第4話
さて、脇役のおれは、普通に学校生活をすごしていた。
六人の魔族は、異世界に行って四人の勇者と戦っているらしいが、決着がつくのはだいぶ先になるそうだ。異世界では、王国が壊滅したり、復活したり、大忙しらしい。おれは脇役なので、それを聞いて、一喜一憂した感想を述べていただけなのだけど。まあ、おれは当事者ではないので気楽である。
そんなわけで、脇役生活をのんびり楽しんでいた五月の頃。
おれは、おれと同じような脇役である、いちろう、ひさし、さとしの男子三人と、里中、矢内の女子二人の合わせて五人仲間を観察していた。この五人は変なのだ。
この五人は、授業中に、五人同時に携帯電話の着信が鳴るという奇怪なできごとを起こし、一躍、学級の話題をさらった。
それも、五人全員の着信が同時に鳴るというのは、一度や二度ではなかった。
ぷぷぷぷぷぷぷぷっ、と五人の携帯の着信が交響楽を奏でる。授業中にだ。すると、五人は、
「緊急の用事なので」
といって、五人とも、教室から出て行ってしまうのである。
五月の間に、五人の授業からの逃げ出しは、十回を超え、職員室でも問題になったらしい。
担当になるらしき副担はまだ来ない。学級委員がずっとホームルームを仕切っている。
それで、五人の抜け出し先を尾行してみるということを、脇役であるおれは、脇役らしからぬ行動力を発揮して行ったのである。
五人を尾行してみても、まかれることが何度もあった。
だが、おれは五人の尾行をやめることなくつづけた。執念であった。根性であった。努力であった。おれの努力が職員室で話題になり、おれが授業を抜け出す六人目に数えられ始めた。
「脇田。おまえ、五人組と一緒になって、授業を抜け出しているらしいな。素行不良で、ご両親に連絡して、面接するからな」
と教頭にいわれた。この世界のどこかで、何か面白いことが起きているのだとしても、脇役であるおれにはまったく手に届かないことで、社会の秩序にがんじがらめになってしまう。
しかし、おれは、日曜祝日を利用して、五人の尾行を怠らなかった。やはり、世の中、根性は必要である。その努力が報われる日が来た。
五月も終わる頃、ついに、五人の集合する現場に出くわしたのだ。
そこでは、宇宙怪人バンクーバーが街を破壊しようと暴れていた。なんと、授業抜け出しの五人は、宇宙怪人と戦うヒーロー戦隊だったのだ!
いちろー:レッド
ひろし:イエロー
さとし:ブルー
里中:ホワイト
矢内:ピンク
だった。五人そろって、シュヤクナンジャイ! と名のっていた。
なんということだ。おれと同じような学級の脇役だと思っていた五人も、地球を宇宙人の侵略から守る正義の味方だったのである。
五人の携帯電話が同時に鳴るのは、地球防衛軍からの出動の命令だったのである。
悔しい。
なんで、おまえら、脇役じゃないんだよ。
シュヤクナンジャイなんて、ヒーロー戦隊は、まずめったにやられない正義の味方じゃないか。
どうせ、いつも勝ちつづけて、常勝凱旋なんだろう。
やってられるかよ。
なんで、おれだけ脇役なんだよ。
シュヤクナンジャイは、必殺技を決めて、子供たちに大人気らしい。全国からファンレターが来るらしい。
電車代やバス代もタダらしい。公共機関は無料で使えるらしい。しかも、秘密の変身兵器を装着しているのだ! なんと羨ましい。
おれは、五人の戦いを近くで見ていたが、どかん、どかんと爆発しているので、これは近づいたら死ぬな、と思った。
家に帰って、不貞寝した。
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