剣と魔法?いえ戦鎚『ウォーハンマー』と異端審問です

「全ての男がたくましく、全ての女が美しく、全ての人生が冒険である」と言ったのはディ・キャンプだったかリン・カーターだったか。

はい「剣と魔法の世界」です。

ライトノベルでも大人気のジャンルですね。

そんな世界であれば、私もトラックに突っ込んで頂くなり、火星を見上げるなりして行ってみたいものです。


「俺もマッチョボディになって、鎖でつながれた姫君を救いに行きたいぜ」


今回はこうしたものとは真逆の世界。

「次に転生する際には絶対に避けるべきファンタジーゲームの世界」をご紹介します。


まずその世界の名は旧世界(オールドワールド)

ヨーロッパをモチーフにしたファンタジー世界……ありがちですか?


この旧世界の中でも主な舞台となる帝国(エンパイア)は後期の神聖ローマ帝国をモデルにしており、選帝侯が相互選挙した皇帝陛下の元で一致団結して人類守護の為、北から攻め寄せる蛮族や混沌(ケイオス)の尖兵共と戦っております。……建前上は。


史実の神聖ローマ帝国ではもちろんキリスト教が信仰されていましたが、この帝国の聖堂では十字架の代わりに戦鎚(ウォーハンマー)が祀られています。


この旧世界の救世主は軟弱な人類どもを戦鎚で殴り倒して束ね上げ、帝国の礎を築き上げて神位に就いたシグマーその人です。

神の子でありながら人類のために十字架にかけられたイエスとは大変な設定の違いですね。

そして、この武器こそがこのゲームのタイトルとなっています。

『ウォーハンマーファンタジーRPG』(日本語で遊べる第二版)

同名のミニチュアゲーム、カードゲーム、電源ゲームやら沢山ありますが、最も転生したくないのは今回のTRPG版ではないでしょうか。


タイトルにもなっているウォーハンマーは小さなヘッドと鋭いピックを持ち、鎧を貫通するようなタイプではありません。

剣で受ければ剣もろともへし折り、敵対者の肉も骨も鎧の上から叩き潰すための大槌です。


ゲームを象徴する武器が剣や槍ではなく大金槌と言うあたりで、この世界の方向性がうっすら見えてきたのではないでしょうか。


さっそくルールブックのページをめくり、転生先もとい自分の演じるキャラクターを作っていきましょう。

最近のTRPGでは、自分の思い通りのキャラクターを作れると言うのが主流になっています。

もちろんルールの範囲内でですが、ポイントを割り振ったり、3つを選んだりして逞しい戦士や知性溢れるインテリ、悪役令嬢までなんでもござれ。


この『ウォーハンマー』では全く逆で「思い通りの理想の自分」になんて転生する事はできません。

身体、知的能力から親の職業まで全てサイコロの命ずるままです。

ゲーム的にはキャラクターより世界が優先されているデザインとでも言いましょうか、

文字通りこの旧世界に「生まれ落ちる」感覚となります。


職業を決めるサイコロを振った後、初めてのプレイヤーはほとんど全員「最低のダイス目を振っちゃった」と後悔するはずです。

ちなみに私の転生先はネズミ捕りでした。

ネズミ捕り……なんだそりゃ。


もっとカッコいい職業はないのかと目を皿のようにしてルールブックを眺めるうちに、大半のダイス目でろくな職業に付けないという事実に気が付きます。

墓場荒らし、小作農、骨拾い……。


ちなみにこのゲームでは職業と書いてキャリアと読むのですが、上級国民……じゃなかった上級キャリアと呼ばれるエリート職には転職しないとなれません。

文字通り転職によるキャリアアップと言うやつです。


希望がわいてきました。ネズミ捕りが嫌なら転職すれば良いじゃない。

異世界転生して、転職しまくって、大金持ちの貴族になって、権力と財力に物を言わせて美少女メイドをはべらせまくる……オールドワールドで私のささやかな理想を実現させる時が来ました。

ネズミ捕りからの成り上がり異世界生活です。


上級キャリア<大貴族>これを最終目標にしましょう。


そしてネズミ捕りから転職できるのは、看守、盾砕き、屋根飛び盗賊、盗賊、墓荒らし、用心棒。

大貴族とのギャップに既に心が折れそうですが、貧困のスパイラルに陥らない様に大貴族への細い細い道を探していきます。


看守から領地代官、そして為政者、大貴族という権力の道。

屋根飛び盗賊から犯罪団首領、そして為政者、大貴族と言う組織暴力の道。

盾砕きから軍曹そして騎士、大貴族という軍人の道。


どうやらこの3つが最短ルートのようです。

それではとっととネズミ捕りを辞めて次のキャリアに……進めません。


キャリアを進めるためには、今のキャリアで学べることを全て学び終えて、かつ次のキャリアで必要とされる備品一式を揃える必要があります。


今の仕事が自分らしくないから~なんて理由で職業を放り出すことが許されないのは意外にまじめだなと思いつつ、問題なのは備品一式の方。


犯罪団首領の備品には【犯罪組織】とか平然と書いてあるので、自分で盗賊団を組織したり、盗賊団にもぐりこんだ後で現首領の寝首を掻いたりする訳ですよ。もちろんシナリオ中で。


お金で買えるものならまだましですか?

格差激しい『オールドワールド』では大貴族の必需品【名匠の鍛えた武具】や【宝石の嵌め込まれた美麗な服】とかネズミ捕りの生活費の100年分でも足りません。


兎も角も、必要な備品や金が手に入らないがために不本意な転職をしてしまう事もオールドワールドでの人生の一部です。

最悪、現在のキャリアをほったらかしにして債務奴隷のキャリアに強制転落なんて事だって起こりえる訳です。

こうならないように私自身は小銭をかき集め、様々な人々に貸しを作っておこうと思います。

ちなみにネズミ捕りの持ち物には【1D10匹のネズミを吊るした棒】があります。

ネズミ捕りになりたけりゃ、ネズミを捕まえてから出直してこいよ。

と転職希望者に向かって吼えてから悲しくなりました。


このように『ウォーハンマーRPG』の典型的な冒険の一つが「成り上がり」です。

(いかがわしい)人生経験を積み、(胡散臭い)金を稼ぎ、理想の人生をつかみ取るのです。

まあ大抵はその途上で命を落とす事になりますが。

なぜなら旧世界『オールドワールド』が人々に向ける殺意の高さが半端じゃないからです。

では世界に溢れる危険について、食事でもとりながらお話ししましょう。

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