最後の青寂≪シジマ≫
「つまり、僕らは消えていなくなるのか」
「いや、どうだろうな。なにせ、この事態は初めてだからね。増殖した僕らが見守っている世界がなくなるのならば、理屈から言えば見るものがなくなるんじゃないか?」
「まあ、僕らはどうなってもいいんだけどね。未来の僕らが生きていけるのなら」
「言うてもじぶんのことだぜ? 少しは信じなよ」
「そうだね。自分の事を信じられるのは自分以外にいないっつったのは僕だったもんな」
無限に増え続けた久朗津兄弟は未来からの干渉に少なからず戸惑いを見せていた。これまでは、起こるべき幾つかのイベントを今度の新しい久朗津はどう攻略するのかを自分で自分の事を他人事のように眺めるのが僕らだったからだ。今後の展望についてああでもないこうでもないと僕らは話続けていたが、たぶん誰も答えを出せないだろう。今の時を生きるのは過去の僕らではなく、ましてや輪廻にとらわれ続ける僕でもない。自分の時間を手に入れることができた僕だけだ。すると、今度は話題は別の物へと移行する。
過去の僕らにできることは何か。
競馬のように、先の予想をするのはやはり僕らのするべきことではなさそうだし、かといって、意志をもって進む彼らに何かを教えることも違う気がする。過去の経験とは違うこと、新しいことを彼らはやろうとしているのだ。そんなこと、一体どうなるかなんて誰にも想像できないし、ましてや自分のことである。どれだけ心配しても、信頼しても、それは確実な未来には繋がらない。
久朗津は考える。
では、過去の僕――つまり僕はなにもできないのか。
過去の自分が未来の自分にできること。
過去として未来の自分へできること。
それは、前に進むやつの足元の石ころを拾うか、過去の成功や過ちから教訓を学ばせることぐらいしか、どうにもなさそうだった。将来苦労しないために、今苦労して、少しでも未来の自分を助ける。それぐらいしかなさそうだった。
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