第5話
六月の初めの頃、山田がおれに話しかけてきた。
山田は、シュヤクナンジャイの五人組と敵対している学級内勢力で、あまり目立たないが地味に派手なことをしているやつだ。学校帰りに、何か奇抜なことをしているらしい。
だから、おれは山田が近づいてきた時、脇役のおれに脇役らしい役割がまわってきただけだろうと思った。だが、それはちょっとちがったようだ。
脇役のおれにしては、重要な接触だった。
山田はおれの名前を読んでから、こういったのだ。
「脇田くん、実は、おれは宇宙人と地球人のハーフなんだ」
おれはずっこけた。
本気だろうか。どこか病質的妄念にとりつかれているのだろうか。脇役であるおれたちには、映画や漫画で見るような世界はまずやって来ない。ただ、平凡な日常をすごして終わりだ。
おれはその立場を受け入れているし、でしゃばるつもりはない。
この学級の十人が関わっている異世界の戦争にも、二ヵ月間、おれは関与していない。なぜなら、おれは脇役だからだ。
そのおれに、宇宙人の血を引いているなどという劇的な告白をする山田は、何を考えているのだろうか。
「お父さんと、お母さんの、どっちが宇宙人なの?」
とりあえず、おれは聞いてみた。話をつづけなければならない。
「お母さんが宇宙人なんだ。お父さんは地球人だよ。それで、おれは宇宙と地球の親善大使のような役割を手伝っているんだ」
何をいっているのだろう。なぜ、おれが宇宙人に関わらなければならないんだ。
そりゃ、宇宙人に興味はあるけど、おれは宇宙人の味方につくのは、ちょっと気が引けているのだ。なぜなら、この学級には、宇宙人と戦う五人組シュヤクナンジャイがいるからである。彼らを敵にまわしたくはない。
「おれにどうしろと」
「おれたちの仲間になってほしいんだ。宇宙人に早いうちにとりいって、地球を支配しようじゃないか」
ぶっ。地球を支配と来たね、これはまた。話がどんどん大きくなっていくよ。
「どうすれば、支配できるんだ?」
「それは、良ければ紹介するよ。知ってるだろうけど、同じクラスの加賀佳代ちゃんだよ」
加賀佳代がおれに握手を求めた。おれは握手には応じる。
「よろしく」
「よろしくね」
で、どうなるんだろう。
「実は、加賀佳代ちゃんは宇宙人なんだ」
ぶっ。本当なのか、嘘なのか、わかりづらいが、この学年が始まって以来、こういうことに慣れているので、本当なのではないかと考えてしまう。そんな自分が憎い。
それから、どうなるんだろう。おれは黙って聞いていた。
「脇田くんは、加賀佳代ちゃんと子作りをして、地球人と宇宙人の混血児を生まないか?」
ぶっ。
これにはたまげた。おれの許容量の限界を超えていた。想定外だ。
こ、子作りですとお。
う、宇宙人と子作り……
もう、何がどうなるのか、わからない。
佳代ちゃんの方を見ると、ニコっと笑っていた。縁談である。高校生である自分にはまだ早い。
おれが答えに困っていると、ぞろぞろと近くにいた三人が集まってきて、山田と佳代ちゃんと合わせて、三人に囲まれた。
「実は、おれたち五人は宇宙人なんだ」
そう彼らはいった。
はいはい。だいたい、わかりましたよ。
宇宙人と戦う五人組シュヤクナンジャイがこの学級にいるから、彼らと戦っている宇宙人もまた、この学級にいるというわけですね。
なんというか、異世界の戦争と同じような構図ですねえ。
おれが宇宙人の仲間になれば、シュヤクナンジャイに退治されるというわけですねえ。
これは慎重に考えなければなりませんねえ。色恋沙汰を出せば、すぐにとびつくおれでもないですので。
これは、あれですねえ。佳代ちゃんとの縁談は、お断りしておきましょうかねえ。
おれはやっぱり宇宙人より地球人のがいいし、政略結婚させられるのも、しゃくにさわりますねえ。というか、こいつら、高校生で政略結婚を企んでるんですねえ。
恐ろしいですねえ。おっかないですねえ。
日本の未来が心配です。地球人は大丈夫でしょうか。
「ごめん、悪いけど、佳代ちゃん、お友だちの関係でいよう」
おれがそういうと、佳代ちゃんははっきり不機嫌になりましたねえ。女心は宇宙人でもわからないものですねえ。
そもそも、この様子では、佳代ちゃんはおれのことを好きではないようですねえ。そんな人と子作りとか、難しいですねえ。まだ若いですからねえ、おれ。
「わかった。断るというのなら、今後、命の保証はできない」
はいはい、けっこうですよ。どうせ、脇役は簡単に殺されるんです。
宇宙人と戦うのは、おれには無理ですねえ。無力な一般人ですから。
おれは脇役ですからねえ。
きっと、主役のシュヤクナンジャイさんたちがなんとかするのでしょうねえ。
ということで、宇宙人五人組とは決別した。
この学級の三十一人のうち、十人は異世界で戦争しており、残り十人は宇宙戦争をしているらしい。
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