第13話 ラノベの主人公も事件が解決したら休息くらいあるんだよね?
今回の事件の後日談、結末を僕、山屋敷青葉は最後に語ろうと思う。
それは必ずしもすべてすっきりとしたものではなかったけれど、盆にこぼれたミルクは戻らないと言うじゃないか(少し違う?)、つまり起きてしまった事は二度と元に戻らない。
ならば僕らはその結果を僕らは受け入れるしか無い。できるのは、今この時点で考え動けるのは、その結果からさらにどう進むかと言う事しかないのだ。
だから僕はそれを語りたいと思う。
それは良いものも悪いものもあるけれど。少なくとも、僕らは、あの結末から先に進み始めている。
例えば……
「ねえ、ほんと、青葉君。ほんと、ホワイト新聞の連中、鈴木やめさせないつもりみたいだね。ほんと、びっくりだね」とマチ先輩が言う。
先輩の言う通り、あの鈴木は今もまだ新聞部にいる。
その話を聞いた時、僕も確かにびっくりした。
新聞部は、あんな事をした鈴木をそのまま部に残し、彼らの中で責任を持って更生させる事にしたと言うのだ。
部に大きな迷惑をかけた男をそのまま受け入れると言うのだった。
中々にできる事ではない。
いや、鈴木の学校による処分自体は思ったよりも軽いものだった。
自分を見捨てない新聞部の仲間を見て彼自身ひどく反省していた事と、新聞部の仲間の必死の弁護もあり、余り事件をおおっぴらにしない形での停学一週間と言う事で学校側とは手打ちになったのだ。
なんとも、こっちとは大違いに青春しているあっちの方の新聞部だが、うがった見方をすれば、あまりスキャンダルを大きくしたくない学校側も適度なところで話を収めたいと言う希望が合ったのかも知れない。
いや、これは僕がこの頃ひねくれ過ぎて、何でも疑って思ってしまっているだけなのかもしれないが……ともかく、色々な事情や思惑が入りながら、こっっそりと停学になった鈴木——彼の起した事件は、新聞部どうしの裏取引もあり、思ったよりは騒ぎは少なく済んだとは言える。
でも新聞部の信用問題まで発展しかねない悪行をはたらいた男なのだ。
その彼を、復帰後にまた新聞部は厳しくも温かく受け入れた。
それに僕はびっくりした。
もしかしてここで人生がめちゃくちゃになったかも知れない彼を新聞部が救ったと言う事なのだ。
部に多大な迷惑をかけ、そして実際に許されぬ行動をしていた彼に帰る場所、立ち直る場所が用意されていたのだった。
——実際、新聞部員の中には反発も多かったと聞く。
そんな犯罪者がいると部の権威に傷がつく。そもそもそんな男を助ける必要は無い。
しかし、部長に、
「であるのなら、あなた達は、生まれてから一度も悪の心を持った事が無いのですか! そんなわけは無いでしょう! なのに、その自分の心を許しこの部室に居座るのに、鈴木を許さなくとも良いと、あなた達はなぜ言えるのですか」
と一喝されて反対は一気に無くなったと聞く。
なんとも、凄い事だ。僕は新聞部部長に感心を通り越して、怖れさえ感じる程であった。
どんな人なんだろう。なんか怖い感じもするが一度会ってみたい気もする。
そんな事を僕が言ったら、
「……ああいやでもこの後会う事になるだろうさ。それまでは、あえて会おうとしなくても良い御仁だぞあれは」
と意味深な事を言うハル先輩。
「……それでもなんか興味涌きますね。少なくとももこんな事よりは」
僕は、駅ビル二階のコーヒーショップから、眼下で他校の女生徒を口説いている二年三組のエンターティナー北山を監察しながら大きなため息をつく。ああ、何で僕はこの部に入ってしまたのだろうか? と何度目か分からない心からの後悔を感じながら。
……ああ、そうだ。
僕は——結局、うやむやのうちに僕はまだ新新聞部にいる。
鈴木/岩切事件の際の僕の我がままに付き合ってもらった恩もあるし、この人達が、もう実は判型まで作っていた鈴木の悪行の暴露の記事の乗った新聞を、今回の事情を考慮してお蔵入りにした言うのも、僕が考え直した大きなポイントだった。
何か今回の事件の最後の顛末を見ていると、この人達も空気読めると言うか、実は結構正義感強い良い人達なのかな? と言う気もして来る。
