クレオパトラはお見通し!
最近話題の何とか市場の移設とか、五つの輪っかやサッカーボールと一緒に札束が飛び交う大会とか、大がかりな事業ってのはどうしても悪を内包します。
さらには電波の押し売りとか、公認カルテルとか……もっと危険なあれやこれや。
つまり全部!
これらに対して現代社会の歪とか、グローバルがどうの、商業主義がどうのとか言う前にゲーマーたる者、自らが古き良き公共事業を実践してみましょう。
今回ご紹介するのは『クレオパトラと建築士』
エジプトの女王クレオパトラに命じられて神殿の建設をすると言うゲームです。
日本語版はありませんが、言語依存する部分はカード数種類だけですので、翻訳ルールが付いているものならプレイも容易です。
ちょっとお高いですが、このゲームの中身の豪華さには間違いなし。
プレイ人数の3~5人で頭割りしてでもAmazon辺りのチャリオットじゃなかった、カートに入れてしまいましょう。
今言いかけましたが、このゲームでまず人目を引くのはコンポーネント。
箱を開けてゲームのセッティングを終えると、目の前には建設中のエジプトの神殿が現れるはずです。
『クレオパトラと建築士』は未完成の建築物を置いておく「石切り場」
スフィンクスなどが置かれる「前庭」
メインの建築物やタイルが敷かれる「神殿」
と言う3枚のボード上でプレイしていきます。
優れているのは神殿を表現するのに、ゲームの外箱まで使うところ。
箱の上に「神殿」ボードを載せ、そこに「前庭」ボードを付けてやると、立体的な神殿が出来上がります。
文字通り「箱もの公共事業」と言う訳ですね。
外箱の側面にはちゃんとエジプト壁画が描かれていると言った芸の細かさも素晴らしい。
これに終わらず、飾り門やスフィンクス、玉座の間と言った建築物も全て立体のプラスチックミニチュアになっています。
プレイ中には完成させたこれらを指定された場所に置いていく訳です。
みんなで神殿を建築している達成感がひしひしと伝わってくる素敵なデザインではないでしょうか。
さて肝心のゲームのプレイは非常にシンプルで手番にできる事は以下の二つのどちらかだけ。
①建築するための資材カード(大理石やら木材やら人足やら)を集める
②資材カードを使って建築物(スフィンクスやら玉座やら)を建て、「報酬」をもらう
最終的に「報酬」を一番多く持っているプレイヤーが勝者となります。
建築物を建てる際、まとめて複数建てるとボーナス報酬が出ます。
出来る事なら資材を十二分に集めてから着手したい所ですね。
……ところが、その合理的な考えが既に「悪」への第一歩なのです。
『クレオパトラと建築士』の中では悪は「堕落」と言う名のトークンで表されます。
まず、先ほどの資材カードは10枚までしか持てません。
これを超えてしまった場合10枚になるようカードを捨てた上、強欲の罰として「堕落」を1枚受け取ります。
または資材を保持し続けて10枚を超えた分だけの「堕落」を受け取るという手もあります。
ただ後者を選んだ場合、次の手番で手札を減らさないと再び「堕落」を受け取る事になりますが。
この資材カードですが、厄介なことに中身の見えるものと見えないものがあります。(カードを表と裏に分けてシャッフルするのです)
これらを3枚まとめて取りますので、その時自分が必要としている資材が来るとは限らないのです。
苦労の末に手に入れた資材ですが、この資材カード自体ににも「堕落」マークの入っているものがあります。
ブラッドダイヤモンドの様な不道徳な手段で手に入れられた血まみれの資材なのか、はたまた見栄えが良いだけのごまかしの三級資材なのか……
どちらにしても、こうした資材を神聖なる神殿の建築に使用すれば「堕落」を受け取る事になります。
しかし、あなたは「堕落」した資材を使わずにいられるのでしょうか。
先ほど言いました様に手札は原則10枚までで、ペナルティなしで捨てる事もできません。
おまけに「堕落」した資材は通常の資材2枚分の価値があるのです。
「納期に間に合いそうにないから、仕方なく」
「まともな資材を使っていたんじゃ、ライバルに仕事を取られちまう」
「この業界では、みんなやっていることだから」
人間の悪は古代エジプトから何ら変わっていなかったようです。
建築費としてクレオパトラから受け取った「報酬」は金額を伏せて置き、「堕落」は個々人の手元のピラミッド(もちろんこれも立体)の中に隠しておきます。
ですから、誰がどれだけの「報酬」と「堕落」を持っているかは、大よそにしか分からないと言う訳です。
まだ、これでも人間の悪が足りないとばかりに資材カードの中には「堕落した人脈」が入っています。
他プレイヤーから「報酬」や資材カードをせびり取る「乞食」
捨て札から好きなカードを抜き取る「遊女」
大量の資材を一気に得る「宰相」なとなど。
どれも大変有効ですが、使用した暁には当然「堕落」を得る事となります。
こうして増えていく一方の「堕落」ですが、ゲーム中減らす機会がわずかにあります。
一つ目は「タイル」。
建築物の中にはテトリスのブロック状のタイルがあります。
これを神殿の中に敷いて陣取りを行い、他プレイヤーがタイルを置けなくしたエリア分だけ「堕落」を捨てることが出来ます。
都合の悪いものは埋めてしまえと言う訳ですね。
もう一つは「献金」。
プレイ中「神官長への献金タイム」がランダムに発生します。
イベントが発生したらプレイヤーは「報酬」をこっそり手の中に握りしめて一斉に公開!
おめでとうございます。もっとも多額の献金を行ったプレイヤーは「堕落」が若干減りました。
残念ながら二位以下のプレイヤーは逆に「堕落」が増えますし、もちろん捧げた「報酬」も返ってきません。
こうして、多くのプレイヤーの悪を飲み込んで神殿は徐々に形作られていきます。
神殿が完成し、女王クレオパトラがその大扉の前に立った時、ゲームは終了です。
「報酬」をオープン……する前にまずは「堕落」をチェックします。
「堕落」が最も高い建築士は「報酬」を開く権利すら与えられず、哀れナイルのワニの餌にされます。
生き残ったもの同士で「報酬」を比べて、最高の建築士を決定するのです。
このゲームでユニークなのは悪のコントロールです。
「堕落」なしで建築作業を行うのはほぼ不可能。
「堕落」でトップにさえならなければ良いと油断していると、ライバルが献金やタイルで急ブレーキを掛けてきてワニの餌食にされる。
トップ二人が競りすぎて「堕落」同率で仲良くワニの餌。
ろくろく建築をしていない(比較的)善人が何故か勝利なんて事も1回だけありました。
上と下、すなわち発注元と下請け業者、クレオパトラと人足、栄光の地位とワニの餌、を交互に見ながらの建築士稼業「クレオパトラと建築士」いかがでしょうか。
えっ、わざわざゲームの中でまでそんな立場をやりたくない?
いえいえ現実ではワニの餌食にされるのは「堕落」トップの人ではないんですよ。
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