第二砕目 パワー系にガン振りでした
俺がこの世界に落ちてきて、サーナたちに拾われてから今日で4ヶ月になる。
この世界【フェルサウィース】での生活にもだいぶ慣れた。
ザ・ファンタジーなこの世界では、最初はいろいろと驚かされたものだ。
その中でも特筆すべきは魔法の存在だと思う。
流石ファンタジーの世界だ。普通に魔法が存在している。
ちなみに俺は魔法が一切使えなった。理由はあとでわかるだろう。
最初はせっかくの異世界ロマンが!とか思ったけどもう吹っ切れた。
というかそれどころっじゃなかった。
まぁ、そんな風に色々ありつつも4ヶ月間頑張って働いた結果、やっと旅に出る準備ができた。
本来ならもっとかかる予定だったのだが、諸事情によりこんなにも短縮できた。
正直これ以上働いてたら労働に楽しさを見出してここに永住しそうだったからホント、ちょうどよかった。
それはともかく諸事情についてだが、それは俺がこの世界に来て1カ月くらいたったときのことだった。
◇
「で、サーナさんや?こんなところで何をするんだ?」
俺はサーナに連れられて村から少し離れたところにある野原にやってきた。
ちなみに俺が落ちていたのもここらしい。めっちゃでかいクレーターあるし…。
これ俺のせいなのか、自分のことながら軽く引くわ。
というより、なんか俺ここ一ヶ月でキャラが若干変わった気がするな…。
まぁ、突如異世界に来たんだからキャラの一つや二つくらい変わるだろう。気にしない気にしない。
「ここに来た理由?そんなの戦闘訓練にきまってるわ!!」
うん、急に何言ってるんだこの女。
出会いの時点でわかっていたが、サーナは時折突拍子もない行動をすることがある。
「グランはいずれ旅に出るんでしょう?ならある程度戦えるようにならないといけないわ!グランがいた世界のことは知らないけど、この世界では危険な魔物がいたりするのよ?最低限身を守れるようにならないと簡単に死ぬわよ。だから戦闘訓練をするの!!」
そうだった、俺は旅に出る予定だったんだ。ワスレテタワケジャナイヨ?
ただ、この一ヶ月の間忙しかっただけだ。うん。
それにしても、戦闘訓練か…向こうの世界だったら絶対経験することはなかっただろうな。ちょっと楽しみだ。
「それもそうだな、じゃあお願いしてもいいか?」
「ええ!任せて!!!!!」
頼られるのが嬉しいのかサーナは満面の笑みだ。
一人っ子だったせいか何かとお姉さんぶりたがるなこいつ。
どうあがいても妹にしか見えないのに。
「まずはどうすればいいんだ?」
「そうね、それじゃあまずはステータスの確認をしましょう!」
「ステータス…?」
RPGでは常識中の常識だが、この世界にもそんなものがあるのか?
「ああ、そっちの世界にはないのね。ん~...じゃあ、グランが出来るかはわからないけどやり方を教えるわね!まず、心の中で【ウィンドウ】って念じるの!」
異世界人にもできるのだろうか…。
とりあえずダメもとでやってみよう。
【ウィンドウ】!!
試しに念じてみると頭の中に画面のようなものが浮かんできた。
「うお!なんか出てきた!気持ちわるっ!?」
頭の中から何かが引っ張り出されるような感覚がする…うれしくない新感覚だな。
「どうやら成功したみたいね!それじゃあ次に行くわよ?頭の中にいくつか項目があるでしょ?その中のステータスってところに意識を向けて今度は【クリック】って念じるの、そうしたらステータスが見れるはずよ!」
今度は【クリック】か…まるでパソコンみたいだな、おい。
それはともかく、ステータス、ステータスっと…あったこれか。
名前や装備など、いくつか項目がある中にステータスという欄を見つけた。
ここに意識を向けて【クリック】だな。
再び心の中で念じると先程とは別の画面が頭に浮かぶ。
どうやらこれがステータスのようだ。
さて、俺のステータスはいったいどんな感じなんだ?
--------------------
グラン=オーガスト(人間)
クラス:破砕者
レベル:1
スキル
金剛力【皆伝】
極・身体強化【皆伝】
格闘術【皆伝】
極・加速【皆伝】
ステータス:
HP・4000
MP・0
攻撃力・∞
防御力・15
素早さ・600
賢さ・60
運・10
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………うむ、なんだこれ?もう一度言おう、なんだこれ???
