第5話 双子の悪魔

 とりあえず、今学園内で話題となっている事を幾つかあげてみようか。まずは学校行事。一学期にあるのは、まずは魔術決闘祭フェスティバルがある。一応、高等部は参加自由と言う事だったのでとりあえず俺等のクラスは参加する事にした。高等部は全部で八クラスの参加となる。開催されるのは一週間後。


 そして次に体育祭だ。一学期の中で一番大きいイベント。学園の体育祭はハードである。体力、知識、そして魔術をフル活用して行われる体育祭はある意味魔術決闘祭フェスティバルより魔術の使用量が多いかもしれない。


 そして三つ目は高等部一位の轟坂小梨とどろきざかこなし先輩のことだ。彼女を初めとする生徒会執行部は今現在四人。六位――狩亜純樹かりあじゅんき先輩が会計。四位――古東宝香ことうほうかさんが書記。二位――雲神春之美くもがみはるのみ先輩が副会長。そして一位――轟坂小梨とどろきざかこなし先輩が生徒会長。これが学園内のトップに立つ人間だ。そして今度、この生徒会と魔術決闘祭フェスティバルにおいてこの生徒会のうち三人がチームを組むということが明らかになっている。生徒会と手合わせが出来ることが珍しいのだ。


 最後に四つ目の話題。これは新聞部、ともに放送部が学園内に一気に広め、そして何より話題性が高い話。一人の男子生徒が十位の男子生徒に打ち勝つと言うもの。ランキング戦に関係はないが魔術決闘マジックバトルの話題が新聞部や放送部が取り上げるのは珍しかった。だが、取り上げなければならない理由がある。そう、勝った男子生徒、俺こと来城月下のランキングは最下位。そして勝った相手は十位。勝負になるはずがなかったのだ。だが俺は特殊な力、不完全な魔術マジックディフィシャンシでもなければ完全な魔術マジック・エンタイアティでもない力。そして新聞部の誰かが俺の力をこう呼んだらしい。


真実の魔術グレメリー・オブ・ザ・トゥルー


 俺の力が真実の魔術。そして本物の魔術。装置を使わずに己のエネルギーで発動させる奇跡。それが俺の魔術。だから俺は魔法使いじゃない。魔法は魔法マジック。魔術は魔術グレメリー。『魔術師』としての力だった。





「ああ、神様。俺は日頃から勉強や魔術に対して向上心を向けることはありませんでした。ですが、これからは一生懸命取り組みます。だから、だから神様。いいや、神様、仏様、おしゃか様、ご先祖様。この状況をどうにかしてくれぇぇえええ!」


 ええ、皆さんこんにちわ。来城月下です。すいません、初めから大きな声を出して。まあ誰だって後ろから物凄い数の生徒がデジカメやビデオ、マイクとかもって走ってきたら怖いよな? うん、それが今の現状だ。後ろにいるか方々は放送部と新聞部。三日前の騒動の張本人である俺にインタビューでもしたいのだろう。普通は受け答える。だが今回は断る! 俺の魔術は見世物じゃない。それ故に人にはあまり見せてはいけないのが魔術の基本の考えだ。


 俺の義妹の霧雨羅羽が開発したある一定の条件を満たした人物が使える完全な魔術マジック・エンタイアティと、誰でも使えるが完全な魔術マジック・エンタイアティより十分の一ほどしかない不完全な魔術マジック・ディフィシャンシはこの世界に溢れきっている。ちょと高めのおもちゃ感覚で魔術が世界中にあるが訓練されていない一般人が扱うのはたかが知れている。そこで魔術を社会的に使えるようにと設立されたのが数少ない魔術学校の一つ、清流学園である。


 魔術という存在はファンタジーではなく、科学の力で成立されてしまったのだ。


 それはさておき数日前の戦いで怪我を負い、先生の治療魔術でどうにか生きている俺。そんなことは今はどうでもいい。結局俺はこの状況をラン・アンド・ランという無限ループからは抜け出せていない。昼休み、俺は何時ものように廊下を歩いていた。歩いていただけだった。よし、ちょっと回想をしてみよう。


 何時ものようにラウの作った(うまいとはいえない)弁当を食べて、トイレに行こうと廊下を歩いていた。教室から約三歩、歩いたところでやつらはどこからともなく現れた。


「来城!! 取材を受けろ!」

「何故に!」


 突然現れた放送部と新聞部――二十人ほどの男子と女子。うん、目が逝ってるね。逃げた俺はヘタレじゃないよね? 普通に怖かったんだから逃げただけだよね? え? それがヘタレって? うん、俺もそう思う。