もちろんたまたまそういう事件に僕が関わった事での誤解かもしれないが、それにしても、それが誤解か本当のものなのか確かめないで、このまま退部してしまうのはなんか自分的にもやり過ぎのような気がして……
結局、取りあえず、僕はそのまま新新聞部にいる事にしたのだが……
「……こんな事って。これは結構面白い事件(ヤマ)なんだ……おお! 北山が、今、女に渡した贈り物をってあれ、前の前の女と別れる時相手に投げつけられて返されたネックレスじゃないか? そんなもの別の女にまた送るのか!」
「ほんと、そうだよ、間違いないよ。ほんと。今の瞬間も写真に撮ったよ。前の写真と比べたら、ほんと、完全に一緒だよ。ほんと」
ああ、結局、毎日嬉々として三文スキャンダル狙い。それ自体もなんか嫌なのだが、何と言うか自分がこの日常に、慣れ始めて、自然に先輩達に混じり始めてしまっているのがもっと……
「ああ、先輩達、北山が動きますよ。どうするんですか?」
「おっ、奴め、何処行く気だ。なんか女の方は使い回しのプレゼントで完全に騙されている感じだぞ」
「これは、ほんと、行く気だね。エンターティナー本領発揮だね。どこだろ、ほんと、まだ明るいのに、ほんと、きゃはうふ、だね」
「追うぞ。きっとろくでもないとこに向かうはずだ、あのスケベそうな顔つきだともっと二人っきりになれる場所に……」
ハル先輩はポケットからスマホを取り出しながら言う。
「ほんと、そしたら、電話だね。彼女さんに電話だね。ほんと、修羅場だよ。見せ場だよ。でも彼女さんの依頼だよ。私ら正義の味方だよ」
「…………」
今日の取材の詳細を聞いてどっとやる気の失われる僕であった。
が、
「ほれ青葉君出発だよ、現場は急がないと逃げてくよ」
マチ先輩は僕の手を持ち、腰の重そうな僕を引っ張ってつれていこうとする。
しかし、その瞬間、
「そんなの、逃げてもかまわな……ってあれ?」
マチ先輩は、突然、その手を離し、僕の後ろの方をぽかんと見つめていた。
「ああ……なんだ青葉は今日はここで良いや。俺たちだけで行くわ」
ハル先輩も僕の後ろの方を見つめ言う。
なんだろ。
そう思い、振り返れば、
「こんにちわ」
里佳さんであった。
それを見てハル先輩とマチ先輩は、
「じゃあ後でな」と言いながら席を立ち、
手には、コーヒーのカップと、茶封筒を一封を持っていた里佳さんがその席に座る。
それを見て僕は、
「ど、どうしてたんですか、里佳さん。今まで……いったい……」
と言う。
実は、彼女は、あの僕の喧嘩の日以来、学校を休んでいたのだった。
いったい何が起きたのかと心配して、毎日気になっていたのだが、誰も詳細は知らないようで、僕は何が彼女に起きているのかひどく心配でいたのだった。
ところがその心配していた相手が、向こうの方から現れてくれた幸運に、僕は思わず息せき切って息急き切ったかのうような勢いで話し始めようとする。
「心配してたんですよ。何をしてたんですか里佳さん……僕は……」
色々一度に聞こうとして考えがまとまらず、要領を得ない僕の発言である。
そんな僕に里佳さんは落ち着いた様子で、
「まあ、まてよ、順番に話すから。それより先輩達について行かなくて良いの?」と言う。
それに僕は、
「良いですよ。あんなもん。つまらない事件(ヤマ)ですから」と返す。
すると、
「ふっ……」
笑われた。
「何ですか、こっちは真面目なのに、笑ったりして」
僕は少しむっとした様子で言う。
その様子を見た里佳さんはさらに面白そうな表情になりながら、
「いや事件(ヤマ)だなんてあんたも朱に交われば赤くなるって言うのか、ほんのちょっとの間に変わったなと思ってね」と。
僕は、事件(ヤマ)だなんて、確かにうっかり恥ずかしい言い方しちゃったなと思いながら、
「そ、そんな事ないですよ。あの人達とは、一線引いてますよ。僕は、朱に交じったりしないんですから……」
しかし赤くなった事は必死に否定する。
すると、
「ははは、そうだね。あんたはきっとあんただろうよ。でもあんたはあんたでありながら、新新聞部の連中に交わる事だってできるような気はするよ」と里佳さん。
