異世界へ行ったらパワー系にガン振りになりました

@qdora

第零砕目 プロローグ

 唐突だが俺は今、落ちている。

 崖から滑り落ちたとか、落とし穴に嵌ったとか、ましてや飛び降り自殺をしたなどではない。

 足 元 に 急 に 穴 が 開 き 落 ち て い っ た の だ。

 うん、わけがわからない。

 一回冷静になって状況を整理してみよう。

 

「今日は高校の卒業式だった。卒業式が終わって特に何事もなく俺は家に帰っていったな、ここまではOKだ。そして帰り道の途中で、空が青いなぁとか思っていたら急に浮遊感が襲ってきた。しばらく唖然としていたが、空がだんだんと小さくなっていくことから落ちているのだと推測。そして今も落ち続けている」


 声に出して状況整理したものの、やっぱりわけがわからない…なんだこれホント…

 しかもこの穴、めちゃくちゃ深い。かれこれ30分くらい落ちていているが底に着く気配すらない。

 最初のうちは「うわああああああああ」とか悲鳴上げてたけど、今はそんな気すらしない。むしろなんか楽しいくらいだ、空中浮遊してたらたぶんこんな感じなんだろう。

 そんな風に軽いどころじゃない現実逃避をしていたら、暗かった世界に光が差してきた。


 「はあぁぁぁぁぁぁ…やっと出口なのか?」


 やけに冷静に聞こえるだろうが、人間一周回るとこうなるだけだ。俺の頭がおかしいわけではない、断じて。

 精神が壊れる前に出口があってよかったとか、どこに出るんだろうとか、その他もろもろの感情を覚えながら俺は終点へと排出される。

  暗黒世界から産み落とされた俺の眼に写った記念すべき第一号の景色はとても馴染み深いものだった。というかついさっきまで見てた、具体的に言うと40分くらい前に。

 その景色の名前は「空」だ。碧く澄み渡った空がすごく近くにある。

 こんな時でなければ感動の一つでも起きるのだろう。だが、俺の頭の中では一つの事実でいっぱいでそれどころではなかった。


 「また…………落ちるのか」


 俺のつぶやきは雄大な蒼空そらへと消えてゆく。

 落ちる分にはいい、いやよくはないがさっきまで落ちていたことを考えると誤差だ。問題なのは空があるということだ。

 〈空がある=地面や水面がある〉これは世界の常識だ。

 さっきその常識に裏切られた奴がいうことではないが、同じことが二度起こるとは思えない。

 つまり、俺が落ちた先には何らかの物質がある。今の高度はわからないが、たぶんかなり高い位置にいるはずだ。そんなところから落ちているのだから先にある物質が何であれ俺の体は衝撃に耐えられないだろう。つまり俺は死ぬ。

 事実確認したら急に怖くなってきた。マジで怖い助けてヘルプ…

 同じ落ちているといってもさっきまでとは状況が違う。未来がわからなかった先程より、ほぼ確実に死ぬことがわかっている今のほうが怖いのは当たり前のことだろう。そんな当たり前なことがわからない奴は俺と同じ体験をすればいい。やり方は知らないが。

 またもや現実逃避をしていたがそれももう限界だ。俺の心は許容量を超えた恐怖に塗りつぶされていく。心を塗りつぶした恐怖は身体を満たし、外へと出ようとしている。溢れ出るものを無理やり押さえつける必要はない、だから俺は口という蓋を開け恐怖を外へと吐き出す。

 次の瞬間俺がとる行動はとても予想しやすいだろう。予想できた皆さんはご一緒に、せーの!


 「うわああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」


本日二度目の大絶叫を繰り広げながら俺の意識は途絶えた。

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