ゾンビサバイバルTRPG≒カツカレーうどん

唐突ですが皆さんは「ゾンビ」お好きですか。


ブードゥー教の秘術?

謎の天体からの放射線?

巨大企業や軍の生み出したウィルスや寄生虫?

負の物質界からの力の投影?


ええ無理矢理に色んな設定をくっつけてでも動きまわる死体です。

私はこのゾンビの出てくるゲームというのが、かなり好きなのです。


「謎の洋館で特殊部隊とゾンビが鉢合わせ」

「大量のゾンビで溢れたショッピングモールでの生存生活」

「南国リゾートに水着のゾンビ大発生」

「ゾンビによる終焉が近づく世界でおっさんと少女のバディストーリー」


昔からこんな話を聞いただけで我慢できなくなって、結局ハードウェアごと購入したりする事になります。

これはボードゲームでも同じですので飛び散った人体のパーツやらぬるぬるした液体やらが描かれた悪趣味な箱がゲーム棚に次々並んでいく訳です。


逆にゾンビ映画のDVDなんかは殆ど持っていませんから、ゾンビは「眺めるより一緒に遊びたい派」なんでしょう。

「ホームセンター ゾンビ」なんて検索すると同好の士が多すぎてびっくりしますね。


さて電源ゲームやボードゲームも楽しいのですが、ゾンビに満ちた世界の中でもっと好き放題したくないですか。


例えば……無人のコンビニで食品を食い散らかしたり、略奪したライフルを不慣れな手つきで試射したり、価値のなくなった日本銀行券でモノポリーしたり。

こうなれば最も自由度の高いゲーム、テーブルトークRPGの出番です。


しかしゾンビが出てくるTRPGは山とありますが、ゾンビが主体のTRPGはあまり目につかないのが非常に残念なところです。


例外的な傑作として一つ上げるのなら『永い後日談のネクロニカ』。

ただ、これは自分がゾンビ少女になるゲームですので、ちょっと嗜好が違いますね。

ゾンビ少女同士の無垢で耽美な会話を楽しみ「はらわた」をまき散らし(!)戦うこのゲーム自体は非常に魅力的なのですが。


今までゾンビを主体にTRPGするためには、ホラーやらサイバーパンクやらのシステムに自作の調味料(この場合はゾンビパウダーと言うべきでしょうか)を振りかけて自作する必要がありました。


