『クク』わたしのためにコインを積み上げてっ

「あなた方は田舎の酒場に夕食を求めた。

奥の薄暗いテーブルでは地元の農夫たちがマグを片手に見慣れないカードで遊んでいるようだ。

そのテーブルの中央には銅貨が数十枚積まれている」


我々がさんざん見てきた風景ではないでしょうか。

主としてテーブルトークRPGのプレイの中で。


ただこれを具体的にやってみよう、などと考え始めると一苦労じゃなかったですか。

熱燗した赤玉ポートワインにラーメン用のテーブルコショウを振りかけて、

「これが中世風異世界のワインの飲み方だ」などと言いながら顔をしかめてマグカップで飲んでみるとか。

ああ恥ずかしい。

グリューワインなんてものが、まだまだ知られていなかった頃の話です。


一方の農夫たちがやっていそうなカードゲームを想像するのはもう少し難しかったです。

なにせトランプは日常的に『大貧民』や『51』辺りで遊んでいるためか、異世界の遊びにはほど遠い。

それよりは和風のゲーム、ローカルルールの入りまくった『花札』とか、非合法な雰囲気の『カブ札』の方が、それこそリアル「田舎農夫の遊び」でした。

しかし、中世ヨーロッパ風の異世界で「桜に短冊」はないだろうって?

大丈夫ですよ。対応表を作って花札のカード名を異世界風に読みかえれば。


同様の事をやった方も多いと信じて黒歴史を開陳してみました。


しかし、そんな黒歴史を更新する必要はもうありません。


今回ご紹介するカードゲームは如何にも「異界の遊び」感を強く持っています。

なにせ数百年前のヨーロッパのカードゲーム復刻版と言うのが、その売り文句なんですから。

中世と呼ぶにはちと厳しいですが、その雰囲気は十二分に味わえる筈です。


そのカードの名は『クク』


*私の手元にあるのはアークライト社製日本語版の旧版です。

カードの中身やルールなんかは色々なバージョンがあるようですのでご注意ください。


王冠をかぶったフクロウが描かれた小さな箱を開けると、ライオン、バケツ、ネコ、そして今のフクロウ等、様々なな絵柄や数字の描かれたカードが出てきます。

カードは全部で20種類が2枚ずつ入って40枚。


各カードには絵柄以外に点数と謎めいた句が書かれています。

「私に挑むものは全て滅び去る」と書かれた男のカードや

「猫の呪いはさかのぼる」と書かれた猫のカードなど。


意味が分かったような分からないようなフレーズと、古いトランプやタロットを思わせる絵柄にドキドキしてきます。


では早速『カンビオ』で遊んでみましょう。

えっ『クク』を紹介するんじゃなかったのかですって?

どうやら『クク』はカードの名前で『カンビオ』がゲームの名前のようです。

『トランプ』と『大貧民』の関係とご理解下さい。

いろいろなゲームが『クク』カードで遊べる筈なんですが、私は『カンビオ』しかプレイした事がありません。

「ククやろうぜ」=「カンビオやろうぜ」ですね。


『カンビオ』すなわち交換という意味のタイトルのこれは、いかにも酒場のギャンブルといった遊びです。


まず全員がコインを『ショバ代』もといゲームの参加費としてテーブル中央に支払う所から始まります。


その後カードを各人に一枚ずつ伏せて配りましょう。


第一プレイヤーは手札を見て「チェンジ」か「ノー(チェンジ)」かを宣言します。

「チェンジ」でしたら次の手番のプレイヤーと一枚しかない手札を交換、「ノー」ならそのまま終了です。

次いで次のプレイヤーが同様の手順で交換を行っていきます。

最後のプレイヤーは第一プレイヤーと交換するのではなく山札が交換の対象となります。


全ての交換が終わったらカードをオープンし、もっとも数値の低いプレイヤーが「敗者」としてコインをテーブル中央に払って1ラウンド終了となります。


ちなみに最弱のカードが太陽を抱いたライオンの-3で、最強がフクロウの15です。

いかにも夜長を楽しむゲームと言った雰囲気ですね。


ラウンド中に役札の効果でカードをオープンすることすらできず「敗者」同等のペナルティを受ける「失格者」が出ることもあります。


ラウンドが進むにつれて「敗者」「失格者」が払わなければならないコインの枚数は増えていきます。

これが一定の枚数に達するとゲームは次の局面に入ります。

「敗者」「失格者」になるとゲームへの参加権を奪われてしまうのです。


こうして一人減り二人減っていき、最後の一人になったプレイヤーがテーブル中央に山と積まれたコインを総取りする。

こうしたゲームの流れとなります。


ラウンド中にプレイヤーが取れる行動は「チェンジ」か「ノー」かを決めるだけ。

非常にシンプルなゲームです。


『カンビオ』の肝は「敗者や失格者になりさえしなければいい」というところです。


例えば自分が0のカードを持っていたとしても、前のプレイヤーが1のカードで「チェンジ」してきたら、「敗者」になるのは前のプレイヤーにほぼ確定です。


自信を持って自分の手番では「ノー」が言えるでしょう。


この様に「チェンジ」の後の手番で「ノー」が出れば、前のプレイヤーが損な取引をしたと考えるべきです。

問題点はそれがどれくらい損な取引なのかです。

後の手番の低い点数のカードのプレイヤーは思案のしどころです。


それに加えて、先ほど少しお話しした役札の扱いがあります。

「チェンジ」の対象にならない上に、点数も高い安全志向の「家」や「馬」

最弱の点数でありながら「チェンジ」を受けても、自分がしても、その相手を失格させる「道化師」

自分と「チェンジ」しようとするカードの元々の持ち主(!)を失格させる「猫」

カード名でもある「クク」すなわちフクロウは最強の点数を持つ上にその場で交換を打ち切れるという極悪な能力です。


ただ「敗者」が出ただけではテーブル中央の供託金はそんなに増えません。

こうした役札を効果的に使って一人でも多くの「失格者」を作り、他のプレイヤーのコインを搾り取りましょう。


自分が最後の一人になってテーブル上のコインをざらざらと手元に集めていく行為には、なんとも言えない優越感があります。

紙やプラスチックのコインより金属コインを使って快感倍増と言いたいのですが、このルールで金属コインを使うのは流石に不味い気がしてきたのでガラスのおはじきでのプレイとか如何でしょうか。


楽しい『カンビオ』ですが、何度かプレイしている内にただの運任せのゲームなんじゃないかと思う方もいるかも知れません。

自分がアクションをする前に、前プレイヤーに「道化師」を渡されて失格。

-2のカードをチェンジしたら-3がくる。

こんな時はどうやっても負けていたからダメゲーと叫びたくなるかもしれません。


その考え方はおそらく間違っています。

長くプレイを続けていくと『カンビオ』が明らかに強い人と言うのは存在します。


自分が何をしても負けるラウンドは存在しますが、それで失うのは所詮数枚のコインです。

肝心なのは最後のコイン総取りの場まで残って勝つ事。

使われた役札の枚数を出来る限り憶えておき、対戦相手の顔色を窺って無作法にならない程度にハッタリをかましましょう。


それでも一対一の総取り局面で相手方にフクロウが渡るのまでは防げませんが……


プレイ人数は4~10人位までと良い意味でラフ、ルールも今説明した通り簡単です。


今すぐAmazonのカートに放り込み、この夏の夜にはワインクーラーやジンジャーエール片手に異界のギャンブラーになってみませんか。

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