ゲームブックしようよっ!

ゲームブックと呼ばれる書籍群がかつて存在しました。

プレイしたことが無くても、こんなフレーズは聞いた事があるのではないでしょうか。


そんな呪文は存在しない。体力ポイントを5点引く事

14へ行け

さあ、ページをめくりたまえ


ゲームブックを過去形で言ってはいけませんね。

今でも出続けています。


ただその大半を占めているのがフラグ管理のある分岐小説やパズル的なもの、と言うのが私には少々残念なところです。


人は何のためにゲームブックをするのか?

そこにゲームブックがあるから……ではなくて、

冒険の疑似体験をするためですよね。


冒険もののライトノベルを読むでもなく、

スマホのRPGで遊ぶでもなく、

みんなでテーブルトークRPGをやるでもない。

ゲームブックでこそ味わえる冒険とは?


まずライトノベルとの違いは選択肢がある事。

それこそ地下迷宮での分かれ道の左右の選択から始まり、立ちふさがる門番を力技で切り倒すのか、賄賂の金貨を贈るのか、口から出まかせを並べ立てるのか、それこそ「選ぶのはあなた」です。


先ほどの分岐小説は空手で気楽に遊べる反面、この部分が弱いのが残念です。

乱数を使った戦闘、多くの場合ではサイコロを振る様なシステムでは、貴重なリソースである食料や金貨そして体力と言った要素が選択を複雑にします。


攻撃力+1の剣は残り少ない金貨を使ってでも買うべきものなのか、それとも金貨は無法者を避けるための宿代として取っておくべきなのか。

ここには絶対の正解はありませんし、「正しい」選択をしたところでサイコロの目に見放されれば、それまでです。


冒険記録紙に細かく自分の能力や持ち物を鉛筆で書きつけて、二つのサイコロをそれこそナイフの柄の様に握りしめる。

この一見めんどくさい行為こそが、冒険に没入するための儀式となります。


隕鉄から鍛えられたクロムの長剣の凄まじい切れ味や、エクスカリバー・ジュニア即ちE・Jがどれだけ頼りになる旅の相棒なのか、分岐小説では我が事として感じられないでしょう。


スマホやコンシューマーのRPGとの違いは「繰り返し作業の少なさ」です。

レベルアップを目的とした戦闘の楽しさも認めますが、現実世界の数時間から数日間でストーリーが次々に展開し、収束するダイナミックさは全てが文章で表現されているゲームブックならでは。


*もっともコンシューマーRPGでも『Fallout』や『マスエフェクト』の様にアナログゲーマーに危機感を持たせる作品が増えてきている事は間違いありません。後生畏るべし。


最後のテーブルトークRPG。

一見ゲームブックの上位互換の様に思われます。

しかし、あなたがスティーブ・ジャクソンや鈴木直人級のゲームマスターに巡り合える可能性は非常に低いでしょう。

またソロプレイでもない限り、TRPGは集団遊戯です。

良かれ悪しかれ仲間同士のコミュニケーションの要素も大きく、自分一人が文字通り命がけの選択をするといったゲームブックとは冒険の味付けも変わってくる気がします。

容赦ないデッドエンドを繰り出してくる著者との攻防、これもゲームブックならではの醍醐味でしょう。


ゲームブックに興味を持って頂けた、もしくは懐かしさに笑って頂けたでしょうか。

興味を引かれた方はAmazonマーケットプレイスで古本も含めて当たってみて下さい。

その際、変なプレミア価格のついているものを買う必要はありませんよ。


このゲームブックから1タイトル紹介しようと思いましたが、何にしましょうか。


その歴史的な意味と、一つの地下迷宮だけを舞台とするが故の描き込みが素晴らしい『火吹き山の魔法使い』


作者のブレナンが魔術師マーリンのコスプレをして、目の前にいるような気がしてくる軽妙皮肉な『ドラゴンファンタジー』


「プレイヤー自身」が魔法を「憶える」独特のシステムと4巻続きものならではの伏線の張り方、問答無用の傑作『ソーサリー!』


タイムパラドックスと陰謀に常に翻弄される、時間SF連作の『ファルコン』


中二心満載の「最後のカイ戦士」設定と極悪に強いソマースウォードが印象的な『ローンウルフ』


楽しいタイトルが幾つも浮かんできますが、今日紹介したいのは今はなき社会思想社の現代教養文庫から『ギリシャ神話アドベンチャーゲーム』3部作です。


迷宮のミノタウロスの逸話に名高い英雄テセウス。その彼が道半ばにして倒れていたらと言うIfから始まる物語。

読者はテセウスの弟アルテウスとして兄の仇を討つべく、その足跡をたどる旅を始めるのです。


次回に続きます。

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