三月十一日 十四時三十六分 ハヤト

 暗号は結局三人で二つづ解読し、それからその三つを合わせて一つにする合わせることになった。暗号を分担して解読することになるとは正直思っていなかったので、僕はほとほと困っていた。どう考えていいのかも分からず、考えたところで分かるわけでもないので、言われたことをとりあえず実行することにした。



 次にバンドでコピーしようと考えていたアジカンの曲をイヤホンから音漏れしないようにと、音量に気を配りつつ、僕は閑散とした学校の情報室にあるパソコンの前でウインドウズが起動するのを待っていた。しっかし、学校のパソコンはなんでこうにも遅いのだろう。僕は鉄くずに対して苛立ちを感じながらも、暗号のことを考えてキーボードを見た。


「取り敢えずは、このキーボードだけで何とかなるのか」


 暗号に書かれていたキーを叩くとはまさにその通りの意味で、キーボードを叩くことを意味しているのだそうだ。一般的に使われているキーボードには平仮名とアルファベットが書かれている。つまり、暗号に書かれている平仮名のキーをローマ字入力で入力すれば本来のkeyになるのだという。なるほど、実はそんなに捻られていたわけではなく、意外と単純でそのままだったのだ。それだけならとりあえず、僕でも何とかできそうだと思った。

 

 僕が任されたのは


 1.すなこいなとな

 2.ちすなしいこちすちみ


 の二つである。スマホを取り出して暗号を確認しているとブルースクリーンの中心で回転していた円が止まり、青い空と草原に佇む世界遺産のストーンヘンジの画像に変わった。あれ、これってどこの奴だっけ。気になった僕は検索エンジンを立ち上げて〝ストーン・ヘンジ〟と入力して検索を掛けた。


「ロンドン……へー、イギリスか。覚えとこ。ああ。暗号、暗号」


 僕は検索画面を最小にし、再び世界遺産だけの画面に戻した。


「さてと」


 もうオレンジが点滅していないので、これでようやくきちんと立ち上がった。僕はパソコンのファイルを確認し、マイクロソフトのワードを開いた。それから、指示通りに暗号を打ち込んでいった。


「えっと……す、な、こ、い、な、と、な……っと」

 

 叩いて画面に示されたキーはRUBEUSU。


「ち、す、な、し、い、こ、ち、す、ち、み……ルベウスと、ARUDEBARAN……アルデバラン……?」


 ああーっと、なんだっけなアルデバラン。なんかの星座の星だった気がするんだけど、なんだっけ。僕は再び検索エンジンを開いて〝アルデバラン〟と打ち込んでネット上で検索を掛けた。


「ああ、おうし座か」


 僕はおうし座に関するページをいくつか検索した後、プリントアウトした。次にルベウスについて検索を掛ける。なるほど、なるほど。ルビーの事をラテン語で言うのか。これもまた適当なサイトをいくつか選び、写真付きのものをプリントアウトした。プリンターから自分が使っていたパソコンに戻ったとき、僕は自分の学生用アカウントにメールが届いていることに気が付いた。講義の連絡だろうかと、首をかしげつつ、僕は矢印のカーソルを移動させてそれを開いた。


 >To:ハヤト様

 >突然のメール失礼します。私はプレアデス探偵事務所のリュウと申します。エレクトラやスピカと同じ事務所の者でございます。この度はご依頼ありがとうございました。


 エレクトラさんは、確か夕暮れの知り合いの人だよな。で、スピカさんっていうのは、えっと、ああ、昨日の金髪の女性か。


 >実はこの暗号の背景には昔起きた事件が関わっていることが判明いたしました。私ども探偵が調査を進めてまいりますが、ハヤト様が少しでも情報をお持ちでしたらこちらとしても大変助かる所存であり、本日ご連絡差し上げた次第でございます。その事件というのは約一年前に起きたタクシー運転手殺害事件でございます。詳細が記された新聞記事を添付しておきますので、どうぞご覧ください。


 僕は添付ファイルの画像を開いた。新聞記事のタイトルは『すすきの タクシー運転手殺害』とあった。記事によると、三月十三日午後二十三時ごろに停車していたタクシーに乗ろうと、ドアをノックするも開かないことを不自然に思った客が運転席を確認しにいたことにより発覚。警察は犯人の行方を追っているが、車載カメラは壊されており、夜の繁華街にもかかわらず目撃証言が少なく捜査は難航している。


 なんだ、これは。これも暗号に関することなのか? よくわからなかった僕は一応この新聞記事もプリントアウトした。それから、一に連絡して聞いてみようと情報教室を出た。スマートフォンを取りだすと一の連絡先を呼び出して電話を掛けた。


「あっ、もしもしハジメ? 今大丈夫? ああ、うん。あのな、リュウっていう探偵からメールが来たんだけどさ……え? ハジメも来たの? ……ああ、そうか。僕ら全員に来て当然か。うん、そうだよな。……ん? 暗号? 意味は分かったけど、なんか共通点なさそうでさ、俺には難しいや。……うん、そっか、じゃあ、後で部室で」


 僕は電話を切り、厄介なことになったな、と小さなため息を抱えて部室に向かった。

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