「どう言う意味ですか?」と僕。
「まあ……詳しく問いつめられると困るけど、何となくだよ。何となく」
「何となくですか……まあだんだん居心地が良くなって来てしまってるのは否定しませんが、僕は心までは先輩達に売り渡しませんからね。悪い事は悪いと言って止めるつもりです」
僕の言葉を聞いて、里佳さんは首肯しながら、
「そうだな、それでいい」と楽しそうな口調で言う。「それでこそ君だし。あそこはそんな君の良い居場所になるんじゃ無いかな。何となくだけど」
「——はあ、やっぱり、何となくですか……じゃなくて!」
「じゃなくて?」
「僕の事なんてどうでも良くて里佳さんの話ですよ。いったいどうしてたんですかこの数週間。学校にも来ないで行方知れずで。心配したんですよ。また連中にちょっかい出されて危ない目に会ってるんじゃないかと思うと気が気で……」
「ああ、悪い悪い。ちゃんと伝えてから動いた方が良かったのかもしれないけど……」
里佳さんは僕にテーブルの上に置いてあった茶封筒を渡しながら言う。
「そこの熱血漢にそいつの準備するのの邪魔されちゃ困ると思って。それ、今日出して来たのよ……それ控えだけど」
僕は受け取った茶封筒の中にある一枚物の書類を出す。
それは——退学届。
書類は家庭の事情で退学する旨と名前と住所だけが書かれた極々シンプルな物だった。
こんな紙切れ一つで……
「里佳さん!」
「——ほらやっぱり。そんな反応になるのね」
彼女は今まで守った物を捨ててしまうと言うのか。
そんな……そんな事はあってはいけない。
そう思った僕は、びっくりしながらも、必死に言う。
「当たり前です。いろいろと耐えながらここまで守って来た学生生活を何であっさり捨ててしまうんですか!」
「おいおい、少し落ち着いてよ。あんまりカッカならないで」
「だめですよ。これが落ち着いていられますか! 直ぐに取り消しに行きましょう。いっっしょに事務の人に頼んであげますよ。なんなら事務の人と刺し違えてでも……僕なんでもしますから」
「おいおい、事務のおばさん相手に何をするきだよ——」
「何でもします。何でしますから」
僕の言葉にぐっと力が入る。
しかし、
「気持ちは嬉しいんだけど……近いよ」
僕は思わず、いきおいがついて里佳さんの顔にぐっと自分の顔を近づけて叫んでしまっていたのだった。
僕の顔は、不自然な程に里佳さんに顔に近かった。
それを見て、クスリと笑った後に、
「なんだ、またキスして欲しいの?」と里佳さん。
僕は、
「あ……すみません」
慌てて顔を引っ込める。
それを見て、更に優しい微笑しながら里佳さんは言った。
「いや……本当に嬉しいんだけど……遠慮しとくわ……あ遠慮するのはキスじゃないわよ」
「分かってますよ、退学届の方でしょ。と言うかキスは……そりゃ嫌じゃないけど……そんな簡単に奪われると……僕にもプライドが……」
だんだんと小声になる僕に、
「ん? どうしたの?」
「いえ何でもなくて……」
会話の主導権は彼女の方に握られて、
「まあ、あの公園でも言ったじゃない。そろそろけじめつけなきゃて。もう限界だったのよ。私、あんな生活続けるのは。だから……」
「でも……」
「ふふ……あまり心配しないでよ。私、荻野学園は退学するけれど、何もかもあきらめるわけじゃ無いわよ。お母さんの実家に行く事にしたのよ。そこの近くの高校に転入するわ」
「はい?」
「せっかく入れた荻野学園にこだわって、無理を重ねて来たし、この間までは、このまま頑張れるんじゃ無いかなって思ってもいたけれど、結局無理をするとどっかがおかしくなるのよね。それなら、不自然無くやれるうちで一番良いのはどう言う選択肢なのかって考えた方が良いと言う事よ。だから、お母さんは実家で療養してもらいながら、私が無理無く行けるそこの公立高校に行く事になったわ。それくらいならお母さんの蓄えでもなんとかなりそうだし」
「でも……」
僕は、話を聞いて、里佳さんの決意と、実際その方が合理的な選択である事も理解した。でもそれでも……
「——私と別れるの寂しい?」
「え?」
