いらない子

不二式

いらない子

あるところにいらない子がいました。


いらない子はいらない子なので、どこへ行っても気持ち悪がられます。


いらない子はいらない子なので、どこにも居場所がありません。


いらない子はいらない子なので、どこにも必要ありません。


いらない子がごはんを食べていると、お父さんが殴りました。

お母さんもいらない子からごはんを取り上げました。

お父さんは怒鳴りました。

「どうしてこんなやつに食べさせたんだ。バカ野郎。」

お母さんも怒鳴りました。

「あなたこそどうしてもっと早く言わないの。バカ野郎。」


いらない子は泣きました。

「許してください、私はごはんをもう食べません。

許してください、私はごはんをもう食べませんから。」

お父さんとお母さんは許しません。

「許しません、許しません、あなたがもう食べなくても許しません。

あなたが何も食べずとも、何も飲まなくとも許しません。」

いらない子は何も食べずにベッドに入りました。

お腹が鳴ってひもじくて、眠れないけど目を瞑りました。


いらない子がおもちゃで遊んでいると、兄が殴りました。

妹もいらない子からおもちゃを取り上げました。

兄は言いました。

「こいつのせいで俺のおもちゃが少ないんだ。消えればいいのに。」

妹も言いました。

「こんなやつがいると遊んでても楽しくないわ。消えればいいのに。」


いらない子は泣きました。

「許してください、私はおもちゃを全部あげます。

許してください、私はおもちゃを全部あげますから。」

兄も妹も許しません。

「許しません、許しません、あなたが全部くれても許しません。

あなたが何も悪くなくても、良い子にしてても許しません。」

いらない子は何も遊ばずにベッドに入りました。

お腹が鳴るしつまらなくて、眠れないけど目を瞑りました。


いらない子が家事をしていると、お父さんが殴りました。

お母さんもいらない子の持っているお皿を叩き落として割りました。

お父さんは怒鳴りました。

「こいつは俺の子なんかじゃあないんだ。さっさと出て行け。」

お母さんも怒鳴りました。

「私もこんな子産んだ覚えはないわ。さっさと出て行け。」


いらない子は泣きました。

「許してください、私はこの家を出ていきます。

許してください、私はこの家を出ていきますから。」

お父さんとお母さんは許しません。

「許しません、許しません、あなたがこの家を出ても許しません。

あなたがこの家でいつも、良い子にしてても許しません。」

いらない子は何も言わずに家を出ました。

公園のベンチは冷たくて怖くて、眠れないけど目を瞑りました。


いらない子が学校で勉強をしていると、先生が殴りました。

生徒たちもいらない子の持っている教科書を窓から投げ捨てました。

先生は叱りました。

「こんな奴に教えたくない。さっさと出て行け。」

生徒たちも怒鳴りました。

「僕らもこんな奴と学びたくない。さっさと出て行け。」


いらない子は泣きました。

「許してください、私はこの学校を辞めます。

許してください、私はこの学校を辞めますから。」

先生と生徒たちは許しません。

「許しません、許しません、あなたが学校辞めても許しません。

あなたが学校で勉強を、ちゃんとしてても許しません。」

いらない子は何も言わずに学校を出ました。

雨の公園のベンチは濡れていて気持ち悪くて、眠れないけど目を瞑りました。


いらない子が会社で仕事をしていると、上司が殴りました。

先輩や後輩もいらない子の机を蹴ったり、持ち物を放り投げました。

上司は叱りました。

「お前なんかに仕事はない。さっさと出て行け。」

先輩や後輩も怒鳴りました。

「俺達もこんな奴と働きたくない。さっさと出て行け。」


いらない子は泣きました。

「許してください、私はこの会社を辞めます。

許してください、私はこの会社を辞めますから。」

上司も先輩も後輩も許しません。

「許しません、許しません、あなたが会社を辞めても許しません。

あなたが会社で仕事を、ちゃんとしてても許しません。」

いらない子は何も言わずに学校を出ました。

雪の公園のベンチは凍るように冷たくて、眠れないけど目を瞑りました。


いらない子が公園で水を飲んでいると、町の役人が殴りました。

町の人達もいらない子の持ち物を泥の中に捨て、いらない子に石を投げつけました。

町の役人は怒鳴りました。

「お前なんかに居場所はない。さっさと死ね。」

町の人達も怒鳴りました。

「私達もお前なんかと暮らしたくはない。さっさと死ね。」


いらない子は泣きました。

「許してください、私はこの世から消えます。

許してください、私はこの世から消えますから。」

町の役人も町の人達も許しません。

「許しません、許しません、あなたが消えても許しません。

あなたが生きた痕跡が、残ってなくても許しません。」

いらない子は何も言わずに公園で首を吊りました。

ロープが首に食い込んで、死ぬほど痛いけど目を瞑りました。


死んだいらない子が雲の上で町を見下ろしていると、町の役人がいらない子のお母さんを殴りました。

町の人達もいらない子の兄や妹を叩いて、罵声を浴びせました。

町の役人は怒鳴りました。

「いらない子をどうして産んだんだ。バカ野郎。」

町の人達も怒鳴りました。

「いらない子とどうして暮らしてたんだ。バカ野郎。」

いらない子のお母さんも怒鳴りました。

「どうして私はいらない子なんかを産んだんだ。バカ野郎。」

いらない子の兄や妹も怒鳴りました。

「どうして僕らはいらない子なんかと暮らしたんだ。バカ野郎。」


死んだいらない子は泣きました。

「許してください、私はこの世から生きた痕跡を消します。

許してください、私はこの世から生きた痕跡を消しますから。」

町の役人も町の人達もいらない子のお母さんも兄も妹も誰一人許しません。

「許しません、許しません、あなたの生きた痕跡が消えても許しません。

あなたが生きた痕跡が、残ってなくても許しません。」

いらない子は何も言わずに神様に頼んでこの世から生きた痕跡を消してもらいました。

雲の上には何もなく、眠れないけど目を瞑りました。


この世界はいらない子がいない世界です。

いらない子が生きた痕跡すら存在しません。

いらない子が生まれた事すらないのです。

みんなとてもとても幸せそうにしています。

誰一人悲しむこともなく、誰一人笑顔を絶やすこともありません。

みんな幸せそうに生きて、幸せそうに死んでいきます


いらない子はやっぱりこの世には欠片もいらなかったのでした。

いらない子はただただそれを眺めていました。

初めは泣いていましたが、徐々に涙も枯れていき、

ただただ眺めるだけになりました。


いらない子は納得しました。

この世界には自分が生まれなくて良かったのだと思いました。

生まれなかった事を喜ぶようになりました。

いらない子は初めて笑いました。

いらない子はようやく幸せになれたのでした。


めでたしめでたし。



「あっ。」

安心していたのも束の間、

いらない子は神様から雲の上から蹴り落とされました。

いらない子は雲の下に、この世に落ちていきました。

きっとまたいらない子は生まれてしまうのでしょう。


いらない子は雲の上にすら、いらない子だったのでした。


めでたしめでたし。

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いらない子 不二式 @Fujishiki

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