第2話
貴女がもしどんな罪を犯しても僕だけはそれを正当化しよう。
彼女は無機質な部屋で一人そんな事を呟き、ふわふわと浮く椅子の上で暇そうに髪をいじりながら本をよんでいた。
「どうしたの。いきなりそんな台詞を吐いて」
「この本のある台詞だ。主人公の愛する彼女が殺人をした時に裁判官の主人公が最後に呟く」
彼女はこちらを見ないで上の空で答えた。
しばらく沈黙が続くと彼女は空中椅子から飛び降り本を机の上に置くとチェス台の前に座り「暇だから」とにやりとこちらを見た。
僕は司令塔からの問に答えるとパソコンを切り「分かったよ。ただ一回だけね」
と言った。
彼女はリナリア。この世界の頂点に立つ少女だ。
彼女は父の意思を継いで人類を機械をつかって滅ぼしていた。彼女の言葉で世界が動く、歴史がかわる、そんな偉大な人物だ。僕はそんな彼女の足元にも及ばない右腕兼血のつながった兄弟だ。
本来僕は仕事をしなければならないのだが、姉の機嫌を損ねると何をされるのか分からないので静かに従うのみだ。…いけない彼女は人間が嫌いだから本当は殺される身で生かさしてかもらっている。感謝をしなくては。
「チェックメイト」
「リンガル様!」
そんな二つの声がして僕ははっとする。
くらくらする頭を必死に抑えた。
「…どうした。ノックして入れと言ったろう。焼却炉につっこむぞ」
入ってきた司令塔のロボットが固まった。
「大変失礼致しました。どうかお見逃し下さい」
手も足も震えていた。姉の言う焼却炉は何より怖いものだ。焼却炉に入れられたものは二度と意思を持って帰って来れないのだから。
「まぁよい、私は今日は上機嫌だからな。ところでどうした。リンガルに用事なのだろう、私は席を外した方がいいか」
「いえ、大丈夫です。お気遣いありがとうございます。リンガル様、第一拘束室の795番が脱走しました。搜索をしましたが見つかりません」
「そんなことか。リンガル、行ってこい。1ゲーム終わったからな」
気づけば姉はとっくに大手をうっていた。やはり僕はぼーっとしていたのか、僕のポーンの並び方がめちゃくちゃになっていた。頭がズキズキ痛む。
「ありがとうございます」
僕は一礼すると部屋を退出した。
途中食堂につくと僕の昼ごはんを鞄に入れた。
「リンガル様、もってゆくのですか」
先ほど入ってきたロボットが僕に言った。
後をつけてきたらしい。
「うん、秘密にしておいて」
「心優しい方ですね。分かりました」
彼女は指を立てて口元にやると微笑んだ。
拘束室は役に立たないロボットを置くところだ。
足や腕の欠けたロボットや反撃するロボットはすべてここに収容される。
ジメジメした窓もない牢屋でただ上級のロボットのストレス解消のために殴られたり蹴られたりする日々は大変きつく逃げ出すものもいるが大体ここの最新セキュリティですぐ捕まる。
逃げたものは焼却炉行きだ。
「ごめんねみんな。今日はこれだけだ」
僕は202番のロボットにパンをわたす。
僕はそんなロボット達を哀れに思い食べ物を渡している。もちろん姉に言ったら僕も焼かれるだろう。
「ありがとう、リンガル」
202番のロボットがパンをうけとりにこりと笑った。続いて他の番号のロボットにも野菜にスープ、肉類をわたす。しかし、肉類だけは受け取ってくれなかった。
「これから795番を捕まえに行くのですか」
あるロボットにスープを差し出すと彼女は見向きもせずに光のない目で言った。周りからざわつきがおこる。悲しんだり叫んだり、そんな気力もないロボットも。
「そんなことはしないよ。どうせ君たちが送り出したのでしょう。彼女がせがむから」
僕は立ち上がるとそういった。
795番は夢を見る小さなロボットだったからまだ外の世界のことも知らなかった。そんな彼女に外に出たいと言われたのだろう。
「大丈夫、心配しないで。調べにいかないよ」
僕は帰るためにもときた場所をあるく。
拘束室からは「ありがとう」と声が聞こえる。
「まるでアリシス家の血が流れているとは思えないよね」
扉をしめるときにきこえた。
「どうだった」
「ええ、見つかりましたよ。焼却炉に入れました」
「ご苦労だった」
「…チェスの続きやりますか」
「…あぁ、やろう!」
嗚呼、貴女がもしどんな罪を犯しても僕だけはそれを正当化しよう。
Revolution 三浦。 @Fuutaroo
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