あきらかにおかしいだろ、レベル1に対してHP多すぎるし、攻撃力にいたってはカンストしてるのか?
その二つに目が行きがちだが、他の数値も色々おかしいな。
この世界のことはあまり知らないとはいえ、これは異常だとわかる。
いや、もしくはこの世界ではこれが常識なのか?それはそれで嫌だが…。
というかMPは0かよ。魔法使えないじゃん、楽しみにしてたのに。
「…どう?ちゃんと見れたかしら?」
しびれを切らしたかのようにサーナが訪ねてくる。
どうやら俺は驚きのあまり長いこと黙っていたようだ。
「あっ…ああ、一応は見れた。……ちょっと気になることがあるから比べるためにも、サーナのステータスがどんな風か教えてくれないか?」
サーナのステータスと比べれば俺のステータスが異常かどうかすぐにわかるはずだ。
彼女に聞いてもいいがまずは自分で確認したい。
「いいけど、気になることって?」
「それは確認が終わったら教えるよ…」
彼女は気になって仕方がないのか、少しそわそわしたまま落ちていた木の枝を使い地面に自分のステータスを書き写していた。
「はい!これがワタシのステータスよ!!」
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サーナ=セラピア(人間)
クラス:祈り子
レベル:12
スキル
回復補助【初】
神への祈り【中】
魔法
ヒール・ゲイン
フレイム・ボウ
アクア・アリエス
ステータス:
HP・80
MP・100
攻撃力・13
防御力・30
素早さ・25
賢さ・40
運・20
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彼女のステータスは俺のよく知るRPGと比べてみても問題のない範囲だ。
やはり俺のステータスが異常なだけだったようだ。
「それでそれで?気になることっていったい何なの?」
「これは実際に見てもらったほうが早いな…。俺も自分のステータスを書くからちょっと見てくれ。」
自分の異常さと、そのことを知らずに目を爛々と輝かしているサーナに苦笑しながら先程の彼女と同じように地面に自分のステータスを書き写す。
「………………なにこれ?」
地面に書いたステータスを見たサーナは驚きのあまりか相当なアホ面を向けながら俺に問うてきた。
ちなみに美少女はアホ面でも美少女だった。世の中って不公平だよね。
「俺に聞かれても知らん。というよりやっぱりこのステータスって異常なんだな…。」
「あたりまえよ、なんなのこれ!?こんなステータス見たことないわよ!!それにこのスキル!【極致】が二つもある上に全部【皆伝】ってどういうことよ!?しかもこれでレベル1って…ああもう!!ホントにわけがわからないわ!」
「おっおい、ちょっと落ち着けって!とりあえず色々聞きたいことがあるから説明してくれ!!」
それから数分の間混乱していたサーナを何とか落ち着かせ、ステータスやスキルについての説明を受けた。
まず、ステータスについてだが、そもそも普通の人間が4桁の数字を出すことはありえないらしい。
普通に鍛えただけでは3桁が限界で、4桁に到達するのはある種の境地に達している【仙人】と呼ばれるような人物だけであるようだ。
そんな【仙人】でも∞になどならないらしいが…。
次にスキルだが、これは各個人の適性や才能、願望などが何らかの能力として発現したものだ。
魔法とは違い、MPを消費することなく使えるのが特徴らしい。
このスキルには階級があり、それぞれ【初】・【中】・【上】となり、さらにそのスキルをある程度まで極めると【皆伝】となるらしい。
【皆伝】になるまでも相当な修練を積まなければならないが【極致】はその比ではない。
それこそ【仙人】級でなければそこに至ることはできない。
【極致】に至ったスキルは頭に≪極≫と付き、再び≪初≫から始まり【皆伝】で終わる。
つまり【極致】【皆伝】がそろった状態がスキルの最高峰なのだ。
「そんなステータスとスキルをレベル1の時点で持っているのがグラン、貴方ってことよ!!」
混乱が収まったことによって、今度はそのすごさに興奮したのかこっちに噛みついてきそうな勢いで捲し立ててくるサーナ。
めっちゃ顔が近い…というか鼻息が荒い…あっいい匂いがする。
「…なるほど、俺はある意味化け物なったってことか」
