盤上マイナス50℃!非情の山『K2』への挑戦

ついこの間まで我が職場のロッカールームは体温を超えた38.9℃を観測し、完全無料のサウナと化しておりました。

しかし今では朝晩となれば、少々肌寒いような気にさえなってきます。

文字通り「女心と秋の空」と言う天気ですね。


この女心の気まぐれについては前回に異国の美女『エミーラ』さんたちにしっかりと教授して頂きました。

今回は「秋の空」の方、天候の気まぐれに命を懸けるボードゲームの順番と言う訳です。


いや今回のゲームだってみんなが大好きなヒロイン付きですよ。

このお方は抜群のプロポーションと、誰をも寄せ付けない気位の高さを持っています。

時おり見せる微笑みは天使そのものですが、ひとたび柳眉を吊り上げれば心臓まで凍り付かせる冷酷無比な美少女です。


その氷の女王の名は『K2』

このなんとも無機質な名前こそが個性となっている世界に冠たる標高8611メートルの高峰です。


一部のマニアにして我が同志の方は『蒼天の白き神の座』のラスボス「K0=ニコノサ」を思い出すでしょうか。


さてグーグル先生に聞いてみるとこちらのK2山頂、真夏の昼間で気温-24℃。

我がロッカールームとの温度差60度以上ですよ。

これでは涼しいを通り越して凍死まったなし。


今回ご紹介するボードゲーム『K2』ではこの難攻不落の山頂、数多のクライマーたちを飲み込んだ魔の岩壁へと挑むことができます。


ポーランド製のゲームですが、言語依存が一切ないためルールさえ理解できれば何語版でも構いません。

Amazonあたりのカートに今すぐ放り込んでしまいましょう。

プレイ人数は1~5人。ソロプレイにも対応の優れものです。


雪の稜線を行く二人の登山家が描かれたパッケージを開封すると、まず目につくのが山頂からベースキャンプまでK2の全貌が描かれたゲームボードです。

山頂の高度8611メートルは先ほど申し上げましたが、ベースキャンプの高度がすでに5000メートル!

富士山頂が3776メートルですから、まさに異世界での冒険なのです。


ゲームの内容は極めてシンプル。

自分に与えられた2人の登山家をK2山頂にアタックさせ、生還させる(重要)こと。


手番で取れるアクションはカードで決まっており、移動・ロープ・順応。

移動は文字通りマップ上のルート移動、ロープは移動の変種、独特なのは順応です。


高山病や高地順応なんてフレーズを耳にしたことがありませんか。

本来の生活環境から離れた高地の薄い空気の中で活動すると酸素不足の体が能力を発揮できないというアレです。

私も3000メートル超級の山で喉の渇きに負けて何杯か余分にビールを飲んでしまい、地獄の二日酔いに襲われた……と言う人を知っています。


それは兎も角、高地への順応は順応度(別名ヒットポイント)と言うポイントで管理され、ゲームスタート時の順応度はわずかに1。

これが0になる事は登山家の死を意味しますので、順応度を上昇させるカードはとても重要です。

またベースキャンプ辺りで手番を終わりにすることによっても順応度はわずかに上昇します。

二人の登山家を一人で受け持つ都合上、一人はベースキャンプあたりでゆっくりと高地順応に努め、一人は頂上に進みながらカードで順応させるというのが王道。


ただ、王道で頂上まで進めるほど『K2』は甘いゲームではありません。

まずは時間制限、ゲームは18日間(ターン)で終わりです。

多少の無理をしても、前に進まなくてはなりません。


アクションのカードはプレイヤー毎に個別のセットとなっていますから、いずれは欲しいカードが引けます。

自分の使ったカードを記憶しておいて山頂へのアタックチャンスの際に手札が最高になるように行動計画を立てておくのが理想なのですが……


更に悩ましいのは天候です。

この天候は快晴からアイスストームまで毎日移り変わり現在の高度が高いほど登山家は天候の悪影響を受ける……要は順応度が下がります。

山頂付近で嵐に見舞われれた暁には、どんな名登山家でも命を落とす事でしょう。

幸い天気予報と山男の経験によって最大6日先までの天候はボード上に表示されていますので、登頂のタイミングは慎重に見計らいましょう。


……これも例によって計画的には行きません。

「これからしばらく晴天続きだ、一気に山頂にアタック!」

と浮かれたものの手元のカードに強い移動カードが全くないとか、順応を後回しにして一気に7000メートル近くまで進んだところで天候が急変してきた!

嵐を避けるために泣く泣く下山するのか、それとも手持ちの順応カードと設営したキャンプで天候回復するまでひとまず凌ぐのか。

こうした苦しい判断を迫られます。


体調・行動計画・天候となかなかベストを揃えるのが難しい中でとどめを刺してくるのがライバルの存在です。

好天がしばし続く最高の登頂日和(無論氷点下二ケタです)には全プレイヤーが一斉に頂上を目指します。

ただし『K2』では山頂と言っても尖った岩場、登山ルートと言っても岩壁にしがみ付きザイルが結んだ垂直路です。

高度が低いうちは譲り合って一マスに何人かが入る事ができますが、頂上近くではそんな余裕はありません。

他の登山者に阻まれて進めないでいるうちに天候が悪化し、泣く泣く登頂をあきらめるのは日常の光景です。


こうした艱難辛苦を乗り越えた先にあるピークへの登頂はもちろん最高点ですが、登山者はK2への到達高度に応じて点数を手に入れる事ができます。

一方で命を落とした登山家の点数は仮に登頂成功者であってもゼロ。


これは何としても「生還せよ!」というデザイナーの強いメッセージでしょう。

現実生活では山菜採りやハイキング程度の山行であっても傾斜路を滑落したり、ルートを見失っただけで命を失う事があります。

現実のK2に挑む人々は世界最高クラスのクライマーたちですが、それでも事故が絶えることがない『非情の山』。

軽々しく登山家の命を危険にさらす行為には厳しい評価が待っています。


そう『K2』は逃げて行きません。

再プレイすれば良いのです(あれれ)


更なる歯ごたえを望む方はゲームボードを裏返すと出てくる「高難度ルート」で、かつ天候ボードを「冬季」の条件にしてプレイしてみましょう。


プレイヤー全員が無口になり、部屋の気温が体感3度下がったのは気のせいでしょうか。

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