18才からのスペースオペラ『メガトラベラー』前編
「異世界転生」……ついに禁断のフレーズを口にしてしまいました。
ここではない「どこか」に行きたい。
いやひょっとしたら俺は間違って地球に生まれてきたんじゃないか、自分のいるべき場所はここじゃない。
自分本来の人生、可能性と冒険に溢れた「それ」を生きてみたい。
……ちょっと待って下さい。大型トラックの前に飛び出す前に予行演習と思ってTRPGをプレイしてみましょう。
もう一つのありえたかもしれない人生をロマンたっぷりに、少しほろ苦く楽しむゲームならこれしかありません。
タイトルは『メガトラベラー』
すぐにAmazoあたりのカートに放り込めないのが残念な傑作ゲームです。
時は帝国歴1100年代、人類が星間戦争の末に、星々を越えた帝国を築き上げた超未来。
銀河帝国・宇宙艦隊・超光速航行・反重力車両・強化外骨格スーツ・超能力研究所・古代種族の超文明遺跡・非人間型異星人・コールドスリープetc……
書いているだけでワクワクしてきました。
さっそく古き良きSFでおなじみの単語とガジェットが飛び交うトラベラー宇宙に転生してみましょう。
『いつものように』サイコロ2つを握りしめて基本能力を決定します。
筋力・敏捷力・耐久力・知力・教育度・社会的地位という聞きなれた能力値を書き込む訳ですが、試しに振ってみましょう。
11・3・9・5・6・9
これをトラベラー独自のUPP(一般的個人略歴)表記方法で表わすとこうなります。
B39569 18才 0期
そう16進法で能力値を羅列していくだけ、シンプルな表記方法が美しいですね。
このプロフィールから浮かび上がる人物像は……
ヘラクレスのような美しい筋肉と優れた持久力、しかし運動神経は絶望的。
そこそこの名家出身(社会的地位A以上から準貴族)ですが、頭の出来と学業はちと残念。
こんなアーノルド・イェーツ君(安直)も18才。
そろそろ進路を決めなければなりません。
就職か、進学かそれが問題だ。
大学入試に無事合格できれば4年間のモラトリアム……ではなく上級教育を受けて教育度が上昇します。
更に優等な成績を修めれば医科大学への道や、就職時に花形部署に配属してもらえる特典付きです。いわゆる『幹部候補生』『キャリア組』。
しかし、今回は基本ルールでキャラクター作成しますので大学進学はナシです。
それ以前にアーノルド君の頭脳では早いところ実地でのキャリア形成を行った方が賢明でしょうね。
就職情報誌が山積みになった部屋で自分の将来を考える18才。
その瞳の先には星々を駆け巡る人生への航路が映っているはずです。
宇宙のエリートコースと言えば帝国海軍です。
この組織は強大な打撃艦や高機動兵器を有して、『帝国』に仇なす『連盟』や敵対種族との辺境戦争に明け暮れています。
そして何より宇宙の海で『提督』と呼ばれるのは男の浪漫です。
しかしアーノルド君の知性では海軍士官は狭き門です。
仮に運よく入隊したところで任官試験や昇進試験で煮え湯を飲まされる日々が予想されます。
若干有利なのは彼の毛並みの良さですが、コネに頼ってまで入営するべきでしょうか。
他の軍事組織として、陸軍・水軍・空軍がありますが宇宙での活躍を夢見る18才は募集要項に目を通すこともしません。
残るところは海兵隊・偵察局・商社・宇宙海賊と言った所です。
宇宙時代にも関わらず、火薬式のリボルバーとカトラスの様な刀剣類で武装して宇宙船内や地上設備の治安維持そして強襲攻撃にあたる海兵隊はアーノルド君の腕っぷしを歓迎してくれるでしょう。
わずか一人で運用できる宇宙船を操り、未知なる星系の調査活動や帝国の通信網の維持を担う偵察局は階級なしの実力社会、命の保証こそないものの宇宙への近道です。
宇宙の荒海に利益を求める自由商人は星々を渡り、交易品を安く仕入れて高く売る。
大航海時代の冒険家の末裔です。商人道を学びつつ独立の暁には商船を手に入れることができるかもしれません。
最後の宇宙海賊は星々を荒らす犯罪者です。左手に巨大な銃を仕込んだ彼や、重力サーベルの名手の彼女やらを思い浮かべますが、この世界では帝国海軍の目を盗んでは無力な船団や居留地に残虐行為を働く畜生働きの連中の様です。
アーノルド君は各部門の募集要項から任務内容、労働災害の件数、退職金規定まで目を皿のようにして確認しては情報収集に励みます。
意識の高い18才ですね。
アーノルド君が将来に悩む中、彼の出身世界を決めておきましょう。
SF-RPG『メガトラベラー』は伊達ではありません。
なんとダイスを適当に振っているだけで惑星が創れてしまうのです。
直径10000km、地球を一回り小さくしたような世界は幸いにも呼吸可能な窒素/酸素型の大気を持っていますが、その大気は濃厚で住民は常に高気圧に晒されています。
これは惑星のコアが高質量で高重力下にあるのだと考えてみましょう。
アーノルド君の優れた身体能力はこの環境で培われたのです。
人口密度は低く、人口は惑星全域で100万人程度、技術レベルは前星間文明にとどまっています。とは言え反重力クラフトや惑星間飛行が実用化されているのは流石です。治安は良好で銃器は規制されています。
穏やかで少し退屈な牧畜世界を私はイメージしました。
この世界の名は『ペール・ギュント』から頂いて『ソルヴェイグ』と言うのはどうでしょうか。
人を引き付ける力(重力)を持ち、またそれを振り切って若者が飛び立つ故郷です。
ここに置かれた二線級の宇宙港だけがアーノルド君が故郷を離れ星の海を目指すスタートなのです。
反重力クラフトで家業の牧畜を手伝いながら、18才の視線は地上ではなく分厚い炭酸ガスの雲の上、宇宙へと向いています。
父親はアーノルドが幼馴染と結婚し牧場を継ぐものと考えているようですが、次の収穫期に宇宙港に向かった際にはこっそりと商社の入社試験が待っています。
18才の若者アーノルド・イェーツにどんな未来が待っているのか……後編に続きます。
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