サーナの顔を押しのけながらそう呟くと、彼女は少し悲しそうな顔をした。
「…グランは化け物なんかじゃないわ!ただ……」
その先の言葉を彼女は上手く紡げないようだ。
それも仕方ない、逆の立場だったら俺もいい言葉は出なかっただろうしな。
「ありがとな。俺は別に気にしてないからそんな深刻そうな顔をしなくていいぞ。…それより、こんなことになった理由ってわかるか?」
露骨に話を逸らしたからか彼女は少し寂しそうな顔をする。
だが気にしていないのは事実なのだから仕方がない、 化け物扱いには元の世界である程度慣れてるしな。
「そうね…断言はできないけど、こっちに来てすぐに死にそうな目にあったからじゃないかしら?さっきも言ったようにスキルっていうのは才能だけでなく願望も形にするの。だからグランの死にたくないって願いに反応して発現したんだと思うわ!見たところ身体強化系のスキルばかりだしね。たぶんステータスも生きることに特化させるために無理やり改変されたのだと思うわ!普通ではありえないことだけど異世界から来た影響かもしれないわね…」
気にするなと言ったから気にしないようにしているのかサーナは普段の調子に戻っていった。
その方がこちらとしてもありがたい、しょげてるサーナはらしくなさすぎて違和感しかなかったからな。
「なるほどな…。このことについても他の異世界人に聞いてみるか。」
「そうね、ワタシたちだけじゃ推論を立てるくらいしかできないもの。今はこれで納得しましょう!わからないことを考えても仕方がないもの!!それより今は戦闘訓練よ!戦闘訓練!!」
そうだった、今日の目的は戦闘訓練だった。驚きすぎてすっかり忘れてた。
あのステータスを見た後だと戦闘訓練をすることに一抹の不安を感じるが、しないわけにもいかない。
ずぶの素人が旅に出るにはこの世界は危険すぎるのだ。
「戦闘訓練って言ってもどうするんだ?サーナと戦うのか?」
「そんなわけないでしょ!さっきのステータスを見たところグランは魔法が使えないし、必然的に近接戦闘でしょ?ワタシは魔法職だから近接戦闘の相手はできないわよ。だから代わりにあれと戦ってもらうわ!」
そう言って彼女が指さした方向を見るとえらく不細工なウサギがいた。
「………ウサギ?」
「あれはフェーブルっていって初心者冒険者が経験を積むためによく狩られるの!弱いんだけど、繁殖力や環境適応能力が高いからどこにでもいるのよ。まさに訓練にぴったりってわけね!村の畑を荒らすこともあるから退治しちゃえば一石二鳥だわ!!」
なるほど…元の世界のゲームでいうスライムみたいな扱いの奴か…。
もう少し可愛かったらペットとして生き延びただろうに…ドンマイ。
というか、なんか俺いいように使われている気がする。
まぁいいか、訓練しないといけないのは本当のことだし。
「じゃあこれを使ってあれを倒してみて!フェーブルは聴覚は鋭いから気をつけてね!」
そう言って手渡された木剣を握りしめ、少しずつフェーブルに近いづいてゆく。
相手がいくら雑魚であれ初めての戦闘だ、緊張で息が荒くなる。
バクバクと脈打つ心臓を鎮めながら獲物へと、一歩ずつ歩み寄る。
まだ気づかれていないようだ。
もう少しで背後をとれる……もうすこしだ………あっ!くそっ。
あと少しのところで枝を踏んでしまった。パキッっとこぎみのいい音が鳴る。
「くそっ!なんて古典的なミスなんだ!!」
後悔しても遅い、フェーブルには完全に気づかれてしまった。
急に現れた侵略者に対してフェーブルは構え、突進を繰り出す。
愚鈍そうな顔に反して中々にすばやい、さすがは強靭な脚力を持つウサギといったところか。
俺はその突進を払うために軽く木剣を横に振った。…そう軽く横に振っただけだったのだ。
だが、俺が想定していたよりも凄まじい勢いと質量をもってフェーブルへと木剣が襲い掛かった。
その瞬間なにが起こったのかというと、爆 発 四 散 したのだ。フェーブルが木剣もろとも…
「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ!?!?!?!」」
結果として俺の不安は的中し、あくる日の昼下がりにフェーブルの血で紅く染まった野原でアホ面をした二人の男女の絶叫が広がっていくことになったのだ。
◇
と、まぁこんなことがあったわけだ。
なぜ、それで予定が短縮されたのかって?
