我ら遊戯の駒なり、投げ込まれる者なり『ポンペイ』
魂の映画を10本挙げろと言われれば必ずその映画は入ってきます。
『ポセイドン・アドベンチャー』
間違ってもリメイクの『ポセイドン』じゃありませんよ。
1972年版、私の生まれる前のパニック映画。
大波で転覆し、天地逆(!)になってしまった豪華客船ポセイドン号から脱出を図る乗客達の物語です。
この時代の映画ですからCGなんてありません。
床から天井に向けて次々に落下していく人々、巨大クリスマスツリーを使った脱出、上下逆になったトイレなど、印象的なシーンは全てセットと特殊撮影で撮られています。
でも、この映画の真の面白さは豪華客船でのクリスマスパーティーから命がけの状況に突然叩き込まれる人間たちの生き方です。
「状況が変わっている事に敢えて目をふさぎ、専門家や権力者にすがって命を落としていく乗客たち」
「自分の判断に仲間の命が掛かってくる急造リーダーの孤独」
「理由もなく降りかかってくる死、怯える人々の中でそれぞれの信仰を問われる聖職者たち」
つい理屈っぽく書いてしまいましたが、娯楽パニック超大作です。
二時間ドキドキして、余韻の残る良い映画ですので、これ以上色々コメントする事はありません。
すぐにTSUTAYAに駆け込んで100円で借りてきましょう。
で、この『ポセイドン・アドベンチャー』を元ネタにしたゲームがあります。
スーパーファミコンの『セプテントリオン』
『ポセイドン・アドベンチャー』の天地逆になった船内セットも素晴らしい作りこみでしたが、この『セプテントリオン』も負けてはいません。
当時としては画期的だったスーファミの回転機能をフルに使って激しく揺れる船内と不安定な足場を演出しています。
アクションゲームですから、その中を実際に自分のコントローラーさばきによるジャンプや生存者への指示で乗り切っていくのです。
ランダムに変化する船内状況はパターンでは攻略出来ません。
二人の生存者を連れて移動中に、自分だけ上段のテラスに昇ってしまう。
切り離されたテラスから下の仲間に手を差し伸べて引きずり上げる。
まず、一人。
ちょうどその瞬間に船内で爆発発生!画面がぐらりと揺れ、伸ばした手に届かなかった次の生存者は画面下に真っ逆さまに転落し、もう動かない……
聞こえた悲鳴は犠牲者のものか自分のものか。
一瞬頭の中が白くなるものの、進み続ける時計に目をやり、一人になった生存者と共に上のフロアに向かう。
こんなシチュエーションがムービーでもなんでもなく、リアルタイムに発生します。
更にこの生存者たち一人一人が固有の名前を持った人間なのです。
死んだ者は帰ってこないと言う非情なゲーム性は挑戦心を否応なしに、かき立ててくれます。
スーファミのゲームですので入手は難しいと思いますが、何らかの方法でこの過去の傑作をプレイして頂ければ幸いです。
リメイク版のプレイステーション版『セプテントリオン』というゲームもありますが、全くの別物ですのでこちらはプレイする必要はありません。
そんなところまで『ポセイドン・アドベンチャー』と同じかよっ!!
あれ、このエッセイって『映画見ようよっ!』とか『スーファミしようよっ!』でしたっけ?
