善良なるオークのとある一日

cape

第1話 善良なるオークのとある一日

 やあ、良く来たな。こんな辺鄙へんぴな森の奥にまでオレの話を聞きに来たのはアンタ達で・・・・・・そうだ、十六人目だ。つくづく人間ってヤツは物好きな奴が多いな。あぁ、分かってる、分かってるさ。生態調査だなんて言っても本当に知りたいのはオレ達オークの事ではない事くらいな。


 ・・・・・・いいぜ、聞かせてやるよ。人間アンタらのお仲間の事を。


 オレオーク達の朝は早い。早朝、六時くらいか。森の中からの悲鳴が目覚し代わりだ。ほとんどが夜中に仕掛けていたわなに村の女が引っかかった際の悲鳴さ。本来はウサギやキジを採る為の罠なんだが、そのまま野放しにしておく訳にもいかないだろう。


 たまならいいがほぼ毎日だ。そんな訳でオレ達は五人編成で朝になると森を捜索するのさ。日課だから手馴れたもんだぜ。あぁ、今日出会ったのはまだ若い女だった。オレ達の姿を見るなり半狂乱になって泣き叫んで大暴れ。衣服もボロボロで手に持っていた野菜もブン投げる。


 なんとか罠は外したけどよ。罠を外すなり「もう動けない。村まで連れて行って欲しい」と。

 当然、そんな申し出は受ける訳にはいかないから断った。そうしたら今度は服を脱ぎ始めて「お代なら身体で払いますから」って。

 

 オレ達オーク族は人間達との間で不可侵条約を結んでいるんだ。だから人間の女と交わる事なんて出来やしない。そんな事をしたらただじゃ済まないからな。断るしかねーんだよ。


 しかしあまりにしつこくすがり付いて来やがるもんだから走って逃げたんだ。置き去りにするような形で悪かったとは思うがあれだけ元気なら村にも帰れるだろう。なにしろ2kmぐらい追って来やがったからな?あの女。

 

 何とか逃げ延びたオレ達は探索を再開する。すると茂みから音がする。お次は姫騎士だ。「くっ 殺せ・・・・・・」なんてお決まりの台詞セリフを吐いて毅然きぜんとオレ達を睨み付けて来る。


 コイツは不思議なモンでよ。どうやったらそんな罠に引っかかるんだって代物シロモノによくかかるんだ。拘束してる鎖を外してやると申し訳なさそうに「助けて・・・・・・くれるのか?」って、目を潤ませる。


 ここで対応を間違えるとられる。あくまで紳士的にだ。友好的に放流してやるとアイツ達は大人しく帰ってくれるものだよ。誘いに乗って手を出したりした日にゃ、カラッカラになるまでしぼり取られるぜ? 気を付けな。


 うまく逃がせたその後は、また探索を再開する。多い時には五十人ほど見つかるんじゃねぇのかな。姫騎士なんてそう珍しい物でもないし、むしろ魚で言う所の稚魚みたいなものさ。


 気を付けないといけないのはアマゾネスだ。コイツは危険だ。姫騎士だと思って近づいたらアマゾネスだった、なんてのはよくある話だ。コイツの何が怖いって理性が無いんだよ。


 うっかりしてると筋肉隆々の丸太みたいな腕で掴みかかってくる。オークだって筋力が弱い訳では無いが、ビクともしねーんだ。もし捕まったら最後、そのまま担ぎ上げられて森の奥に連れ去られる。・・・・・・元気でやってるかな、アイツ。もう生きちゃいねぇんだろうな・・・・・・。最後に聞いたのはあの断末魔だっけな。


 おっと、悪い。しんみりしちまった。どこまで話たっけな。あぁ、アマゾネスか。そうだな、その頃になると昼飯の時刻ぐらいだ。オレ達はスライムに捕まってしまった女らを眺めながら昼食を取る。


 残念ながらスライムに捕まった奴は運が悪いとしか言いようが無い。手を出せないからな。近づいたらこっちまで被害に合う。嫌だろ? スライムに捕まって、衣服を溶かされながらもだえる豚野郎を想像するなんてよ。・・・・・・え? 想像しちまったって? 悪いな。くっくっく。


 ま、遠目に見てる分には悪くない光景さ。うら若き乙女の肌が少しずつ露出されてくのは。それを肴に一杯やるのさ。


 それからは夕方近くまで触手に捕まった奴の救出や、魔物に襲われている奴の手助けだ。それが済んだら夜が更けるまでぶどう酒でも飲みながらこうしてゆっくりと過ごすんだ。そして朝が来たらまた探索に出掛ける。どうだい? 平穏だろう?


 勘違いしてる様だがオレ達は人間を襲う事なんてめったにないからな? 回数で言えば襲われる被害の方が多いんだ。見かけや在りもしない噂をでっち上げられて襲われるんだからたまったもんじゃねーよ。


 ま、中にはコイツみたいに分かってくれる奴もいるけどよ。え? コイツか? コイツは先日、森で触手に襲われてる所を助けてやったんだ。せっかく助かったのだから、そのまま自分の国に逃げ帰ればいいのにどうしてもって言うからこうして家に置いてやってるんだ。


 器量もいいし、まだ若いのにしっかりしてるぜ。将来はいい嫁さんになるだろう。はは、照れてやがる。ほら、お客さんに飲み物でも持ってきてやんな。悪かったな。こっちの事情で手間取らせて。さて、大体こっちが知ってる事は話したが役に立ちそうな事は在ったかい?


 生態調査の他には、人探しだっけ? 大変だなアンタらのところも。王女がいなくなるなんてな。え? さっきの娘をもう一度呼び戻して欲しい? あぁ、いいぜ。お安い御用だ。


 へへ、悪いね。待たせちまって。おう、来たな。さて、コイツに聞きたい事があったら何でも聞いてやってくれ。ん? 何だい、そのペンダント。ん? お前も同じ物を・・・・・・、まさか。


 まさか、アンタ王女様だったのか、・・・・・・へへ、そいつはいけねぇ。オレとしたことが、王女様にこんな事をさせるなんて、待ってくれ。本当に知らなかったんだ。信じてくれ。あぁ、そうだ。いや、本当に待ってくれ。続きは城で? って、勘弁してくれ。頼む、助けてくれ、本当に許してくれ・・・・・・。悪気なんてなかったんだ。信じてくれよ。


 は?王女様が気に入ったからこのまま結婚して我が国の王になってくれ・・・・・・?



 「・・・・・・そっちのが信じられるかぁあぁあぁあぁあぁあぁぁーーーっ!!! 」


 

 ―――数年後、とある国でオークと人間との完全なる共存を果たした、まったく新しい国家が誕生したのであった。ブヒ。 < 完 >

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