或る自転車
ことの始まりは昨日朝。
僕が店に出ると早朝シフトの男の子が「店長、先程お客さんのおじいちゃんが自転車間違えて乗っていかれたらしくて…」
どうも鍵かけないで店の前に自転車置いて入店、買い物済まして店から出ると代わりに違う自転車があったということらしい。
とりあえず、そのおじいちゃんの電話番号きいて。もしかしてガチで自転車間違えて乗って帰ったお客さんが気付いて返しに来たら連絡することにしたらしい。
代わりに置いてあった自転車はとりあえず預かったらしい。
結局その日は誰も現れ無かった。
そして本日。
朝六時開店から店に立っていた僕。
結構早い時間にそのおじいちゃんが来店。
良く来るおじいちゃんだった。
しかし僕は自分の目を疑った。
真剣に自転車のことを語るおじいちゃんの耳からは、僕の人生35年の間では見たこともないような束になった毛が出ていた。
それも両耳からだ。
おじいちゃんの話す内容は昨日店の子から引き継がれた内容だったので、とりあえず今日現れなかったらまた考えましょうと話して一度お引き取り願った。
その間も僕の目は耳の毛に釘付けだった。
昼過ぎ銀行に出て少し次女と遊んで夕方店に出るとまたおじいちゃんが来ていた。
後姿でも左右の耳から束になった毛が見えていたからすぐわかった。
パートのおばちゃんでは手に負えないので僕が話すともうおじいちゃんは自転車無くなったのが今日なのか昨日なのかもわからないでいた。
また自転車置いた場所なんかの説明もかわっていて>_<
僕はもしかしたらおじいちゃん自分の自転車わからなくなってるのかな?
と、思った。
しかし、とりあえずこれは自分の自転車では無い、誰が持って行ったのか?
と、おじいちゃんは最後まで訴えるので、昨日の話だと防犯ビデオには映らない場所の話しだったが、一度おじいちゃんを帰して昨日のビデオをチェックした。
すると…
全然話と違うとこに止めてる((((;゚Д゚)))))))
しかし、そのおかげでビデオにはギリギリ映ってる。
じ〜っと見る。
するとおじいちゃんの停めたすぐ横に停めてある自転車のおじいちゃんが耳毛のおじいちゃんの自転車乗って行った∑(゚Д゚)
耳毛のおじいちゃんの自転車は残された自転車より新しい自転車だった。
僕は、何て悪いおじいちゃんなんだ∑(゚Д゚)
と、思った。
そのおじいちゃんも見たことあるおじいちゃんだったので、僕よりも地域の方に詳しい僕の親に見てもらう。
「このおじいちゃん知ってる?」
親の顔が曇る。
「このおじいちゃん奥様が亡くなったばかりなんだ…」
∑(゚Д゚)ガーン。
奥様を亡くして憔悴したおじいちゃんは自転車を乗り違えたことにも気づかなかったらしい。
僕はどちらのおじいちゃんにもその時々疑ってしまい、凄く自己嫌悪。
何より必死に話すおじいちゃんの話にしっかり耳を傾けず、おじいちゃんの耳毛にばかり目が行っていたことにも反省した。
それにしても凄い耳毛だった。
ここ最近というか近年、高齢のお客様のトラブルが多い。
それにしても10年商売してて始めて見た毛だった。
その後お互いのおじいちゃんに説明して自転車はそれぞれの持ち主の元に帰っていった。
或る店 @pikax
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。或る店の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
思考のノート最新/@DojoKota
★0 エッセイ・ノンフィクション 連載中 6話
VIP? 10万円の紹介!新作/崔 梨遙(再)
★0 エッセイ・ノンフィクション 完結済 1話
茶うさぎから白うさぎへの手紙 2024最新/メラニー
★0 エッセイ・ノンフィクション 連載中 319話
創作活動日記最新/囀
★7 エッセイ・ノンフィクション 連載中 12話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます