退職からのスペースオペラ『メガトラベラー』後編

出身世界を創っているうちにアーノルド君の進路も決まったようです。

彼は商船部門に応募する事を決意しました。

『ペール・ギュント』にちなんだわけではなく、消去法の結果みたいですが。

海軍では出世の目はなく、精強部隊の海兵隊は入隊試験での不合格の可能性が高く、偵察局は任務中の不慮の事故が恐ろしい。

海賊は実家の名誉に泥までは塗りたくありません。


まずは商船部門で宇宙暮らしの何たるかを学びつつ、会社が自分に向いてないと思えばバーッと第二のキャリアに飛び出せばいいんです。

と言うか、会社組織に所属したままでは自由な冒険稼業に精は出せませんから辞めるの前提での就職という訳です。


それでは入社試験に挑みましょう、2D6をコロコロ。……さんざん考えた結果だというのにあっさり落ちました。

情け容赦ない「今後のご活躍お祈りメッセージ」が届いています。

やはり面接で「10年をメドに独立します」とか口走ったのが不味かったのでしょうか。


「就職浪人」「ニート」「社会生活不適合者」様々な単語が頭の中でグルグルと回り始めます。

入隊/入社試験に落ちたアーノルド君を待ち受ける運命は……強制就職!すなわち軍事徴用です!

宇宙時代では人間は貴重な資源です。働き口は軍隊が見つけてくれます、本人の希望は無視されますが。


もっともアーノルド君は軍事6部門のうち半分、海軍・海兵隊・偵察局は志望していましたから上手く潜り込む好機なのかもしれません。


徴用先は……偵察局。

入社試験に落ちて、いかがわしい宇宙酒場あたりでヤケ酒を呷る18才。

もう実家に戻る気はありません。

その心のスキに忍び寄る偵察局OBのおっさん。

「宇宙の男になりたくないか」「偵察局には同僚はいても上司はいないぜ」

甘くも熱い言葉に誘われて、翌朝二日酔いの頭で入局宣誓書にサインした事に気が付くアーノルド君なのでした。


さて取り敢えずの就職先が決定しました。

各部門では4年を1期として勤務を繰り返していきます。

新人偵察局員アーノルド君は初期訓練によって、宇宙船パイロットとしての初歩的な技能(パイロット-1)を身に付けました。


これで小型の宇宙船であれば一応運用する事ができます。(安全に飛べるとは言っていません)


その次に待っているのはこの4年間の「生存」判定です。

なんと偵察局の殉職率は非常に高く、戦闘部隊である海兵隊さえ上回ります。

適性が無い局員の1期当たりの殉職率は40%を越えるというブラックオブブラックの職場環境です。

幸いアーノルド君は頑健な身体を持っている偵察局向きの男ですが幸運の女神に愛されているでしょうか。


ダイスの目は5と6。絶好調過ぎて少し不安になります。

他の部門ですと、この後任官(管理職)試験・昇進試験と続きますが偵察局の現場部門は階級は一切なしですから関係ありません。


その後、今期で特別な功績を上げたのか判定し、これも無事成功。

上々の社会人デビューだったと言えるのではないでしょうか。

この成果は初期訓練のパイロット同様に技能の習得と言う形で与えられます。


アーノルド君は追加で3つの技能を習得しますが、この技能もダイスに左右されます。とは言え習得する技能のジャンルを選べたり、このグループの中から1つ習得となっていたりですからある程度好みに近づけることはできます。


アーノルド君は宇宙船の機関部分にも興味を抱き、エンジニアリング-1

個人的な生活ではスポーツ、低重力トランポリンを楽しみます。 敏捷力+1

部門の教育では反重力ラフトで惑星上を探査する正規の訓練を受けます 反重力機器-1


最後に待っているのが再応募、解雇されずに次の期に進めたかどうかの判定です。

幸い偵察局は再応募のハードルが非常に低い職場です。

と言うか殉職率が高すぎて現役局員を手放せないだけなんじゃ……


ともあれ、まだキャリアを積みたい22才です。有り難く第2期の勤務に入りましょう。

第2期も運良く生き延びることが出来ましたが、功績判定には失敗。

アーノルド君も伸び悩みでしょうか。

それでもパイロットとしての腕をさらに伸ばし、パイロット-2

個人的な生活では悪い遊びをおぼえた様です。ギャンブル-1


18才の頃、望んでいたのとは違う未来が見えてきた気もしますが、もう1期だけ偵察局に残る決心を固めて受理されます。


第3期は危険な4年間となりました。

なんと生存で非常にきわどい目を振り、一歩間違えば命を落とすところでした。

偵察艦のドライブミス?敵対勢力との接触?何があったのでしょう。

一方では功績には大成功して更なる経験を積んでいます。

護身用の銃器に習熟し、ハンドガン-1

生死の淵をさまよいタフさに更なる磨きがかかりました。耐久力+1

腐敗した相手との交渉も一通りの実践を積んだようです。贈賄-1

そして専門知識も経験もない状況下をとっさに凌ぐ生き方を学び取りました。万能-1


何というかこの4年間は宇宙船乗りとは別種の任務にあたっていた雰囲気がプンプンします。アーノルド君もこの時期の自分の活動についてはあまり語りたくないようですね。


予定していた3期の勤務を終えて退局する事とします。

これはどこの部門に入っても30才になったら退職してフリーになろうと考えていたのでした。

ところが退職手続きを取ろうとするアーノルド君に「特別任務ヲ指令ズ」の辞令が届きます。

そう再応募の時に6ゾロを振ってしまうと強制的に勤務しなくてはならないのです。

いくら人手不足とは言え、ちと酷いのでは……


気合を入れ直して第4期の生存ダイスを振ります。成功!!

特別任務にも大成功!飛ぶ鳥跡を濁さずを地で行きました。

宇宙パイロットとしての腕は更に増し、パイロット-3

もはや若くもありませんが日常的なスポーツは続けているようです、敏捷+1

宇宙の男の一張羅、宇宙服の着こなしも生活の一部です。宇宙服-1

単独任務の多い偵察局員の日々から臨機応変を天性とします。万能-2


いよいよ待ちかねた除隊の日ですが、ついこの間まで紅顔の若者だったアーノルド君も早や34才です。そろそろ健康診断が気になるお年頃ですね。

何とこここから1期、4年ごとに基礎能力の低下が始まります。

ですから30才で除隊したかった訳です。


気合を入れてサイコロを振ったものの、彼の自慢の筋肉もややバルクダウンしてしまったようです。筋力-1

世界の終りのような表情を浮かつつアーノルド君は退局届を提出し、今度こそ無事受理されました。


後は退職一時金と、退職恩典の決定です。

まずは当座の生活費の為の一時金ですが、同僚たちから自慢のギャンブルでのツケを返してもらったこともあり、しばらくはブラブラできるだけの金額を手に入れます。

50000クレジット。

ただ、これが文字通り命がけの16年の代償としては安いんじゃないかとちょっぴり思ったり。

いえ大事なのは恩典の方なのです。目一杯気合を入れて3つのサイコロを振ります。


牧畜惑星『ソルヴェイグ』で過ごした少年時代、そして青年時代の心血を捧げた偵察局での日々を終え、アーノルド君(そろそろアーノルドさん)は独立しました。


現段階でのUPPを見てみましょう。


アーノルド・イェーツ 偵察局予備役

A5A769 34才 4期

パイロット-3 万能-2 エンジニアリング-1 反重力機器-1 ギャンブル-1 贈賄-1 ハンドガン-1 宇宙服-1

所持金  50000クレジット

特記装備 S型偵察艦


偵察局で揉まれた彼は腕利きのパイロットであり、人に頼らず困難を乗り越える心身共に頑健な男です。その一方で社会の面倒ごとを非合法に切り抜ける術も多少心得ています。


そしてご覧下さい。特記装備のS型偵察艦の文字を……

退役した偵察局員は予備役として余剰の偵察艦を貸与してもらえる事があります。

これが気合を入れて振った恩典の成果です。


『ジャンプ』と呼ばれる超光速航行が可能なこの小型艦は1パーセク(3.26光年)を1週間で移動する事が可能です。

星間文明時代としては旧式機ですが、木星のようなガスジャイアントで液体水素を「汲み上げる」事で実質無料で恒星間航行を可能にするコスパの良さは特筆ものです。


これからのアーノルドさんの人生設計はどうなる事やら。

扱い慣れた偵察艦が手元にはある代わりに、維持管理費は自分持ち。

虎の子の50000クレジットを元手に飯の種を探す必要があります。

商船とは異なり偵察艦のカーゴスペースでは大した貨物は載せられません。


多少やばめな貨物でも引き受けましょうか、もしくは一般航路を外れる代わりに旅費に色を付けてくれる訳アリの旅客向けチャーター便という手もあります。

それとも何年も帰郷していない懐かしの『ソルヴェイグ』に舳先を向けてもいいかもしれません。家族や幼馴染はは元気でしょうか、牧場は昔のままでしょうか。

アーノルド・イェーツの冒険は今から始まるのです。


いかがでしょう。

大体TRPGのキャラメイクと言うのは、自分好みのキャラクターを作り上げていくものです。

しかし、このトラベラーシリーズではどんな人物になるのかもわからない。

それどころか、キャラクターを作っている最中に殉職したり大怪我をしたりするというナマモノ加減です。

順調に昇進を重ねてしまって退役するのが惜しくなり、フリーになった時には元帝国海軍提督60才なんて事になっていたりします。

さらに上級作成ルールを使えば1期4年どころか1年ずつの職務履歴が作れます。


名家に生まれながら『戦争の犬たち』の下士官として辺境惑星を転々とし、従軍記章と名誉戦傷章を増やしつつ、遂には戦火に斃れる貴公子。


高卒で『一生一現場人』をモットーに偵察局で勤務を続けていたら、管理職に抜擢されてしまい。本人の意思とは別に出世を繰り返し現場/管理双方の畏怖を集める『叩き上げ上級管理官』。


まさにTRPGのキャラメイクどころか人生ゲームとして単独で遊んでいけるレベル。


そして嬉しいのはセカンドキャリアこそがPC(プレイヤーキャラクター)としての冒険のスタートであるところ。

様々な勤務部門で解雇されたり、会社が倒産したり、不祥事を起こしたり、同僚と仲たがいしたり、健康診断で要精密検査が出たり……そこから初めて星々を自由に駆け巡る人生が始まるのです。


人生なかなか捨てたもんじゃない。

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