或る店
@pikax
或る厠
こんにちわ。
以前壁一面に生米みたいなモノが飛び散ったトイレを掃除した旨を報告させていただいた者です。
今年最初の報告になります。
齢40近く生きて来ましたが、私の常識を遥か超えた体験をしましたので報告させていただきます。
いつものように配達を終えて店に帰ると妻とパートの女性が慌てふためいていました。
一体どうしたのか!?と尋ねると。
二人はうろたえながら、
「信じられない、なぜあんなことが起こるのか?人の身体からあのようなモノが生成されるものなのか?」
と、怯えていました。
私は焦りながらも、二人が指差すトイレの方に歩を進めました。
トイレには「使用出来ません」という貼り紙がありました。
私は意を決してドアを開けました。
そこには私の想像を遥か超える景色がありました…
ここからから先は、人によっては気分を害する表現や文章があるかも知れません。
なるべく直接的な表現は避けますが、ある程度許容出来る方のみ先を読み進めて下さい、よろしくお願いします。
それでは…
続けます。
ドアを開けると、
便器の奥底から縁まで横たわるモノが、チョコレートを薄めたような水たまりの中からこちらを伺っていました。
その周りでは身を崩しながら揺蕩(たゆた)うトイレットペーパーが舞っていました。
儚く舞うトイレットペーパーを見ながら私はこの後に待ち受けるであろう永い闘いを予感しました。
その様は正に武蔵坊弁慶でありました。
さしずめ腸という五条大橋での邂逅を経て、永い旅を続けた主君義経を下水に流すまいとその身を呈する武蔵坊弁慶であります。
私はその圧倒的な体躯を目の当たりにして、「これは私が引き抜かなければ業者さんに頼むしかないと確信しました。」
早速私はビニール手袋を3枚重ねて引抜くことにしました。
えぇ、私も手袋越しであれば躊躇などござしません。
しかし極力慎重は期したつもりではあります。
弁慶は私の想像を遥か超える重量、密度、硬度でもって私を威圧します。(紙粘土の固まりかけ位の硬さでした)
しかし、引抜く最中、ポロり。
と、ブロックのような連結部分より二つに別れました。
さながら宙を華麗に舞う牛若丸の如く…
私に掴まれ宙に浮いた義経(別れた片割れ)は用意された二重のビニール袋に素直に収まりました。
(義経で500mlペットボトル位はありした)
しかし次には闇の中に全貌を見せず立ちふさがる弁慶と対峙するのでございます。
浅はかな私は、「ここからならスッポンで押し込んだら行ける!」と、タカをくくってしまいました。
今考えれば残る弁慶もまだ見えている内に引き抜き一緒に供養してやるべきでした。
何度も何度も、それこそ降り注ぐ矢の嵐のやうにスッポンと水洗の水圧に身を晒し、尚も微動だにしない弁慶。
正にこれが弁慶の立往生でございましょう。
計らずも引き裂かれた主君義経を案じ尚も折れぬ弁慶。
相手はうん○とは思いながらもその姿には尊敬と畏敬の念すら感じました。
しかし永い永い闘いにも終わりは訪れます。
洗浄剤を5粒放り、1時間放置し、トイレットペーパーと5回の水洗とスッポンでもってとうとう弁慶も闇に飲まれて行きました。
かくして私が弁慶の全貌をうかがい知ることはこの先一生無いこととなりました。
以上が私が昨日体験したお話です。
オープンから12年目のお店が去りゆく私に最期に見せたファンタジーだったのでしょうか?
いえ、むしろこの弁慶生誕の間に身長2メートルに届こうかというお客様のご来店は無かったようでございます。
あれ程のモノがどうやってお腹に収まっていたのか?これこそが正にファンタジーだったのではないでしょうか。
敢えて二人の親は詮索しない。
これこそが死力を尽くし闘った彼等への私に出来るせめてもの供養と思いながら、筆を取らせていただきました。
長々とお付き合いいただきありがとうございます。
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