三月十一日 十二時零五分 ユウグレ

「ベヒーモスとセア。なにこれ、何のことかさっぱりわからない」


 私が任されたのは三番目と四番目の暗号文。午前中の家を出る前にさくっと答えを導いたものの、この二つから数字なんてさっぱり浮かばない。片方は神話の何からしいんだけど、セアって何? なんか調べてもそれっぽいのまったく出てこないんだけど。仕方がないから、考えるのは諦めてお昼にすることにした。私は、家で食べる気分ではなかったので、学校へと向かった。学校の食堂に行くと友人が三人いたので、一緒に取ることにした。財布の中身と相談しながらあれこれと悩んだ結果、今日のメニューは味噌ラーメンである。


「先輩がねえ。確かにちょっと変な話だけど、面白そうじゃない?」


 私はこの暗号のことについて友達にも話していた。初めは先輩が送ってきたという一言で皆協力してくれたのだが、手も足も出なくなると応援すると言って考えてくれなくなった。それでも事情を知っている相手は少ないので、こうやって意味がわからないという、私の愚痴を聞いてくれるのは嬉しかったし、ストレスをため込まずに済んでいた。


「そうかな。なんか意味が通らな過ぎて、どうしようもないんだけどね」


 私はちぢれ麺をすすりながら、状況が今一つだという返事をする。そういえば、この間狸――札幌の商店街である狸小路商店街のこと――にできた福岡ラーメンの店でちぢれていない麺を始めて食べて驚愕したことをこのラーメンで思い出した。ラーメンといえば黄色いちぢれた麺だとばかり思っていたので、細くストレートな、そう、まるでそうめんのようなあの麺は私にとっては中々衝撃的だったのだ。あれも確かにおいしかったけれど、ラーメンとは言えないような気がした。


「ステラのメンバーだけだよね。そういうのもらってるの。いいな、人気バンドは」


 ステラというのは私たちが主に札幌で活動しているアマチュアバンドの名前である。室蘭や苫小牧の方まで出張してライブを行うこともあるが、基本的には月一、二回のペースで札幌で行っている。ちなみにバンド名は札幌駅に隣接するジェイアールタワーから取ったもの。ハジメが決めてくれた名前だけど、そういえば命名の理由を聞いてなかったな。どうしてだろう。案外適当かもしれない。


「それがそうでもないんだよ。いや、先輩から何かもらえるってのは、そりゃあ、すごくうれしいんだけどさ。でも、なんか妙なんだよ、この暗号」

「なにが?」

「だって、先輩と私たちそんなに仲が悪いわけじゃないっていうか、寧ろすごく仲が良かったって思ってるから、その、なんでわざわざ暗号なんかにする必要があったんだろうって」


 そう。私が先輩からメールを受け取ってからずっと疑問に思っていたこと。なぜわざわざ暗号なんて使うのだろうかということ。あれからメールも返信がないし、電話にも出ない。安否の方が心配であったので、昨日エレクトラさんにお願いしてみたら快く引き受けてくれた。なんと、追加料金はなしでいいらしい。最初の依頼料だけで良いというのは、学生の身分である私にとってはとても有り難いことだった。


「うーん、そうだよね。そういえば私もしばらく会ってないなあ。忙しいのかな」


 友人がそう言ったところで、私の携帯が鳴った。電子音数回だけの単純なもの。おかげで会話は一旦途切れてしまったが、私はエレクトラさんからのメールかもしれないと思って開いた。


「えっ……」


 私は声が漏れて友達が何事かとこちらを覗いているのさえ気づかず、ただ携帯に送られてきたメールを確認していた。それから私はスープを思いっきり器ごと飲み干す勢いで平らげ、皆に挨拶して足早にその場を離れた。


 メールには新たな探偵の名前と、暗号に関係しているとかいう新聞記事が添付されていた。


「リュウって、一体誰なの……?」


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