簡単な話だ、武器が必要なくなったのだ。正しくは使うことができなかっただが。
あの後色々と試してみたのだが、どの武器も俺の強すぎる力に耐えきれずに爆散していった…。
実験台となった大量のフェーブルとともに。
……南無三。
そのため、俺の戦闘スタイルは素手での格闘術のみとなった。
格闘術といってもデコピンだけで魔物が塵と化すから名ばかりなものだが。
一ヶ月間は力のことを知らず普通に生活していたのだから当たり前と言えば当たり前なのだが、この異常な力は日常生活に支障をきたすことはなかった。
戦闘時でなければ、ある程度セーブが効くようだ。ホントよかった…。
それと、防具も必要がなくなった。
攻撃力は化け物でも、防御力は一般人並みだから必要なはずだったのだが、どうにもスキルのおかげで防御面でも化け物になっていたようだ。
そのスキルの名前は〈金剛力【皆伝】〉。
このスキルは常時発動型で所持者の肉体を強靭にするらしい。
どれくらい強靭になったかというと、試しに突き刺してみたナイフが折れたり、村一番の力自慢のおっさんにハンマーを使って腕を折るくらいの勢いで叩いてもらったら逆にハンマーが砕けたくらいだ。
そんな感じで武器防具が必要なくなり、旅にかかる経費が予定していた額より少なくてすんだ。
さらに言えば、基本的に魔物を一撃で屠れるので、戦闘訓練が必要なくなったことも大きい。
本来なら最低限、自衛できるようにこの訓練にそれなりの時間をかける予定だったため、大幅に時間短縮ができたのだ。
そういった過程を終えて、つい先程冒険者組合で登録を終わらせた。
どうにもこの世界で旅をするには、この冒険者組合という組織で登録をしなければならないようで、これがなかなか面倒だった。
詳しいことはまた話そう。
まぁ、過ぎ去ったことより、今は旅だ。
やはり異世界での旅というのはワクワクするな。逸る気持ちが抑えきれない。
「よし、それじゃあ旅に出るか!!」
村の皆やサーナとシオンさんにも挨拶はしてきたし、もうやり残したことはない。
あの二人には本当に感謝している。彼女たちがいなければ俺は確実に野垂れ死んでいたからな…。
「それで?まずはどこに向かうのかしら?」
さぁ、出発!と意気込んでいると、ふいに声が聞こえてきた。
その声のする方に振り向くと、旅の装いをしたサーナがいた。
どう考えてもお約束展開だな。
まったく、別れの挨拶を済ませたばかりだというのに…。7
「…そうだな、まずは王都に向かうつもりだ。この国で一番人がいるからな、異世界人もきっといるだろう。」
「あら、何も言わないのね?ワタシが付いていくことに。……実は寂しかったの?」
ニマニマと形容できそうな笑みを浮かべて問いかけてくる彼女に拳骨をしようとして止める。
もしこれが戦闘行為とみなされたらやばいからな。
戦闘では力がセーブできないのだから下手したら小突いただけで死んでしまうかもしれない。
「お前が突拍子もないことをするのはこの4ヶ月でよく学んだからな。帰れって言ってもどうせ聞かないんだろ?シオンさんに許可をとっているなら俺は何も言わない。」
小突くのを止めたことによって行き場をなくした手に諦めの感情をこめ彼女の頭に軽く乗せる、せめてもの意趣返しに彼女の髪をクシャクシャにしてやる。
すごく…サラサラです。
「ちょっと、やめてよ!」
「…本当にいいのか?旅に出たらしばらく帰ってこれないぞ?」
王都に行くまででも半年はかかる。
この国だけでなく、他の国に行くとしたらいつ帰ってこられるかは分からない。
何も言わないといったものの、やはり心配だ。
「いいのよ、拾ったモノの世話は最後までしないとね!それにグランは力が強くても魔法が使えないでしょ?火を起こしたりするのに魔法を使えるワタシがいたほうがいいでしょ!」
俺の手を振り払いながら、サーナがにんまりと笑って言う。
拾ったって俺は猫か何かか…。
正直に言って彼女が付いてくる理由としては薄い。
魔法がなくとも道具を使えばなんとでもなる。
だが、そんなことはお互いにわかっている。
ただもっともらしい理由をつけて納得できればいいのだ。
「…そうだな、お前がいてくれたら便利だな。」
「便利って何よ!まったく!!じゃあ、もう何も問題はないわね?早く出発しましょ!」
自分の言葉を合図にしたかのように彼女はトンッと駆け出した。
俺は一人でないということにほんのりと心の温かさを感じながら後を追う。
これから先、何があるかわからないが彼女と一緒ならきっと楽しい旅になるだろう。
異世界へ行ったらパワー系にガン振りになりました @qdora
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