第14話 ラノベの主人公はなぜ大団円のままで物語を終われないんだろうか?
で、今日も先輩達に引っ掻き回されて、くたくたになって帰って来た荻野寮の自分の部屋だった。
史上最大の修羅場と言われてもたかをくくって向かった現場。それは自分の予想を遥かに超えて、人間と言うものについて深く考えたくなるような、恐ろしいものだった。
それは……
いややめとこ。
食事も、風呂も終わって、やっとショックも薄らいで、くつろぎ始めた時にあの現場の事は思い出したくない。
でもどうしても考えてしまって……
とその時に、
「兄様、どう? ちゃんと部活慣れた?」
しばらくぶりにちょうどかかって来た妹からの電話が救世主になった。
いつもはうざいと思うけど。今日は、話してれば、あの修羅場の事を考えるのを忘れられると思うとグットタイミング。まさしく神的タイミングだった。
それに、そういや今日は、こいつに言いたい話があったんだ。
自分が入った部の部長が浦戸のアニキだったと言う事と……
「なあ、びっくりだよ。浦戸のアニキって女だったんだぜ。ニキじゃなくてネキだったんだぜ」
と仰天情報を伝える僕。
「え……!」
と声を詰まらせる萌葉。
ほらやっぱりこいつもびっくりして何も言えなくなっていると思ったが、
「はああ? 馬鹿じゃない。それも知らなかったの? まるで男の子みたいな女の子だったからみんながふざけてアニキって言ってただけじゃないの? まさか本気で男の子だって思てったの? いくらなんでも、あんな綺麗な顔をした男の子が……」
すぐに怒濤のように僕に話して来る萌葉。
どうも、びっくりして声を詰まらせたわけでなく、そんな事にも気付いてなかった僕に呆れて、一瞬声が出なかっただけのようだった。
つまり、なんかずっと壮大に勘違いしていたのが自分だけと分かり、
「いや、そんな事は知ってたよ。冗談だよ、冗談……」
と思わず見栄をはって言い訳をするが、
「そもそもねえ……小さいときから兄様はそそっかしくて……」
何時ものように小言の口火となりそのまま小一時間は説教され、そして、電話が始まる時以上に、疲れきってしまう僕。
学校で疲れ、部活で疲れ、部屋に帰って来ても疲れ、このままでは全く癒しもないままに一日が終わってしまう。それに気を抜くとあの修羅場をまた思い出してしまいそうで。
でも……
いや! そうだ!
僕は、その瞬間、昨日リック先輩の教えてくれたインターネットサイトの事を思い出した。
凄腕ハッカーではあって、その面は少し警戒するけれど、新新聞部のなかで一番普通の感性を持っていそうなリック先輩。
そんな人が、紹介してくれた癒し動画(中身は聞いてないが動物か何かか?)を見れば、そんな動画を見る感性の人があの部活にもいるんだと思えば明日もあの部活でも頑張ると言う活力も出て来るのでは。なんか共感の持てる人がそばにいると思うだけでと僕は考えたのだった。
それに、そこまですごい動画じゃなくても、他の事を忘れられるだけでも今の自分には役に立つだろう。
なので、昨日送ると言っていた、先輩のメールを僕は探し……
「あ、あった」
その本分にかかれたURLをクリックし動画の始まるのを待つ。
それはとても癒される、感動の動画だと言うのだけど。
しかし……
「リックってそれかよ……」
僕は、リック先輩本人が歌い踊る、リック・アストリーの"Never Gonna Give You Up"の再現動画を呆然と眺めながら嘆息した。
果たしてこの先、自分は、このくせ者ぞろいの新新聞部でちゃんとやって行けるのかと頭を抱え、しかし何故か自分が少し微笑んでいる事を不思議に思いながら……
ラノベの主人公はなぜあまり新聞部には入らないのだろうか? 時野マモ @plus8
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