「来城とまれ! 俺等はただ取材をするだけだ!」

「黙れ! このメディアオタクども! お前等のせいで話が大きくなっただろうが!!」

「来城君、それは違うわ!」

「何が違うんだよ!? 言ってみろよ!」

『俺(私)達の妄想のなかの来城(君)さ!』

「かっこよく揃えて言ってみたけど、結局は間違った情報じゃねーか!?」


 先日、この放送部と新聞部はたいへん俺が不機嫌になるような事をした。まずは新聞部。俺の魔術は世界を壊して初めから作り直す事の出来るゴッドだとか、予知能力が彼には備わっていて、世界の終わりがいつなのか知っているなどなど、もう出任せのようなことをいちめんにして新聞を全校生徒に号外で配りやがった。おかげで変なオカルトマニアから五月蝿いぐらいに言い寄られた。


 次に放送部。放送部はお昼の放送にとんでもないような事をしでかした。放送の内容が俺のプライベート(主に家族である宝香さんをゲストに呼んで、ゲストトーク)をばらしやがった。何故そこまで知ってるの? というようなことまでばっちり全校生徒には知られてしまっている。


 そう言うわけで俺はこの二つの部から逃げている。な? ろくな事がないだろ? いままでもいい事はほとんどなかったが、今回は何時もの不幸より性質が悪いらしい。廊下をはしるな! と書いてあるポスターは今の俺達にとってはただの紙切れ。いつも紙切れだけど。


「こうなったら!」


 俺は曲がり角を右に曲がり、すぐさま「環境倉庫室」という場所に入った。ここは普段は使われないが学園の大掃除の時に使われる掃除道具が保管されている。すぐさまドアの近くでしゃがみこみ、鍵をかける。ドタドタとやってきた放送部と新聞部の会話が聞こえてくる。


「くそ、来城の野郎を見失った」

「うそー、私たち必死になったのに。まあ、いいや。私たちは次の新聞で使えそうな走っている来城君の写真がとれたし」

「俺等はまた古東さんにゲストにきてもらうか。何気にあの人のトークは人気があったしな」


 なんて会話をしながら立ち去っていくことを足音で確認した。今度新聞部に潜入して写真を回収。その後に宝香さんは俺の弁当で釣って放送を阻止するか。


 作戦を考えて立ち上がろうとした瞬間――後ろから気配を感じた。


「!」

「おっと、逃げないでよね。あたしたち、ずっと君がくるの待ってたんだから」

「そうです、こんな場所にいて肩がこっちゃた」


 俺の耳元から聞こえる同じ声。いや、少しトーンの高さが違うような……。まあそれは良しとしておこう。俺が言いたいのは、何故俺は後ろにいる二人の人物から抱きしめられているかが分からない。後ろから感じる軟らかい感触と声からして二人は女子生徒だろう。え? 見分け方が変態っぽいって? 仕方ないだろ、あたってんだから。


「えっと……」

「ああ、いいよいいよ。言いたいことは分かっているから」

「私達が誰だか知りたいんでしょ?」


 そう言って二人は俺の腰に回していた腕を離した。しゃがみこむような体勢だった俺はすぐに立ち上がり後ろを振り向く。そこには見たこともない女子生徒が二人。そして何より双子だった。片方は赤いリボンで地面につきそうな茶髪をツインテールにしている。一方の方は青色のリボンで同じく長い茶髪を右の横の部分だけ結んでいた。


「私が姉の七瀬幹奈ななせみきなです。高等部の三年生で放送部の部長。ランキング二十五位よ。よろしく」


 どうやら青いリボンで片方だけ結んでいるのが姉のようだ。


「あたしが妹の七瀬幹穂ななせみきほね。新聞部の部長。同じく三年でランキングは姉さんの一個下の二十六位よ」


 ツインテールの方が妹。姉がおしとやかで妹がやんちゃのようだ。


「……七瀬先輩――」

「なんですか?」

「なによ?」

「……」


 面倒くさいな! 双子だとここまで間際らしいか!? ちなみに俺が呼んだのは姉の幹奈さんのほうだ。彼女は話が通じそうだが、妹の方は一筋縄では行かないようだ。なので俺は姉の方を呼んだつもりだったのだが……。


「ああ、名前で呼びなよ。姉さんと区別する為にはそれしかないからね」

「私もそれが良いと思います」

「そ、それじゃ幹奈さ――」

「なんであたしじゃないのよ!」

「ぐふっ!?」


 殴られた。何故か幹穂先輩に殴られた。一方姉は「あらあら」とか言ってマイペース。自分の妹が暴力振っているんだから姉として止めろよ。それに幹穂さんのパンチは予想以上に痛かった。伊達に二十六位ではないということなのか?


