虹の下で殺して

言無人夢

1

 そして目を開けば、私はまた顔のない男たちに犯されていた。

 彼らの欲を満たすためだけの一方的な略奪。快楽なんてない。ひたすらな屈辱と侮蔑。粘膜接触。前後運動。

 どこかの草むら。炎天下で木漏れ日があるとはいえ、暑い中よくやる。

 痛みに眉をしかめる以外、無抵抗を貫く。叫んでも殴られる。逃げようとしても殴られる。そんなことはとっくの昔に学んだ。頭が朦朧として相手の人数はわからないけれど。たぶんたくさん。だから今日も無抵抗で、彼らが私を消費するのに飽きるまで目を閉じる。

 殴られた。


   ※


 私はボーリング場にいた。投げる直前だったらしく。バランスを崩して尻もちをつく。

 背後で笑い声がした。私の友達だった。

「ゆっきーまた?」

 席に戻ると一人が尋ねてきた。

「まぁね」

「大変だね」

 それで終わりだった。


   ※


 最初に打ち明けた時は、何か勘違いしたらしくこの上なく憤って警察に相談しようと持ちかけてくれたけれど、私の事情を仔細に知るに連れて微妙な顔になった。

「それで、ゆっきーは相手の顔を覚えてないの?」

「というか顔がなかった」

「……それでそのレイプの前後の記憶もない?」

「気を失うの」

「そして目を開けたら、服も傷もなくて元いた場所に立ってるって?」

「精液は残ってるよ」

「………」

 疑うような目。

「でもゆっきーついさっきまで私らと一緒に授業受けてたじゃん」

「私はその記憶がなくて、朝のHRの後すぐ、レイプされ始めてたんだよね。で、終わってから昼休みに戻ってきた」

「頭おかしいんじゃない?病院行けば」

「そうかも、その方がいいかもしれない」

 付き合ってられないとばかりに肩をすくめた。

「彼氏には言ったの?」

「言ったよ」

「……最低だね」

「何が?」

「………」


   ※


 彼はひと通り彼女と同じ反応をした後。

「……ごめんな」

 そう言って私を抱いた。どこまでも甘く、優しい性交だった。

 ここに至ってようやく、友達も彼も私が嘘を吐いたと思っているのだと気づいたのだけれど、もうどうでも良くなって黙って抱かれた。私の快楽を優先するように、奉仕するように。彼は罪人のように腰を振った。

 よがりながら震えながら、私の芯の部分は冷め続けていた。

 それでも私は昼になればレイプされるのだ。


   ※


 生々しい肉の感触。掻き割られる粘膜の疼き。

 これが夢だというなら、私の今までの人生の方は幻だと言えそう。顔は見えないけど、そこは知った場所だ。校庭。

 校庭の茂みで私は犯されていた。

 見上げた校舎の窓。私は授業を受けていた。

 頭がおかしいと言うならその通りだろうし、夢だと言うならきっとそうなのだろう。

 でも私は今、犯されているのだ。

 誰が救えるだろう。この剥奪。この陵辱。人としての尊厳を踏みにじられて、甘い痛みに頭の芯から掻き乱される不愉快。

 きっと壊れてしまうほどに。

 見上げた空に虹が見えた。

 揺れる。

 顔が見えた。

 私を犯している。彼らの顔が。

 彼らは私の友達だった。

 私の彼氏だった。

 彼らは私を犯し続けていた。

 私で自我の欲望を満たし、私の価値を消費し、私の愛を嘲笑った。

 虹が揺れる。

 殺そう。

 虹の下でぜんぶ殺そう。

 私を消費し、奪うだけの人間を殺しつくそう。私に笑むことを望み、私の奉仕を求め、何も与えずに救わない彼らを、虹の下で殺そう。

 その時きっと、私は。もう犯されることもなく、心から泣けるのだ。

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