しかし遂に国産ゾンビTRPGが市販されたのです。

その名も『ゾンビサバイバルTRPG ダイス・オブ・ザ・デッド』です。

ゾンビでサバイバルでTRPGですよ。もう我慢も限界です。

さっそく私と一緒にAmazonのカートに入れる……際には同名のボードゲームがありますので、お間違えの無いようにお願いします。


それでは『ダイス・オブ・ザ・デッド』タイトルが長いので以降『DOD』のルールブックを開いていきましょう。


ゾンビ化ウィルスによる大規模感染が発生して、外部から封鎖された現代の東京。

ここを舞台として人類サイドの共同体(コミュニティ)の生存の為の闘いが『DOD』のテーマの様です。

そしてPCたちはゾンビ感染が途中で止まっている存在「ハーフゾンビ」として人類と共闘していくという設定の様ですね。


うーむ……


キャラクターメイクは最近では少数派になったランダム決定型。

「頭・腕・脚」と言う何を意味しているのか分かりやすい能力値から始まり、職業や特殊能力までサイコロ2個振るだけでどんどん決まっていきますので非常に簡単です。


サンプルキャラを使わなくても15分もあればPCの完成です。


様々な現代の職業の中で、警官や軍人ではなく学生こそが最強の能力を持っているのは、いかにも日本のゲームらしいですね。

さて、これだけキャラメイクが簡単なのはキャラの消耗が激しいからなのですが、それは後程のお楽しみ。


『DOD』の典型的なシナリオは所属する生存者たちの共同体のためにPCが何かをするというものです。

不足してくる食料や資材を持ち帰る、他の共同体との交渉に赴く、生存者を救出するetc


こんなちょっとしたおつかいも、ゾンビまみれのこの世界では命がけです。

ゲームが始まれば度々、成功失敗の判定のためにダイスを振る事となります。


『DOD』の判定はユニークな形となっていて、ダイス目には優劣がありません。

サイコロの目のそれぞれが能力値に対応しています。

1.2が脚、3.4が腕、5.6が頭ですね。


ゾンビから走って逃げるなら、「脚」の能力値に1.2の目が出ているダイスの数を足して成功/失敗を判定する訳です。


このダイスはゲームマスターも含めた全員が1人3個持っています。

舞台が変わったり、戦闘中のラウンドが終了する度にテーブルの真ん中で一斉にガラガラと振ります。

このダイスの塊から順番に一つずつダイスを取っていく「ダイスドラフト」というシステムが採用されています。


判定を行う時にダイスを振るのではなく、既に手持ちになっているダイスで判定を行う逆転の発想です。

この手持ちのダイスは能力値による判定のみならず、PC所有のアイテムの使用にも使われますから誰がどのダイス目を取るかは悩ましい所です。


「4の目で拳銃の準備ができたぜ、次のドラフトまで頭の5/6残しておいてくれ」

「6の目で救急セットを拾いたいけど、GMがイヤらしい目つきで5の目を見ているよ」

「脚の1の目を1つ拾えば私だけは逃げられるね……」


誰か一人が得意分野で高い判定値を出せるようにしておくのか、全員がそこそこの判定結果を出すべきなのか。

また皆で話し合って拾うダイスを最適化しようとすればGMが拾ってしまいます。

判定にもちょっとしたジレンマがあるというのは楽しい所です。


ではみんな大好き戦闘の話です。

多くのTRPGでは問題解決の方法として、戦闘が採用されていますが『DOD』も例外ではありません。


と言うより無慈悲な暴力を向ける対象としてゾンビは最適というのがゲーム業界の共通認識ではないでしょうか。

人間の頭を銃で撃ち抜くのはまずいけどゾンビならOK。

『デスレース2000』の様な自動車で人間を轢きまくるゲームはまずいけど、血を緑色にしてゾンビだった事にすればOK。


ゾンビに対して気の毒な気もしてきましたが、相手もこちらの脳みそを狙ってますのでフェアな関係だと思いましょう。


通常ゲームの戦闘というのは「敵を全滅させること」が主な目標になります。

ところが『DOD』ではゾンビを皆殺しにしたところで、ゴールドも経験値も入りません。

それどころか手持ちの銃弾は撃てば減りますし、本来と異なる目的で酷使した金属バットは曲がって使い物にならなくなります。

戦闘資源(リソース)を維持しなくては、最後まで生き残っていられないでしょう。


戦闘では常にPC側が先攻、そしてPCが手持ちのダイスを使い果たすまで行動してから、ゾンビのターンが始まります。

そして命中判定も回避行動もありません。いわゆる「ヒットポイントで受ける」システムです。

ゾンビのターンまで進めば確実にPCの誰かがダメージを受け、そして「感染」します。


ですから『DOD』に於ける戦闘の目的は敵の全滅ではなく、行く手を遮るゾンビを最低限だけ倒してここから逃げ出す事。

効率良く「腐敗したゾンビ」の頭を撃ち抜いてゾンビターンでの危険を減らす。

「走るゾンビ」の脚を断ち切り逃走の難易度を下げる。

目端が効いたり、武器を失ったPCは辺りのガラクタからバールやら包丁やらを拾い集める。

そして逃げられる時に逃げておく。

そんなスタイルが推奨されます。


でも秩序を保って戦い、足並みをそろえて逃げる……ってゾンビ映画はあまり見た事がないですね。

はい『DOD』では逃走の判定は個別に行いますので、なかなか逃げられないPCも出てきます。

「俺はまだ大丈夫だ、お前たちが先に行け!」

1.2と言ったダイスを他人に譲り渡してゾンビの渦に飲み込まれていくヒロイックな最期や「何で逃げずに一緒に残ってくれたの?」「お前が最後の1の目を取っちゃったからだよっ!!」と言った恋人同士プレイもできる訳です。


