五月十三日 したためた手紙

 お手紙拝見いたしました。


 先日は早々のお返事ありがとうございます。まさかお返事がいただけるとは思っていませんでしたので、とても驚きました。


 実は今日、鶴岡八幡宮へ行って参りました。三年ぶりの鎌倉です。舞殿を見上げ、お手紙に書かれておりました静御前のことなどに想いを馳せておりました。

 そして、静御前が京へ帰ったのは、過去の恋人を諦め忘れたのではなく、どこにいてもなにをしていても共にあると思えるようになったからだと感じました。懐かしい過去ではなくても、同等のものを手繰り寄せることができたのではないでしょうか。

 お会いしないうちに歴史に詳しくなられたようで不思議な心持ちがいたします。三年の月日はあなたを変えるだけの時だったのですね。なによりも私がいけなかったのでしょう。変わらぬ清廉な魂を抱えたままに、傷を負われているのかと思うと胸が苦しくなります。


 今日は由比ヶ浜にも行って参りました。若宮大路からほど近い場所でしたので、あなたとよく訪れた海岸とは少し離れていますが、見晴らしのいい砂浜は懐かしい場所まで見渡すことができました。

 そしてひとり波打ち際で桜貝などを拾っておりました。

 覚えていますか。ふたりで拾った桜貝をあなたがハート形に樹脂で固めてネックレスにして下さったことを。

 そのネックレスを身に着けて桜貝を拾っているうちに、今がいつなのかすっかりわからなくなってしまいました。ふと顔を上げた瞬間に隣にいるはずのあなたを探してしまうことが幾度となくありました。

 つい夕暮れまでそこで過ごしてしまい、沈みかけた夕陽に江ノ島が浮かび上がっているのに気付いて慌てて帰路につきました。


 向夏のみぎり、暑さも増す頃です。御身おいといくださいませ。


                      かしこ


 五月十三日


                     杉村美鈴


 水城彰大様

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