戦国時代の末、京都に飛ばされた大学生と、その原因を作った異世界の魔法使い&錬金術士が日本中を旅して廻る物語。
主人公は、魔法を使っていろいろな工業製品を作成可能。
しかし、ひとりで日本を安全で住みやすい社会に変えるほどの影響力は生み出さない。
彼は持ち前の工学知識や人材育成の才能、歴史の知識などを発揮しながら、多くの協力者を得て日本の近代化を推し進めていく、という、「果てしなくぶっ飛んだ」ストーリーです。
戦国時代、食料生産が増加し、第二次産業が急速に発達したことから貨幣が不足。社会の混乱をおさめるために公家として全国をめぐり、統一通貨の普及や鉱山開発のために協力者を増やしていく、という超骨太設定。
流通している銅貨を集め、鉛と一緒に溶かして融点の違いにより銅を抽出。その後、骨灰を用いて鉛とリン酸カルシウムを反応させ、銀を析出させて銀貨として再利用する。それによって、外国への富の流出を防ぐとともにこの時代での権力基盤を得る。
——序盤からこんな調子です。
あ、やばい。これ、ガチだ。
そう思った頃には、あなたもこの作品に魅了されているでしょう。
一見すると主人公がチート能力に見えますが、「ひとりの人間がいくら工業製品を量産したところで、当時の貧困や伝染病などの社会問題を解決できない」という非常にリアルな考証のもと日本を近代化させようと社会の発展に努めるところが、この物語の面白さを引き立てています。
この感想を書いている頃には、全国共通の秤が大阪・堺を中心に普及し始めていて、さらに商工業が発展していく気配です。主人公たちは組織的にこの時代の教養や職人技を身につけ、鉱山開発を目標に東海道から甲州に入ります。魔法を使える人材も増え始め、こちらも体系化され医療技術の発達に活かされそう。
ある種のシミュレーションともいえるほど科学考証、歴史考証がしっかりとしていますし、人材育成や組織化、利益を再投資しさらに大きな産業を育てるという経済学的な考え方も非常に丁寧に書かれています。科学モノとしても歴史IFとしても経済ドラマとしても申し分ない出来で、続きが非常に楽しみです。
惜しむらくは、タイトルやキャッチコピー、タグなどがこの物語の魅力を引き出しきれていないところでしょうか。
もっとアカデミックな人たちが引っかかりそうなワードを盛り込むといいんですかね。
(まあ、どうせ後から多方面に評価されるでしょうから、このままでも良いかもしれません)