無題
鈴木おむれつ
プロローグ
低い空。熱気で歪んだ空気。青々と茂る木々。夏という季節は茹だるような蒸し暑さと空を覆う入道雲で心なしか窮屈にも感じられる。しかし田舎の開けた空はそんな暑さも忘れてしまうほど広い。
僕らの生まれた村は、電車はおろかバスすらも、1日に2.3本しか通らないような辺境だ。村人は約3000人足らず。その8割がお年寄り。いわゆる限界集落と言うやつだ。村に大きな施設はなく、昔で言う寺子屋の役割を果たしているお寺があるだけだ。僕らはその寺子屋で中学までの9年を過ごした。クラスメイトは5人。委員長の水戸綾芽≪みとあやめ≫副委員長の熊耳聡≪くまがみさとし≫熊耳有迂≪くまがみゆう≫書記の東屋千尋≪あずまやちひろ≫同じく書記の僕、騸馬遼太郎≪せんばりょうたろう≫。僕ら5人は田舎の不自由を感じるも少ない子供ながらに楽しく過ごしていた。5人は親友。年の差や男女の差も関係なかった。毎日が楽しかった。何もなくしたことのない僕らは大切なものがなくなることの虚しさもそれによって変わる日常の脆さもまだ何も知らなかった。これからゆっくり学べるはずだった。でも、理不尽は始まってからその最中、事が終わってさえも理不尽なのだ。今から語るのはそんな僕らを襲った理不尽と旅立った親友が残した呪いにも似た後悔にさいなまれる僕らの苦悩と葛藤の日々。そしてそのきっかけになる幼少の頃の晩夏の惨劇。
無題 鈴木おむれつ @ryotan
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