で悲惨な最期を遂げても、先ほど言いました様にキャラメイクは簡単。

デスペナルティも軽め、獲得経験値3点が死亡ごとに1減るだけです。

いわゆる残機3つ制のTRPGですので無残な最期を楽しみましょう。


貴重な物資を失い、犠牲は払いましたが、無事戦闘は終わりました。

さてその次、ゾンビ映画の一つの肝として「ゾンビは感染する」というものがあります。

派手なスプラッターアクションの後、友人や恋人の様子がおかしい。

または必死に我が子の傷跡を隠そうとする母親がもたらしてしまう惨劇。


『DOD』にもこのシチュエーションは盛り込まれています。

なんとゾンビ化したPCは他のPCをロストさせてしまうのです。

キャラクターシートには3×3の感染枠があり、PCはゾンビに噛まれるたびダイスを振りここを塗りつぶしていきます。

ビンゴゲームの様に縦横斜めに揃うたびに人間からかけ離れていき、2ライン以上揃っていると見事ゾンビ化です。

この感染枠は自分以外にはゲームマスター含めて誰にも見せてはいけませんので、全員手元を隠しながら疑心暗鬼にかられた目つきでお互いを見る事になります。


そして、ゾンビ化が疑われるPCを指名して多数決で「追放」するという行動がとれます。

ゾンビに近づくほど能力値が上昇すると言う皮肉なルールから、あまりに高い達成値を出して活躍するほど仲間に疑われる事になったりします。


ここでゾンビ化した仲間に「ロスト」させられたり、「追放」されても、すぐに次のキャラクターを作って参加することが出来ます。

このくだりしつこいようですが、キャラクターにとっての無残なストーリーをプレイヤー本人へのストレスにせず楽しめる良いシステムです。


独特なゲームシステムによるゾンビ物の再現と言う点で非常に興味深い『ダイス・オブ・ザ・デッド』を紹介してきました。


最後に一つだけ、この『ダイス・オブ・ザ・デッド』の設定について。

PCたちはゾンビになりかけの「ハーフゾンビ」としてゲームに参加します。

ハーフゾンビは食物を必要とせず、活動できる時間が限られ、人類と共生しないと生きていけない。


サバイバルもので食料を得ると言うのは最も魅力的なシチュエーションの一つです。

特にゾンビ物においては人間に噛り付くゾンビとの対比と言う点で「美味しい」シチュエーションの演出がいくらでも考えられます。


また活動時間帯の制限をされると「夜明けのゾンビ」「真夜中のゾンビ」「白昼のゾンビ」といった魅力的な描写がしづらくなります。


ルール的にも残機制PC達は消耗品です。

世界を救うためのマイクロマシンも入っていなければ、その身に聖痕を刻んだ勇者でもありません。

PCが特殊な「ハーフゾンビ」であるなんて設定をつける必要があったのでしょうか。


そんな濁ったゾンビの目でルールブック全体を眺めてみると、ルールブック自体が「一般公開版」に見えてきます。


実際には行われているであろうゾンビ化による「仲間喰い」を「行方不明」と称する。

ゾンビ化を恐れて行われる仲間への「私刑」を「追放」と書くなど。

なんとなく無難な方へと消毒してしまったのが残念です。


ゾンビ物の大きなテーマの一つは「禁忌への挑戦」

何故か子供だけは不自然なほど犠牲にならない映画が多い中、平然と歩き回る子供のゾンビがその象徴ではないかと唇の端から腐汁を垂らして言ってみます。


最後に余計なことを垂れ流してしまいましたが、でもこれはTRPG。

ルールを購入して、卓の仲間が楽しんでくれるのなら、自分自身の望んだ演出でのゾンビ映画『ダイス・オブ・ザ・デッド ディレクターズカット版 特別特典付き』を作り出すことができるのです。


皆様ぜひプレイを!

そして世界に更なるゾンビを!

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