「……そんで、幹穂・・先輩は俺にインタビューしたいんですか?」

「そんなに強調しなくても……ま、そう言うことね。あたしとしてみれば個人的な用事もあったけど」

「個人的な用事……?」

「そうそう、あたしが知りたいのは貴方の魔術よりもあなた自身を知りたい」

「はぁ、俺自身?」


 殴られた頬を擦りながら幹穂先輩を見た。その目は少々釣りあがっており、何かまた不機嫌になるような発言を俺がしたようだ。俺は自分でどの言葉で怒らせたのかが分からない。俺の言葉のどこが悪かったんだ。まぁそれは今から幹穂先輩が言うと思うけど。


「あんた、私はあんたのことを知りたいっているのよ?」

「そうですか……で? 怒っている理由は?」

「……」


 みるみる幹穂先輩は顔が赤くなりトマトのようだ。俺の警告ランプが点滅を始める。「今逃げないと明日の朝日は拝めない」と。こうなったら逃げるが勝ちだ。すぐさま後ろを向いて走ろうとしたが――


「ちょっとお待ちください」

「おわっ!?」


 幹奈先輩に捕まった。左腕を捕まれ、女の子なのにまったく俺はびくとも動かない。この姉妹はもしかして握力とか普通に60を超えているんじゃないんだろうか? 現に俺の左腕の骨が軋む音が聞こえる。うん、間違いなくあと一分ほどで折れるね。


「……先輩方、俺を殺す気ですか?」

「うるさい! あんたは言葉の意味を知らないの!」

「なんのですか!?」

「せっかくロマンチェックに告白したのに……ってあんたは!!」

「最初の方をぶつぶつ言われて聞き取れなかったのに突然キレられてもこまるんですが!」

「幹穂、私がいるのに抜け駆けなんて……仕方ありません。折ります」

「折るって俺の左腕!? 違うと言って! 幹穂先輩の心を折るんですよね!? そうですよね!?」

「姉さんも相変わらず見かけによらず大胆ね。こうなったらあたしも……捻り折る」

「捻って折るなよ! それも心ですか!? それとも俺の残された右腕ですか!?」

「首」

「首」

「まさかのとどめをさす!? ちょっとあんた等! ここで学園密室殺人事件になっちゃうから! ジャンルが変わっちゃうから!」


 なんなんだこの先輩達は……。





「おつかれぇー、ライライ」

「おつかれぇー……」


 なんとか先輩達を俺の腕から振りほどき、ドアをぶち抜いて逃げてきた。教室に帰った頃にはすでに授業が始まろうとしていた。ギリギリセーフと言う事で許してくれたが、俺の左腕はギリギリアウトでシャープペンシルが握れなかった。あ、俺ちなみに左利きね。そんなわけで保健室にシップを貰いに行って今帰ってきたところだ。もう授業は終わっていた。


「まさかシップを探すのに五十分フルに使うなんて……」

「災難だったねぇー」


 俺の机の前に腕を後ろで組んでいる少女――国塚が心配そうに……ではなく楽しそうに俺の顔を覗き込んでいた。俺は机にひれ伏すように倒れこみ、もう限界の状況だった。


「大丈夫か、来城?」

「隈井……お前も道連れになればよかったのに」

「さらっとひどいな」


 ついでに隈井が俺の机の周りに集まる。まぁこのメンバーが集まるのは大抵予想通りだ。何時もこうやって集まっているから。


「今日の授業は先生達の会議でもうないみたいだし、帰って休んどけ」

「ああ、そうするよ」


 そう答えて右手を上げる。すると隈井は微笑して俺の手を叩いた。これは昔から俺と隈井の暗黙の了解で行われる合図だ。これをした時は「ありがとう」の意味である。心配してくれた隈井に「ありがとう」と伝えておいたのだ。これを使っているのは俺と隈井、そしてラウと隈井の妹である隈井玲虎くまいれいこちゃんだ。レイコちゃんはラウと仲良くやってくれているようでたまに家に遊びに来る仲である。俺のことを「ツキ兄ぃ」と呼ぶ。「月下」のツキの部分でそう呼んでいるんだろう。


「そいや、レイコちゃんってランキング何位だっけ?」

「突然どうした?」

「いや、ふと思っただけ」

「レイコは中学部二位で生徒会副会長。ラウちゃんが生徒会長でランキング一位だろ? それなりに仲いいもんな、あの二人」


 ああ、そうだった。この隈井兄妹は二人そろって成績優秀だった。俺は特にない……ってわけでもないか。ラウが一位で俺は最下位。ただし、真実の魔術グレメリー・オブ・ザ・トゥルーという特殊な力の持ち主。この四人はある意味似ていたのかもしれない。


「疲れているところ悪いんだけどねぇー、ライライ」

「ん? なんかあったのか?」

「えっと、今度ある魔術決闘祭フェスティバルね。ノアとクマクマ、そして三人目にライライがうちのクラスの代表だって知ってる?」

「…………」


 ほら、俺の日常は崩れた。

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霧雨ラウの魔術公式 猫之宮折紙 @origami0608

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