僕は思わず口ごもる。もちろん寂しいと答えようとしたのだが、あまりに図星で幼稚な感情を言い当てられて動揺してしまったのだった。
「……いいよ無理しなくても」
「いえ、呆気に取られただけで、それはもちろん……」
「……ふふ、それも知ってるよ。あんたがどう思ってくれるかなんて。顔に全部……うん、そう思ってくれる人が最後に現れて嬉しかったよ」
と里佳さんは僕に向かって、今までで一番嬉しそうな笑顔を投げかける。
その笑顔だけでも僕は今までの事が全て報われたような気がした。
このまま、その笑顔をずっと見ていたいと思う位に。
でも、
「……じゃあこの辺で」
と里佳さん。彼女はもう腰を浮かしこの場を去ろうとしていた。
しかし……僕は、あからさまに、もう? とびっくりした顔になっていただろう。もう少し話していたい。その笑顔を見ていたい。そんな顔になっていただろう。
しかし、時間は止まらない。来るべき時は来て、行くべき人は行く。
残念そうな僕の顔を見ながら、
「……外にお母さん待たしてるんだ。流石に退学届私だけで出せないでしょ? まだ病気治りきって無いのに、無理して今日は来てもらったんだ——もう行かなきゃ」
と済まなさそうな顔で里佳さん。
「ああそんな顔するなよ。……分かってるよ。私だって君に会ったらこんな風に分かれが辛くなるの分かってたから……本当は、君にはもう会わずに消えるつもりだったんだけど。あんたのところの部長さんが退学届出しに行った学校で私を見つけてね、居場所を教えて貰ったら、どうしても会いたくなったのさ。でも思ったとおり、こんな風にあったりしたら未練できちゃうな……」
でも、行くべき人が行って、それでもさらに時間が過ぎて行くのなら、また会う日もまた近づいて来ると言う事で……
「——でも、そう! だからさよならは言わない。また会いましょうそしたら……」
「そしたら?」
「あんた、さっき、また軽々しく何でもすると言ったわよね」
「はい?」
「ふふふ、聞き逃さなかったわよ」
うわ。いわれてみれば、確かに言った事を、僕は思い出した。
この人もあっさり何でもするって言い過ぎるけど、つられて僕もこの頃つい言ってしまってる感じ。
いやこの人は僕ができないようなめちゃくちゃな事は言ってこないだろうと言う根拠の無い不思議な信頼感が僕にあるから言ってしまうのかもしれないが、
「た、確かに言いましたが」
今回は相手の悪戯っぽい表情に少し不安になる。
「それなら……今度会った時には」
「…………」
「ファーストキスよりも……」
「はい……?」
「あんたのもっと大事なもの頂戴ね」
「え……!」
その言葉に、僕が呆気にとられているうちに、
「じゃあねまた会いましょう」
あっという間に去って行く里佳さん——岩切里佳。
僕がそれをぼうっと見つめていると。
「何を考えている青葉」
「あ、浦戸の、いえ美風さん」
いつの間にか僕の横には部長が立っていたのだった。
「何を余計な事を考えている。『大事なもの』 = 『心』だろ? 他にあるのか?」
実際他の事を考えていた僕は慌てて、
「あっ、いえ……そうです」と、
少し自分の心に嘘をつく自分。
里佳さんは、こんな嘘つきな僕の心でも欲しいだろうか。
それともやはり欲しいのは心ではなく……
「さあ、行くぞ。青葉。ハルから連絡が入った。あの二人を持ってしても対処に困る史上最大の修羅場が向こうでは展開中だそうだ。応援に行くぞ!」
と僕に色々考える余裕も与えずに走り出す美風さん。
それにあわてて着いて行く僕。
走り出す僕。
前を走る美風さん。
すると、その瞬間、僕の中で何かが変わった。
今考えていた、もやもやも全て吹き飛んで、前を走る彼女について行く事だけに集中する。
そうこんな感じ。小さい頃、と同じような……
いろいろとまだ、この新新聞部には思うところがあるのだけど、この感じ。
この追いかけ、進む感じ。
これこそが僕がずっと求めていた……
道はその先にこそ開けていると僕にはこの瞬間確信したのだった。
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