いえ、大好きな映画とゲームを紹介したので前振りが長くなってしまいました。
『ポセイドン・アドベンチャー』を始めとしてパニック映画を見る時、我々は二つの視点で楽しんでいます。
一つは生存者の視点。主人公になりきって眼前の危険に息を呑み、無事一難過ぎればほっとする。
もう一つは無責任な神即ち観客の視点。異常気象を軽んじる船長や静かに燃え広がる炎といった破局への伏線に頷き、災害で破壊された建物や悲惨な最期を遂げる無辜な犠牲者に奇妙なカタルシスを感じてしまう。
今回、この二つを能動的に満たせるボードゲームをご紹介します。
『ポンペイ』
長らく絶版状態でしたが、第二版が出ましたので今すぐAmazonのカートに入れてしまいましょう。
今回の紹介は手元の第一版ですので、多少違いがあるかもしれませんが大本は一緒の筈です。
ポンペイと言えばベスビオ火山の噴火で一夜で滅びたとも歌われるローマの都市です。
『ポンペイ最後の日』なんてのも有名ですね。
この噴火から、自分の住民をいかにして救うかがテーマの2〜4人用対戦ゲームとなります。
箱を開けるとポンペイの街が描かれたゲームボードが出てきますが、その一角にどどんと立体造形されたベスビオ火山が鎮座しています。
テーマがベスビオの大噴火である以上、ここが地味ではダメですから良いデザインですが、開いた火口の中に<謎のスペース>があるのが気になりますね。
『ポンペイ』は大きく分けて二つのステージに分かれています。
まず第一ステージは「ポンペイを作ろう」
ポンペイの区画番号が入ったカードを使って、自分の色の住民コマを配置していきます。
既に誰かが入っている建物の空きスペースに配置すると、縁者としてボーナスで配置できます。
親類知人を頼ってポンペイに出てきたわけですね、可哀想に。
プレイヤーはもう近々大噴火が起きる事を知っていますので、唯一の脱出場所であるポンペイの城門に近い位置から住居が次々に埋まっていくことでしょう。
またカードの中には「前兆」と書かれたものが混ざっていまして、これの効果は「住民一人を突然死させる」
ですから城門に近い住居では住民が次々に不審な死を遂げて、色が入れ替わっていくなんて事が起きがちです。
死んだ住民のコマはどうするのかと言いますと、なんとベスビオ火山の火口に放り込むのです。
ようやく山の中の謎のスペースの意味が分かりました。
かくしてポンペイの街が生贄で一杯になったころ、正確には噴火カードが二回出た時にベスビオ火山が大噴火を起こします。
カードはもう使わないので片付けて、第二ステージ「ポンペイから逃げよう」の始まりです。
ゲーム付属の布袋から溶岩タイルをガンガンと引いてポンペイの地図上に配置していきます。
溶岩タイルにはシンボルが描かれていて、地図上の同じシンボルの場所に置かなければなりません。
逆に言えばシンボルが合ってさえいれば好きな場所に溶岩を置ける訳ですね。
もちろん住民コマに溶岩が接触すれば即死して火口行きです。
このポンペイのあちこちに溶岩が流れ込んだ段階から決死の脱出行が開始されます。
第一ステージでポンペイのあちこちに入居させた自分の住民コマを城門の外に逃がさなくてはなりません。
一回の手番で動かせるコマは2つだけ、それも通常1コマしか動けないのです。
そして移動が終わると再び溶岩タイルを引いてきて、市内に流れ込んだ溶岩を伸ばしていきます。
自分の手番で引く溶岩タイルは、できる限り自分のコマから遠い位置に配置したいところですが、他のプレイヤーは喜々としてあなたの住民を炎の地獄に送り込むはずです。
一旦置かれた溶岩をどかす方法はありませんので、城門への脱出ルートが寸断され後は死を待つのみという住民も発生するでしょう。
城門付近の住民には脱出まで時間的な余裕がありますので、ゲーム開始直後は安全圏の城門付近の住民はとりあえず後回し、また絶対に助からない区画の住民は見捨て、きわどい区画の避難を最優先するトリアージを行う必要があります。
絶望的な状況ですが、救いとなるルールが一つだけありました。
「同じマスに自分のコマが集まっていると移動力が人数分まで増える」
『ポセイドン・アドベンチャー』を彷彿とさせるシチュエーションですよ。
個別におたおたと逃げるのではなく、役割を分担し、協力して避難にあたるのです。
溶岩が迫り、絶体絶命の区画の住民を取り敢えずの安全地帯に集め、移動力を増やし危険地帯を一気に駆け抜ける。
もちろんこの戦術では避難が進んで人数が減っていくと移動力も減りますので、最後の何人かは仲間の踏み石としての犠牲にならざるを得ません。
また溶岩がある程度までプレイヤーの意思で置かれるため、必死に逃げる住民の後ろから悪意を持っているかの様に(実際に悪意で動いているんですが)溶岩が猛スピードで迫ってくるなんて事にもなります。
逆に呉越同舟で複数プレイヤーの住人が集まっている辺りには、なぜか溶岩が入ってこない。
もちろん、このつかの間の避難場所も、ある色の住人が逃げ始めると共に突然進み始めた溶岩に押し潰される訳ですが。
この様にしてプレイは続いていき、自分の色の住人を最も多く生き延びさせたプレイヤーこそが勝者となります。
阿鼻叫喚の大地獄の筈なのですが、プレイ感はあまり悪くありません。
最初に書いた様に、このゲームではプレイヤーは同時に二つの役割を演じます。
片や仲間と協力して必死に生き延びようとする生存者。
片や多くの住民が住み繁栄したポンペイを作り上げた上で噴火で破滅させる無慈悲な神。
この神の立場が、一歩引いた視点を与えてくれているのか。
それともポンペイと言うタイトルが生身の人間たちの悲劇を2000年の歴史に置き換えてくれる為でしょうか。
無事、生き延びて郊外の丘から見る無残な街並みにあなたはどんな感想を持つのでしょう。
『ポンペイ』お勧めのゲームです。
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