ジョーカーの財布
不二式
ジョーカーの財布
その女は見た目は美人だった。涼しい顔をして満員電車に乗り、何事もなかったかのように降りて、トイレに入って鍵をかけたら、ブランドものの鞄にしまい込んだ財布を取り出した。明らかに男物の使い込まれた財布…中身を数えて女はにんまりと舌なめずりをした。女はスリだった。
さっそく女は財布の中身のお札だけを自分の財布に入れると、また満員電車に乗り、盗んだ財布をそっと落として去っていった。女が日焼けを気にするようにしている、おしゃれな手袋は指紋対策であろう。その日も女は盗んだ金で高級レストランに入ろうとしていた。
いつもは盗んだ金で高級品を買ったり、高級な生活を営んでいた女。だが今日レストランに入ると様子が違った。自分のいつも使っている財布が見当たらないのだ。鞄に確かにしまったはずなのに。先程捨てたはずの男物の財布は入っていて、その財布にはお金がたんまり入っていた。
仕方なくそのお金で食事をしようと思い、女はその財布の中の金で豪華な食事をした。だが女は気付いてなかった。その財布には、アルファベットで「ジョーカー」と焼き印があったのだ。
会計、15000円。本来ならかなりの額を稼ぐものだけが、食べられる昼食の額だった。満腹といった様子で一息ついた女が見ると、財布には「¥15000」という印字があった。首をかしげつつも女は歩こうとして、女はコケてしまった。見るとハイヒールの足が折れていた。
それは買ったばかりの5万円のハイヒールであった。女は首をかしげながらも、新しい靴を買いにタクシーに乗り、靴屋へ向かった。「¥0」となっていた財布の印字が、タクシーに財布から金を払った瞬間から、「¥560」となったのに女は気付いていなかった。
女は靴屋で65000円の靴を買った。財布の印字がみるみる「¥65560」に変わっていく。女が靴を履き替え人混みで歩いていると、女がその印字にふと目を留めた時に、急いでる様子の男が走ってきてぶつかって去り、女のバッグの中から鈍い音がした。
すると財布の焼き印の数字が1円単位で、デジタル目盛りのように変化しては減って行き、「¥15368」で止まった。先程ぶつかって地面に落ちた女の鞄の中の、ノートパソコンも壊れていた。女は不快そう顔をしたが財布の中身を見て、まだまだ大量に入ってる札束を見て笑んだ。
風が強く吹いていた。札束が飛ばされないように、すぐに女は財布を鞄にしまうと、気分を直そうと自動車販売店で現金でそのまま300万円の車を買った。まだまだ財布の中には札束があるの見て、笑いながら女はその車でエステティックサロンに行き、数十万円の痩身施術を受けた。
エステティックサロンで痩身施術を受け金を払うと、女は腹を押さえて痛みだした。みるみるうちに腹がべこべこと凹んでいく。女は激痛の中、痩身が成功したのかと去っていったが、エステティシャンはあまりにも異常な痩せ方に恐怖していた。まるで内臓を抜き取られたような痩せ方に。
女は盗んだ財布の中身を見た。まだまだ大量に札束が入っている。女はさすがにおかしいと思えた。これだけ使ってこんなに残っているわけがない。見ると財布の焼き印は「¥3500000」から、1円単位で目盛りが減ってきていた。女はその数字の意味にようやく気付いて恐怖した。
女は腹の違和感に焦りながら車を走らせた。様々な場所にガンガンと車をぶつけてあちこち破損させていくと、今度は金を払っていないのに焼き印の目盛りが何百万円分も増えていく。女はその様子にさらに焦って車を走らせる。女は交番の横に勢いよく路上駐車した。
路上駐車に顔をしかめた警察官が交番から出てきて、女は勢いよく「おまわりさん!おまわりさん!助けて!」と財布を取り出した。財布が落ちて強い風が吹き、バラバラとお札が何枚も空中を大量に舞っていく。女の身体も同時にバラバラになり、風に溶けて消えてしまった。
ジョーカーの財布 不二式 @Fujishiki
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