ! 淳平は!? 絵梨は、みんなはどうなったんだ!?」

「安心してください。あのあとみなさんの記憶は消去させていただきました。ですから、先ほど起きたことは何も覚えていらっしゃいません」

「そっか……」

「みなさん、外傷は見られませんでした。一応、簡単な手当はしたので大丈夫かと思います」

「よかった」俺は知らずのうちに安堵のため息をついていた。

 程なくして家に到着すると、リリアは「お風呂に入る」とだけ言うと、そそくさと俺の前から姿を消した。本当なら呼び止めるところだが、女の話を聞いたあとではそれも躊躇われた。

 俺は女を自室へ通すと、適当に座るよう告げた。女は礼を述べると、テーブルの前に腰を下ろした。俺もテーブルを挟んで女と向き合う形で座った。

「まだあなたに顔を見せていませんでしたね」

 俯いたまま女はそう切り出すと、顔を上げ、マントを脱いだ。そこにはきりりとした目が特徴の美女がいた。だが……。

「実はこれは仮の姿。いざというときに本性をバラしてしまってはいけませんからね」女はそういうと辺りを見回した。安全を確認したようで、女は長さ二十センチほどの木の棒を取り出した。杖か何かだろうか。先を顎にあて、そのまま額まで上にもってくると、顔が突如として煙のようにその場に溶けていった。

 俺が驚いて目を見開いている間にも、女は杖先を横に払うと、整った顔が完全に消えていき、新たに現れたのは――

「私の名はアルフレッド。アルフとお呼びください」

 整った顔に変わりはないのだが、そこに女性らしい繊細さはなくなっていた。そう、眼前の人物は女性かと思いきや男だったのだ。

「男……」

「はい。敵に対して、特に同じ王国に仕えていた者となると、性別を変えることで怪しまれずに済むと考えたのです」

「一体あいつらは何なんだ? どうしてリリアを狙う?」

 俺がそう問うと、アルフはしばし黙り込んだ。

「……姫様からは何か聞きませんでしたか?」

 アルフは俺の問いには答えず、そう返してきた。

 昨晩、敵に襲われる前のことを思い出す。リリアは敵の罠にかかったと言っていた。それから、魔法が使えないとも。俺はリリアから聞いたことを話した。

「その通り。姫様は今、向こうでは犯罪者として指名手配されています。ですが、王は自分の娘がそんなことするはずがないと、強気の姿勢でいらっしゃいます。私だって姫様を信じています。しかし――」

 アルフは俯くと、悲痛な面持ちで言った。

「そんな王でいらっしゃいますが、考えが揺らぎ始めているのです」

「それってつまり……」

「はい。今は警備部隊が指揮を執って動いていますが、じきに王から勅令が下されるやもしれません……。そうなってしまっては……姫様は……もう……」

 事態は思ったよりも深刻そうだ。あいつが捕まるとどうなってしまうのか。アルフに聞こうと口を開きかけたが、声が出なかった。

 聞きたいけど聞けない。一度聞いてしまえば、それがはっきりとした映像になって浮かんでしまうから。あいつには笑っていてほしい。その笑顔に陰りがさすのを見たくない。俺は最悪の事態を考えないように一度深呼吸し、言った。

「何か……方法はないのか?」

「あるとすれば……」

 アルフは顎に手をあて、考える素振りを見せた。そして、俺を数秒凝視して――

「姫様を全力で守っていただけませんか」満面の笑みでそう言ってきた。「正直、貴方様に敵の証拠を掴むことは難しいでしょう。それは私の役目です。お任せ下さい。貴方様には、私が集中できるように姫様の護衛をお願いします。できますか?」

 それは今更再確認するようなことではないだろう。だって――

「俺はそう契約させられたんだからな。やるしかないだろう」

 そう言うと、アルフは再びこぼれんばかりの笑みを作った。

「さすが姫様だ。いい人をお選びになった」

 言い終わると、アルフは何かに気づいたように声を発した。

「すみません。そろそろ時間のようです」

「時間?」

「ええ。私がここにいると向こうで怪しまれますからね。分身を置いてきたんですが、効力が切れかかってて。もう戻らないと」

「そっか」

「では、姫様のこと、頼みましたよ。また伺います」アルフは立ち上がりながら言うと、フードを深々と被った。「ああ、そうだ。帰る前に位置錯乱魔法をかけておきますね。この家が敵に気づかれないように」

 俺はそとまで見送ると、アルフは折り目正しく別れの言葉を述べた。そして、そこにブラックホールが存在していたかのように、アルフの体は吸い込まれるようにして消え去った。

 俺はため息をつきながらベッドに体を預けた。手を額にあて、天井を見つめる。

 あいつを守るためには……俺がちゃんとしなくちゃな。

 そんなことをぼんやりと考えていると、俺の脳はすぐに睡眠の準備を始める。次第に意識が薄らいでいき――。

 額に乗せたままの手に誰かが触れた。そこで俺は目覚めた。窓のそとからはまだ月明かりが射し込んでいる。虫の演奏会もすでに終わっているらしく、聞こえるのは壁にかかった時計の針の音だけ。虚ろな目を辺りに彷徨わせると、目が合った。

 リリアは俺の右手をその小さな手で握ったまま俺を見下ろしていた。長くてきれいな髪が、月の光を受けてなんとも艶やかだ。

「どうしたんだよ……」

 まだ覚醒しきらない脳を起こすべく、俺はとりあえず声を発した。

「怪我……してる」

 リリアのつぶやきに、俺は自分の手を見る。そこでようやく気づいた。手が切れている。それもそうだ。時間稼ぎをするために、俺は鋭利なガラス片をきつく握っていたのだから。血はすでに固まっているが、若干痛む。

