第一砕目 出会いとスタートです
「…知らない天井だ………」
目を覚ました俺は、一度は言ってみたいセリフを呟く。
どうやら俺は助かったらしい、ここが天国や地獄ではない限り俺は生きているのだろう。
身体も正常に動いている。多少の痛みがあるがそれこそが生きている証明になるから問題ない。
「それで、ここはいったい何処なんだ?」
辺りを見回してわかったことは、どこかの民家の中であるということだ。
木製のタンスやその上に置いてあるぬいぐるみ、淡い色のカーテンなどからどこか生活感があふれている。
空から落ちた後に誰かに拾われたのだろうか?
意識がなく倒れているやつをわざわざ連れて帰るなど物好きもいるものだ。
そんな風に色々と考え込んでいると唐突にドアが音を立てて開いた。
「……うわっ!?生きてるっ!?起きてるっ!?目覚めてるぅぅぅぅぅぅう!?!?おかあさあぁぁぁぁあん!!!!!!」
開いたと思ったドアが大きな音を出して一瞬で閉められた。
語呂よく失礼なことを言いながら ドタドタ と走っていったのはおそらくこの家の住人だろう。
数十秒たった頃、再びドアが開くと、そこには美女と美少女が立っていた。
二人ともかなりレベルが高いな…。
「ホントに目が覚めたのねぇ。よかったわぁ~」
思わず二人に見とれていると、あらあら~ とか言いそうな感じで美女のほうが声をかけてくる。
絹のようなブロンドヘアーに陶磁器のような白い肌、長い睫毛に少し垂れた目、その瞳は宝石のように蒼く輝いている。
瞳から目線を下げ、整った鼻筋を通り、その先にある紅く潤った唇に目が行った。
その唇はそこはかとなく妖艶な雰囲気を持っている。
顔だけでなく、体も均等がとれている。
すらりとした体型をしてはいるが、一部大きい。
だが、下品な大きさではなく、芸術のようなバランスのよさだ。
「ね!!ホントだったでしょ!さっきはすごくびっくりしたんだから!!」
そういいながら ぴょんぴょんと跳ね回る美少女。
年齢は一四歳くらいだろうか。
美女の方と同じブロンドヘアーを後ろに束ねポニーテールにしている。
肌は白いが健康的でどことなく活発的な印象を与える。
顔立ちは美女の方と似通っているが、目は垂れておらずキリッとしている。
唇は美女のような妖艶さはないが、口からちらりと除く八重歯がかわいらしい印象を与える。
体つきは引き締まっているが、やはり一部大きい。
美女のほうよりは小さいがそれでもかなりのモノだ。ぴょんぴょんと跳ねるものだからなかなかにけしからんことになっている。
「それで、身体のほうは問題なぁい?」
一部問題があります!主にそこの美少女のせいで!!
……男ってホントバカ。
とはいえそんなことを申告するわけにはいかない。
「…ええ、多少痛みはありますが問題ありません。えっと…貴女たちが助けてくれたのでしょうか?」
「ん~、正確に言うと娘が倒れてたあなたを連れてきたのよねぇ~」
なるほど、俺はそこの美少女に助けられたらしい。
どうやら彼女が散歩をしていると突然大きな音がしたらしい。
何事かとその音の方向に行ってみると大きなクレーターの中に俺が埋まっていたようだ。
クレーターができるくらいの高さから落ちたのか…俺。マジでなんで生きてるんだろう・・・。
というか、よくそんな奴を家に連れて帰ろうと思えたなぁ。
「君が助けてくれたんだな。ありがとう…」
娘の眼を見て礼を述べる。
人と話す時はしっかりと眼を見るっておばあちゃんがよく言ってた。
いや、おじいちゃんだったかもしれない…?どっちでもいいか。
しかし、本当に綺麗な眼をしている、思わず吸い込まれそうだ。
「いいのよ!気にしないで?困った時はお互い様ってやつよ!」
そう言って彼女はにっかりと笑った。
クレーターの中にいる得体の知れない俺を家まで連れてきた事といい、中々に豪胆な性格なのだろう。
少し無防備すぎる気がしないでもないが、その性格のおかげで助かったのだからありがたいことだ。
「説明もあらかた終わったことだし、自己紹介をしましょうかぁ~」
パンッ と手をたたくと美女のほうがゆったりとそう言った。
「ああ!!そういえばすっかり忘れてたわね!ワタシの名前はサーナ!サーナ=セラピアよ、よろしくね!」
「私はサーナの母親のシオンよぉ、それで、あなたのお名前は?」
親子の対称的な自己紹介を受けながら思ったことを言おう。
母親めっちゃ若い?姉妹といわれても違和感がない…。
これが美魔女というやつなのだろうか。
とりあえず、そんな思考を片隅に追いやりつつ、俺も自己紹介をしよう。
「ああ、俺は…………?俺の名前は……!?!?」
なぜか名前を口に出すことができない。
何度試してみても喉から先に出てこない。
まるで何者かに押し込まれているような錯覚を覚える。
「…どうしたの?まだどこか調子が悪い?」
サーナが心配そうな表情で聞いてきた。
「名前が……名前が出てこないんだ。こう…喉に詰まっているような感じがして」
俺の発言を聞いたサーナとシオンは少し考えるそぶりを見せた後、何か思い当たることがあるのか顔を見合わせて頷いた。
「もしかしてあなた、〈真名〉を言おうとしてなぁい?」
「…マナ?」
某カードゲームでモンスターを召喚するためのコストのことじゃないのは確実だが。
むしろそうだったら今の現状を夢と断定して目を覚ますことに専念するまである。
「ええ、真実の名前と書いて〈真名〉。自分の魂そのものよぉ」
シオンの説明によると、この世界では生まれた瞬間に魂に〈真名〉が刻まれるそうだ。
〈真名〉とは神の祝福であり、魂と自分を繋ぐための
だからこの世界では自分だけが知っている〈真名〉と日常で使用するための〈仮名〉がある。
どこぞの双子タレントみたいだなとか思ったのは秘密だ。
というか、薄々そうだろうとは思っていたが、本当に異世界だったとは…。
しかも、「〈真名〉を知らないということは、君は異世界人ってことね!!」ってダメ押しといわんばかりに言われたし。
「噂には聞いてたけど本当にいるのね、異世界人って!あんなところに倒れてたからそんな気はしてたけど」
クレーターに埋まってる状態を倒れたと言っていいのか?
それはともかく、どうにもこの世界では異世界人という存在は割と有名らしい。 毎年何人かの異世界人が迷い込んでくるようだ。
俺以外の異世界人がいると知って少し安堵した。もしかしたら同郷の者もいるかもしれないし、元の世界に戻る方法を知っている奴がいる可能性もある。
サーナたちは異世界人についてそこまで詳しくはないようだし、探すために旅に出るのもありだろう。
そう考えていたら突然サーナが「よしっ!!」と大きな声を上げた。
耳が痛いぞサーナ…。
俺が考え事をしてるといつも大きな音で邪魔されてる気がする…。
「君に名前をつけよう!!」
「はぁ…名前?」
「そうよ!いつまでたっても君とかあなたじゃ不便だもの!!だからワタシが君に〈仮名〉をつけてあげる!」
ふんすっ!とでも言いたげに胸を張るサーナ。正直、眼福です。
オトコノコの思考は置いとくが、確かに名前がないのは不便だし、名前をつけてくれるのはありがたい。
飼い犬にゴンザレスと名付けようとしたらねーみんぐセンスが皆無だと言われた俺には自分の名前を付けるのは荷が重い。
「あ~…じゃあ頼む。だけど、あまりセンスがないのは簡便してくれよ?」
「任せなさい!!心配せずともとびきりかっこいい名前を付けてあげる!!」
硬く目を閉じ、腕くみをしながら考え込むサーナ。腕を組んだことによって豊満な果実が持ち上がりやばいことになっている。
そのせいで俺もやばいことになっている。
さっきからずっとこんな感じだな俺…。
それはさておき考えること数分、サーナの眼が開く。
「グラン……グラン=オーガストなんてどう??」
グラン=オーガスト、何の因果かその名前は〈真名〉である【葉月陸】そのものだった。
あまりにもぴったりと当てはまるこの名前に運命と、若干の恐怖を感じえない。
彼女のあの綺麗な瞳に自分をすべて見透かされた気がした。
いや、きっとただの偶然だろう。
なんにせよ、俺の名前が決まった。
「グラン=オーガスト、いい名前だな。ピニャコラタ=デンガクとか覚悟してたけどまともでよかったよ」
「何その名前!?まぁ、気にいってもらえたようで何よりだわ!!じゃあ改めて、よろしくねグラン!!」
「こちらこそよろしく、サーナ」
やはり、俺のネーミングセンスは壊滅的だったらしく、二人して笑いながら握手する。サーナの手はすべすべとしていて心地がよかった。
そうしていると、横からコホンッっと咳払いが聞こえる。
「お母さん、忘れられて寂しいわぁ~」
「すみません、忘れてはいなかったのですが…。シオンさんもよろしくお願いします。」
よよよ、とわざとらしい演技をしているいるシオンとも握手をする。
うむ、こっちもすべすべ。
「それで、グラン君はこれからどうするのぉ?」
「……どうしましょうか…同郷の者を探しに旅に出ようかと思ってはいるんですが…」
だが、これには問題がある。
「旅に出るっていってもどうやって?お金もないのに?」
そうなのだ、旅に出るにしても装備もなければお金もない、このまま旅に出たら野垂れ死に確定コースだ。
「じゃあ、しばらく家にいなさい?もちろん働いてもらうけど、そのお金で装備を買ったりすればいいのよ!!」
とんでもない発言をするサーナ。
流石にろくに素性がわかってない奴に対して無防備すぎる。
思わず断ろうとするが、
「あらあら~そうねぇ。それがいいわぁ~」
とシオンも賛同してしまったのだ。
本当にあらあら~と言った…。
いや、そんなことはどうでもいい。
先程は断ろうとしたが、正直この申し出はすごくありがたい。娘だけでなく親の賛同も得られたのなら、こちらが断る必要もないだろう。
「それじゃあ、ようこそ!セラピア家へ!!歓迎するわグラン!」
サーナのまばゆい笑顔とともに、とんとん拍子のご都合主義による俺の異世界生活はスタートした。
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