「医療道具とかないの?」

「いいよ、自分でやるから」

 俺は起き上がりながらそう言った。

「だめ。どこ? 教えて」

 俺の勘違いかもしれないが、リリアの目には憂いの色が見て取れた。いつもの強気な態度と打って変わって、そんな表情をされれば何だかやりづらい……。だからといって断れる雰囲気でもないので俺は彼女の厚意に甘えることにした。

 リリアは慣れた手つきで包帯を巻いてくれた。

「上手いな」

 俺がそう言うと、リリアは「いつも街の子どもたちの面倒見てるから」と返してきた。

「そんなことしてるのか。案外面倒見がいいんだな」

「できた」

 礼を告げると、静寂が落ちた。ベッドに腰かける俺、俺の前に正座するリリア。

「…………」

「…………」

 どちらとも次の言葉を待っているようだ。いたたまれなくなった俺は勢いよく立ち上がり言った。

「お前、俺が部屋出るの待ってたんだろ。悪りい、今出るから――」

 俺はリリアの横を通り過ぎて部屋を出ようとした。だが、それはうしろからシャツを引っ張る手によって阻まれた。

 もちろんその手の主はリリアだ。俺は訝しく思い、彼女の名を呼ぶ。

「……お願い。行かないで……」

 リリアの声は細く、頼りなかった。あの襲撃はリリアにとってかなりきつかったらしい。

 そして、俺はアルフの言葉を思い出した。

 ――姫様は先の一件であなとご友人に迷惑をかけたと思っているようです。でもあの人は素直じゃありませんからね……。

 俺はゆっくりと振り返り、リリアの姿を捉える。俯き、口をきゅっと結んだその仕草は、言葉はなくても謝っているんだなと感じさせた。

「……わかった。お前が寝るまでいるからさ。もう気にすんなって」

 俺はリリアの肩に手を置いて言った。リリアは、心なしか潤んだ瞳で俺を見つめてきた。光のない空間に輝く双眸は、触れてしまうと壊れてしまいそうなほど儚く映った。

 うん、と消え入りそうな声でリリアは頷くと、俺の手を取ってベッドの方に誘った。

 そこで俺の脳にあらぬ予感が浮かんだ。

 そこはリリアが昨日から使い始めていた場所。元は俺のだけど、今はリリアに占領されている。そこに誘導するということはつまり……。

「ちょっ、ちょい待ち。お、俺はそこのソファで寝るからさ。このベッド、一人用だから二人じゃ狭いだろ」

 そうやって抵抗する俺を、何を言っているのと言わんばかりの表情で見つめてくる。

「いいから」

 俺の言葉を理解できていないのだろうか、はたまた理解する気がないのだろうか、リリアは布団をどけて寝るように示した。

 …………こいつ、一体何考えてんだよ。まさかこれからすることで己の罪の意識をなくそうっていう気か?

 再び俺はリリアを見た。と同時にリリアも俺を見上げてきた。その眼差し、静寂に包まれた空間。一つ一つの要素が俺をそうさせるように仕組まれたものだと錯覚させるほどに、俺の体は動いた。

 ベッドの左側にゆっくりと体を横たえる。リリアを見ないように、俺は壁に向かってじっとしていた。

 背中の方でマットレスが沈んだのがわかった。ベッドが二人分の重みを受けて微かに軋む音がした。

 胸の鼓動がリリアにも聞こえているのではというほどに激しく打ち付ける。

 こいつ……本気なのか……。本当に俺と……。

 俺はごくりと生唾を飲み込んだ。意識を他の方に集中させようとすればするほど、リリアの息遣い一つ脳全体に響くようだ。

 リリアが横になったのがわかったのは、そのわずかな動作でも髪の匂いがふわりと鼻腔を撫でたからだ。

 俺と同じシャンプーを使っているはずなのに、いつも使っているはずなのに、リリアから香るのは甘くて優しい匂いだった。心が安らぐような、そんな匂い。

 と、背中にリリアの頭があてられたのがわかった。

 …………もう覚悟を決めるときなのかもしれない。

「リ……リリア……」

 俺は彼女の名前を呼びながらゆっくりと振り向いた――。

 そこにあったのは絵に描いたような可憐な少女の寝顔だった。閉じられた瞳、鼻梁の通った鼻、潤いのある唇。そのどれもが麗しいと感じさせるほどに整っていた。

 と、俺は先ほどまで深く考え込んでいたことを思い出した。

 ばかか俺は。何盛大に勘違いしてんだよ。

 そう非難せざるを得なかった。卑劣な妄想を繰り広げた自分を殴りたい衝動に駆られ、俺は身悶えた。

 こいつが出会って間もないやつにそんなことするはずないってことは少し考えればわかることなのに、俺はどうして気がつかなかったんだろう。ほんとばかだ。

 自分の愚かさに、俺は大きくため息をついた。そしてあることを思いついた。

 まあ、俺の勘違いだったけどリリア自身も俺を巻き込んで悪いと思っているのを少しは利用させてもらおうかな。

 俺はポケットから携帯を取り出した。そして気づかれないようにシャッターをきる。これくらいは大丈夫だろう。そう一人で合点した俺は、携帯を握り締め、目を閉じた。

 翌朝、俺がリリアの拳で目覚めたことは言うまでもない……。

 やっぱり、こいつはそっとしておくのが一番だ。

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